No.103

  メキシコ国境での国境パトロール隊員による殺人


テキサス州エルパソ市とメキシコのホアレス市とが、北と南で隣り合っている。

2つの間を隔てるのは、180フィートというから、
50メートル余りの窪地
(リオグランデ川の暗渠で、その中心線が、目には見えないが、両国の国境線に当る)。

そこでの国境パトロール隊員メサ
(Jesus Mesa)氏によるメキシコ少年(15歳)の殺人事件が、
目下、アメリカ合衆国最高裁で争われている。

事件が起きたのは2010年の夏のことである。
そこには、リオグランデ川の窪地をまたぐ鉄橋が架かっており、
鉄橋からは、これまた大きなコンクリの支柱が下に向って立っていて、鉄橋を支えている。
この国境を跨ぐ窪地に入って鬼でっこみたいにして遊んでいた少年らの内の1人、
ヘルナンデス
(Sergio Hernandez)は、パトロール隊員から逃げるのが遅れ、
隊員から約60フィート(18メートル)ほどの橋桁の陰に隠れていて、
顔を覗かせたところを、隊員により3発撃たれて、3発目が頭に当り、死亡した。

その隊員は、合衆国入管当局による取り調べは受けたが、
訴追されることも、譴責されることもなく、放置された。

一方、少年ヘルナンデスの遺族がテキサス州内の地裁へ訴え、
第5控訴裁判所を経て、最高裁に来た。2月21日に弁論が行われたが、判決は延ばされた。
少年の父は、メキシコの法廷に訴える手もあったろう。
しかし、被告がアメリカの公務員と、その役所であり、
アメリカの法廷に訴えたのは、その方が手っ取り早いと考えたからとも言えよう。
ただし、それでも法律上は大きな問題が横たわる。

引き金を引く行為は、アメリカ国内であるが、
結果の発生は、また侵害された生命は、国境の外にある。

少年の代理人弁護士によるアメリカ合衆国憲法違反との主張を実体法上の問題として判断するにも、
司法権が国外にまで及ぶのか、という手続法上の問題が未解決のまま持ち越された。

最高裁判事らが懸念するのは、判断理由の広がりである。
たとえば、ネバダ州の本部から操縦するドローンが、イエーメンで人を殺したとして、
イエーメンからの事件がアメリカの最高裁に来た時のことである。


                                  2017年3月14日