No.10
              
アラブの春とオバマ大統領


2013年、シリア政府が反政府勢力との戦闘に毒ガスを使用したらしいとの記事が流れた。

かねてからオバマ大統領は

「毒ガス使用などと言うのは、見過ごせないルールブック違反、赤線を越える行為だ…」、
「アメリカは、赤線を越えるものに対し行動する」

と述べていたが、オバマ大統領は動かなかった。


さて、3月10日のNPRは、大統領の最近の考えを、
雑誌アトランティックから次のように伝える。

「アメリカの国防省、国務省などの本には、世界その他の地域に対すると同じく、
中東地域の平和につきアメリカが責任を持つことを前提にした戦略が描かれている。
にもかかわらず、オバマ大統領が動かなかったことにつき、
アメリカの朝野をあげて、批判・非難が巻き起こった…」、

この対応につき、
「大統領は、弱腰だ。これでは世界中からアメリカに対する信頼が失われる」
などと轟々の非難を浴びた。

しかし、オバマ大統領はこの点で、これに賛成しないどころか、
同誌のJeffrey Goldberg氏に対しこう言ったという。

「シリアに介入しなかったことが大成功だった…誇りに思っている。
むしろ反対に、自分はテロリストの大ハンターだと考えている
(ビン・ラディン、アフガニスタンなどの例を引く)。
先週もソマリアで、ドローン攻撃により、150人のテロリストを殺したように、
7,8か国でテロリストをやっつけてきている。
それでも、シリアに介入しない、イランとは協定を結ぶ…」


以上からJeffrey Goldberg氏は、こう推論する。

大統領は、かつては中東をより良いところにできる、
つまりアラブ世界も西欧流に引き寄せられると考えていた。
だからこそ、早い時期にカイロに行き、イスラム世界との関係とのresetを想定した話をしていた。

その頃は、そこで起き始めていた「アラブの春」に対しても、期待を抱いていた。
しかし今は違う。

中東のファンダメンタリズムと部族主義(tribalism)は強すぎて、
この問題の解決は、そんなに簡単には行かない。

それには世代単位の時が必要だ(generational problemだ)。
それを作り直そうと、アメリカが手を出すのは、愚かなことだ。 

                                 2016年3月11日