鳥羽で大型草食恐竜の化石

1億年前「竜脚類」後足の骨

三重県鳥羽の海岸で発見1996年9月6日中日新聞)

さらに3化石.全身解明へ期待

鳥羽市の海岸で発見された竜脚類恐竜の

後ろ足の化石(津市の吉田山会館で)

見つかった竜脚類の骨格(想像図)

今回発見された部分

三重県鳥羽市安楽島(あらしま)町の海岸で、化石研究家の4人グループが5日までに、中生代白亜紀前期(1億4千4百万年前〜9千7百万年前)に生存した竜脚類の恐竜の後脚すね部分の骨の化石を発見した。全長16メートル前後の大型草食恐竜とみられ、近くの岩肌でも、少なくとも3つの骨の化石が確認されており、国内で初めて竜脚類の化石がまとまって発見される可能性が高い。中国や日本の恐竜学者は竜脚類の全身解明につながる発見と見ており、遅れている日本の恐竜研究を大きく前進させそうだ。

全日本道路地図(昭分社)より

見つかった化石は、長さ37cm、幅38cm、最大周囲90cm。黒光りし、一見、けいか木のよう。重さは約35kg。

県は世界でトップクラスの恐竜研究家で、中国科学院古脊椎(せきつい)動物・古人類研究所の董枝明(ドン・チミン)教授(59)に鑑定を依頼。その結果・全長約90cmある、けい骨とひ骨の上部の一部分・筋肉のつく関節部分の溝の形態などやけい骨の大きさなどから竜脚類の大型草食恐竜と分かった。このため県は「大型化石発掘調査団」(団長・北川正恭知事)を組織し、本格調査に乗り出した。

調査団顧問に就いた徳島県立博物館長亀井節夫京大名誉教授は5日、記者会見し「個人的な考えだが、国内では未発見のカマラサウルス科の仲間で、全長15〜16メートルの巨大恐竜だと思う」と話した。

また、すぐそばの岩肌でも、発見された化石と接続すると見られる、けい骨の下部分の化石を確認。そのほか、2つの化石があり、これはけい骨の上にある大たい骨、骨盤の可能性があるという。

調査団は、今後の発掘で背骨や歯の化石などを見つけ、恐竜の全身骨格の解明や日本列島の生い立ちにも迫りたい考え。

恐竜研究で全国的にも有名な東洋一・福井県立博物館主任学芸員は化石など現場の写真を調べ岩の中には、さらに多くの化石がありそうだ。太平洋側での発見は、日本列島とアジア大陸の恐竜の移動、進化の解明の手がかりとなる」と言っていた。


「極めて貴重な発見」恐竜研究第一人者。中国の董枝明教授

(1996年9月6日中日新聞)

今回発見された化石を鑑定した中国科学院古脊椎(せきつい)動物・古人類研究所の董枝明教授=写真=は恐竜研究の世界的権威だ。「現場は恐竜研究をするうえで将来性があり、極めて重要だ」と、中日新聞社の取材に応じ熱っぽく語った。

董教授は7,8両日にも現地調査に入ることを明らかにするとともに「鑑定した竜脚類の後脚の骨は、とてもきれいで保存状態がよい。この種の化石は岩手県や福井県でも多数見つかっているが、国内で発見された中では最大級」とし、恐竜研究に欠かせない頭部や歯の発見に期待を寄せた。


白亜紀−大陸と陸続き日本−かっ歩する恐竜たち

(1996年9月6日中日新聞)

広大な陸地には大小さまざまな湖や沼があり、無数の川が流れそんな中を恐竜はかっ歩していた−。今回竜脚類の化石が見つかった白亜紀前期を、恐竜研究者らはこう想像する。

「手取層群の恐竜」

福井県立博物館発行

気が遠くなるような1億4千万年前から1億年前のこと。研究者らの考えをもとに当時を再現してみる。

日本列島は、まだ島ではなく、アジア大陸の東の外れ。大陸の縁には原形ができたが、ほとんどは浅い海の底。気温は沖縄くらいの温かさ。寒さと暖かさが繰り返し、今よりは乾燥していたようだ。まばらに生えた林には、シダ植物や裸子植物があった。

草食恐竜は、これらの植物を食べ、川や湖は大切な水飲み場に。天敵はどう猛な肉食恐竜。生きていくうえで、互いに争う光景も。

恐竜研究者らは今回の発見で、これらの再現がより事実に近づき、何より、太平洋側での発見で日本列島の生い立ちにも迫りたい考えだ。


転がっていた"大発見"

鳥羽の竜脚類化石(1996年9月6日中日新聞)

黒潮洗う太平洋側の波打ち際で何気なく転がっていた石は、太古のロマンを秘めた大型恐竜の化石だった。

三重県が5日、鳥羽市安楽島(あらしま)町の海岸で竜脚類と見られる恐竜の化石が発見されたと発表したニュースは瞬く間に関係者に広まった。驚きを語る発見者、新たな発見に意欲を見せる研究者、地元の活性化に期待を寄せる観光関係者...。誰もが恐竜世界に思いを巡らした。

「恐竜?」「まさか」

一日の大半海面下の現場。4人組思わぬ幸運

白亜紀前期の恐竜化石が見つかった現場

(中央の岩壁付近)=三重県鳥羽市で

「まさか恐竜の化石が本当に見つかるとは」−。三重県鳥羽市の恐竜化石の発見現場は、1日のうちの大半、海面下に姿を隠す岩場。探せる時間は、干潮時のわずか数時間という場所だ。自然のいたずらが「現場に転がっていた」という貴重な化石を人目から守っていた。その発見者は地元三重や大阪など4府県4人のアマチュア化石研究家たち。うち会見に出席した2人は緊張しながらも驚くほどあっけない発見劇を振り返った。

記者会見に出席したのは4人のうち藤本艶彦さん(41)=岐阜県大垣市=と高田雅彦さん(33)=大阪府寝屋川市。発見現場には、多くの研究者や化石愛好家が「恐竜の化石が見つかるのでは」と期待を寄せる松尾層群が走っている。高田さんは2年前に一度、現地を訪ねたが、満潮時で近寄れず、伊勢神宮を参拝して帰ったという。藤本さんはこれまでに5回、調査している。

発見した今年7月14日は、「大勢ならいいことがありそう」(高田さん)と初めて4人そろって調査に出掛けた。高田さんは、以前に海トカゲの「モササウルス」の化石を発見したことがあるが、今回は2枚貝の化石を狙っていたという。

海岸沿いを歩き始めて2,3時間、高田さんが海食洞近くの約1メートルほどの範囲に化石と見られる岩3個が転がっているのを見つけた。木の化石と考えた高田さんに藤本さんが「恐竜」と指摘。高田さんは「冗談と思い笑ってしまった」と振り返る。

しかし「なでまわしているうちに木ではないと思い始めた」と高田さん。「大発見になる...」と4人で化石を現場の砂に埋めて保存。その日は喜びで舞い上がり、他には何も採取せずに、伊勢うどんを食べて帰った。同月21日に三重県教育委員会に連絡。その後の同県教委などの調査で、恐竜の骨の一部と判明した。

C・W・ギルモアによる竜脚恐竜カマラサウルス

の模型=D・F・グラッド著の恐竜図解事典から

 

20歳の時に偶然、2枚貝の化石を拾ったのがきっかけで、化石にとりつかれた高田さん。思わぬ大発見に「子供たちに夢を持ってもらえるきっかけになれば」。藤本さんは「もともと昆虫が好きで、昆虫がどのように日本に渡ってきたのかと化石に興味を持った。まさか私が恐竜とかかわるなんて...」と驚いた。また仕事の都合で会見に出席できなかった三重県名張市の谷本正浩さん(43)は「10年計画で探せば、と思っていたが意外と早く見つかった。海外の標本と比較するなどして、しっかり研究したい」と話していた。


鳥羽の恐竜化石,一体分まとめて出土

アジア最大マメンチサウルスか(1996年9月14日中日新聞)

恐竜化石の発掘現場で説明する亀井京大名誉教授

約1億年前の中生代白亜紀前期の恐竜化石が見つかった三重県鳥羽市で発掘調査を続けている同県大型化石発掘調査団(団長・北川正恭知事)は14日、これまでの調査で既に判明していた頚骨(けいこつ)のほかに、首の頚椎(けいつい)や肩甲骨、上腕骨、大たい骨など一体分のまとまった恐竜の骨を確認したと発表した。中国で発見されたマメンチサウルスと同類の恐竜の可能性が強いとされ、調査団顧問で徳島県立博物館の亀井節夫京大名誉教授は「一体分の恐竜がまとまって出るのは日本で初めて」と話している。

この中間報告によると、現場から見つかったのは脊椎(せきつい)骨の一部の頚椎3個、頚椎の下部にある頚棘(けいきょく)3個以上、上腕骨1個、大たい骨1個のほか少なくとも6,7個の骨片の化石。

これらは東西約13メートルに分布。西に頭部、東に尾部があることから「一頭分の恐竜の骨がまとまってあった可能性が高い」と分析された。さらに、頚椎の化石は長さ約70センチと細長い特異な形状であることから、竜脚類の中でももっとも頚部の長いマメンチサウルスか、その仲間ではないか、とされた。

首の部分先端の3分の1や、尾部も一部を残して失われていると見られる。

マメンチサウルスはジュラ紀後期から白亜紀前期に生息していた全長22から25メートルの首の長い竜脚類。アジア最大の恐竜といわれる。頭骨は体に比べて非常に小さく、また、首の長さは全長の半分ほどもある。水陸両生で、水辺の植物を食べていたという。体重は40から50トン。

日本では、昭和53年、岩手県の岩泉町で、白亜紀の地層からマメンチサウルスのものと見られる前足の骨の化石が発見されている。

最近の研究でマメンチサウルスはアジア特有の新しい種類であることも分かってきた。

現場の鳥羽市安楽島(あらしま)町では調査団が正式に発足した9月5日から地質調査と発掘作業を行っていた。最初に見つかった化石は恐竜の後ろ足のすねの部分で、「竜脚類の大型草食恐竜」と鑑定されていた。

これで発掘・調査の第1段階は終了するが、10月末まで発掘調査、12月末まで地質調査を続け、現場の保存処理などを経て来年3月ごろには報告書をまとめる。発掘調査団は22日に鳥羽市内で今回発掘された化石を展示しての説明会を催すことにしているが、場所、時間は未定。


恐竜化石大きさ実感(1996.9.23中日新聞)

鳥羽で一般公開

大型恐竜マメンチサウルスと見られる化石群が見つかった三重県鳥羽市で22日、調査団の中間報告会が開かれ、化石の一部を初めて一般公開。約600人が詰め掛け熱心に見入った。同市民体育館での報告会では、これまで見つかった約600個の化石のうち長さ127センチにもなる肩甲骨などを展示。また調査団顧問の亀井節夫京大名誉教授が、発掘結果を披露した。


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