●新生エムトゥーメの終焉

エムトゥーメは、新生エムトゥーメ(グループ)の活動と並行するかたちで、ヴィブラ
フォーン奏者のロイ・エアーズ、最新の電子楽器を使用した音楽を早くから自分の音楽
に取り入れていたベース奏者のタイロン・ブランソン、ヴォーカル・グループのラヴァ
ートなど、他のシンガーやミュージシャンのプロデュースを積極的に行っている。それ
らのプロデュース作品に、エムトゥーメは新生エムトゥーメ(グループ)のキーボード
奏者のフィリップ・フィールズ、初代エムトゥーメ(グループ)時代から付き合いの深
いギター奏者のエド・ムーア、加えてコーラスにタワサと、メンバーを引き連れて参加
している。従ってこれらのアルバムのサウンドは、新生エムトゥーメ(グループ)と殆
ど同じといってよい。新生エムトゥーメ(グループ)のアルバムとして聴いたとしても
、それなりに通用してしまうような、共通したサウンドをもっている。
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■Roy Ayers / You Mmight Be Surprised
 ヴィブラフォーン奏者ロイ・エアーズの1985年のアルバム。
 サウンドは完全にエムトゥーメ(グループ)。後にヒップ
 ・ホップで盛んにサンプルされるボビー・ハッチャーソン
 の《モンタラ》のサウンドを先取りしていたのでは。

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■Tyrone Brunson / Love Triangle
 オシリスというファンク・バンドのベース奏者だったブラ
 ンソン。エムトゥーメと同じように、早くから電子楽器を
 取り入れたファンクに挑戦していた。エムトゥーメ一派が
 全面協力した、アーバン・ファンクなサウンドがイイ。

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■Levert / Bloodline
 オージェイズのエディ・リヴァート(プロデュースも担当)
 の息子2人を含むヴォーカル・グループのメジャー・デビ
 ュー・アルバム。エムトゥーメは、グループのメンバーを
 引き連れ《ファスシネーション》など2曲をプロデュース。

この頃から新生エムトゥーメ(グループ)も自然解体にむかったようだ。しかしエムトゥ ーメは、タワサ、フィールズ、ムーアの3名に、新生エムトゥーメ(グループ)の最後の アルバム『シアター・オブ・ザ・マインド』に参加していたサックス奏者のヴィンセント ・ヘンリーとドラム奏者のロジャー・パーカーを加えた編成でグループを継続していった ようだ。80年代後半になると、エムトゥーメはタワサや息子のグループなど、自分に近い 人達のプロデュースを行っている。エムトゥーメがプロデュースしたのは、タワサのソロ ・アルバム『ウェルカム・トゥ・マイ・ドリーム』、息子ファウラ・エムトゥーメが参加 したヌ・ロマンス・クルーという3人組のヴォーカル・グループの『トゥナイト』という アルバムである。双方のアルバムともエムトゥーメが全面的に関わっており、フィールズ とムーアもいつもどおりサポート(場合によっては実質的なプロデュースも)している。
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■Mtume / Theater Of The Mind
 新生エムトゥーメの3枚目にして最後になったアルバム。
 アーバンでエロチックな雰囲気より、ファンクが前面に押
 し出されている。アフリカン・アメリカンとしての音楽を
 追求してきたエムトゥーメの一つのの到達点のように思う。

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■Tawatha / Welcome To My Dream
 エレクトロなサウンドのセクシーな《タイ・ライド》で
 始まるエイジーのソロ・アルバム。エムトゥーメがプロ
 デュースなど全面的にバックアップしている。《ディド
 ・アイ・ドリーム・ユー》は素晴らしいパフォーマンス。

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■Nu Romance Crew / Tonigt
 エムトゥーメは、息子のグループも全面的にバックアッ
 プ。タイトル曲の《トゥナイト》は、エムトゥーメらし
 いスロウな曲。《ライク・ギリガン》は、当時流行して
 いたロックとラップを合体させた曲。

『シアター・オブ・ザ・マインド』で、再び黒人の日常生活の感覚を強くうちだしたエム トゥーメだが、タワサおよびヌ・ロマンス・クルーのアルバムでは、その方向をより推進 しているように感じる。タワサのソロ・アルバム『ウェルカム・トゥ・マイ・ドリーム』 は、『ジューシー・フルーツ』や新生エムトゥーメの2枚目のアルバムの『ユー、ミー・ アンド・ヒー』の系統に連なるようなアーバン・セクシー路線の音楽を展開。エムトゥー メによれば、セックスは黒人の日常生活の大きな関心事ということでアーバン・セクシー 路線の音楽を推し進めたらしい。それでもエロが前面に出たような下品な音楽にならない のは、ひとえにアレサ・フランクリンなどのバック・コーラスなどで培ってきたタワサの ヴォーカリストとしての実力によるものであろう。タワサの抑制された表現によって、ア ーバンな香りが漂うセクシーな音楽になっているのだと思う。
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■Aretha Franklin / Jump To It 
 ”レディ・ソウル”、アレサ・フランクリンの、80年代を
 代表するアルバム。プロデュースのルーサー・ヴァンドロ
 ス、およびマーカス・ミラーが共作したタイトル曲などで、
 タワサの素晴らしいコーラスが聴ける。

一方、ヌ・ロマンス・クルーの『トゥナイト』はタイトル・トラックこそエムトゥーメが 得意とするアーバンでスローな曲だが、《ライク・ギリガン》は完全にラップ・スタイル の曲となっている。黒人のラップ・グループがメジャーになったのは、1986年(『トゥナ イト』リリースの前年)に、ラン・D.M.C.がロック・グループのエアロスミスをカヴァー した《ウォーク・ディス・ウェイ》のヒットによるものと記憶する。エムトゥーメも、自 らのグループの『シアター・オブ・ザ・マインド』でラップを試していたが、《ライク・ ギリガン》は、自分の息子の世代の黒人にとって一番身近な音楽スタイルであるラップの グループを本格的にエムトゥーメがプロデュースした事例となった。自らの息子を含んだ グループではあるが、ヌ・ロマンス・クルーはそのような事例として記憶にとどめたい。 そしてエムトゥーメは、さらにストリート感覚溢れる音楽に近づいて行くのである。
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■RUN D.M.C. / Raising Hell
 エアロスミスの原曲そのものがヒップ・ホップのテイスト
 を持っている曲といえるが、ラン・D.M.C.は原曲のエッセ
 ンスを上手く使い新しい《ウォーク・ディス・ウェイ》と
 ロックっぽいヒップ・ホップ・サウンドを創りだした。

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