●黒人意識を再び強くうちだすエムトゥーメ

メンバー個人の活動が活発化して、初代のエムトゥーメ(グループ)は発展的な解散にい
たった。エムトゥーメは、タワサを残してグループのメンバーを一新。エレクトロニクス
の無機質なグルーヴをうまく活用して、アーバン・セクシー路線を前面に打ち出した音楽
を作るようになる。その路線での最初のシングル《ジューシー・フルーツ》は、全米ブラ
ック・チャートで8週連続No.1という大ヒットを記録。新しい路線の音楽が成功を収めた
ことにより、エムトゥーメの自信につながったのか、続く2枚目のアルバム『ユー、ミー
・アンド・ヒー』では、《ジューシー・フルーツ》のようなセクシーでアーバンな雰囲気
を、より徹底させている。三角関係を歌ったタイトル曲の《ユー、ミー・アンド・ヒー》
は、ブラック・チャートで2位の連続ヒットとなった。しかしエムトゥーメのクリエイテ
ィヴな前進は、そこにとどまらなかった。
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■Mtume / You Me And He
 アーバン&セクシー路線がより徹底された印象を受ける、
 新生エムトゥーメ(グループ)のセカンド。ファンクな
 リズムに、ジャズのサックス・ソロやサックス・セクシ
 ョンをかぶせたラストは、なかなか面白いタイトルの曲。

次作のアルバム『シアター・オブ・ザ・マインド』で、新生エムトゥーメ(グループ)は さらに前進を見せる。このアルバムは、エムトゥーメというミュージシャンを考える上で 実に興味深いアルバムだと思う。音楽的には、《ジューシー・フルーツ》で確立したアー バン&セクシー路線から、最新のテクノロジーを使用したエレクトロ・ファンクへ路線を 修正しただけのように映る。しかしそれは、初代エムトゥーメ(グループ)の、ロック色 の濃いファンクに戻ったわけではない。80年代は、R&B業界にとって受難の時代だった と言われている。レコード会社主体の音楽ビジネスのなかで、R&Bチャートでトップ10 に入るヒットを飛ばしても、全米ポップ・チャートでクロスオーヴァー・ヒットする黒人 のシンガーやグループは一握りであった。音楽業界の中にいた黒人達にとって、60年代と は違った意味で、黒人であることを意識せざるえない時代だったのではないかと思う。
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■Mtume / Theater Of The Mind
 新生エムトゥーメの3枚目にして最後になったアルバム。
 アーバンでエロチックな雰囲気よりもファンクが前面に押し
 出されている。アフリカン・アメリカンとして音楽を追求し
 てきたエムトゥーメの、ひとつの到達点のように思う。

音楽業界に生きる黒人にとって80年代の半ばという時代は、白人主体のビジネスに同化して 大きな成功を収めるか(その象徴的な存在がマイケル・ジャクソン)否かという時代であっ たようだ。そういうことは、MTVを流す全米ヒット・チャートのTV番組を日本で見てい るだけではなかなか気がつかない(そこに登場する黒人のシンガーやグループは、ほんの一 握りの人達である)。一方で、音楽ビジネスと離れた場所では、ヒップ・ホップというスト リート・カルチャーが育ちつつあった。アフリカン・アメリカンとしての意識や伝統を追求 してきたエムトゥーメは、『シアター・オブ・ザ・マインド』を制作するにあたり、レジー ・ルーカスとのコラボーレーションによるダンサンブルでソフィスティケートされた自らの 音楽を振り返り、思うところがあったのではないか。『シアター・オブ・ザ・マインド』の ファンクへの路線修正は、自分の原点である黒人らしさへの回帰のように思えるのである。
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■Michael Jackson / Thriller
 80年代を代表する、全世界で大ヒットしたマイケル・ジャク
 ソンのアルバム。MTV時代の代表的なビデオ作品となった
 タイトル曲の《スリラー》をはじめ、《ビリー・ジーン》や
 《ビート・イット》などヒット曲を多数収録。

エムトゥーメの黒人意識の回帰が如実に感じられるのが、《ディープ・フリーズ》である。 曲の冒頭には、ラジオを聞いて笑っている声が挿入され、ストリートで生まれた新しい音楽 のスタイルの”ラップ”が本格的に導入されている。どちらも、黒人達の日常生活が感じら れる点に注目したい。当時は、ヒップ・ホップ・カルチャーが注目されはじめた時期であり 、エムトゥーメともかかわりが深かったハービー・ハンコックの《ロックイット》の衝撃的 なサウンドは音楽業界で大きな注目を集めていた。しかしサウンドの衝撃よりも”ラップ” を選択した点に、エムトゥーメの黒人としての姿勢や思いを感じるのである。ジェームズ・ ブラウンに捧げた《アイ・ドント・ビリーヴ・ユー・ハード・ミー》では、「ファンクを忘 れてないか!」とばかりにグルーヴする。黒人への姿勢を押し出した『シアター・オブ・ザ ・マインド』は、エムトゥーメを考えるうえで聴きどころの多いアルバムである。
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■Herbie Hancock / Future Shock
 エムトゥーメと同じく、アフリカ志向の音楽からファンク
 化したハンコックのヒット・アルバム。ミック・ジャガー
 のような大物から日本の歌謡曲にいたるまで、このアルバ
 ムの衝撃的なサウンドに影響を受けた同時代の楽曲は多い。

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