●レジー・ルーカスとマドンナ

エムトゥーメ(グループ)から独立し、1982年から1983年にかけてサンファイアというグ
ループを率いて自らの音楽活動を行っていたレジー・ルーカス。サンファイアのアルバム
は、ワーナー・ブラザーズ・レコードからリリースされている。ルーカスは、当時ワーナ
ー・ブラザーズとプロデューサー契約を結んでいたらしい。サンファイアは、ルーカスの
プロデューサー契約にもとづく一時的なユニットだった可能性が考えられる。そのよに考
えてみると、アルバムを1枚しかリリースしなかったことや、メンバーのレイモンド・カ
ルホーンが並行してギャップ・バンドの活動を行っていたことにも納得がいく。サンファ
イアとしての活動が終盤にさしかかってきたころ、ルーカスはワーナー・ブラザーズから
新人女性歌手のプロデュースを任されたようだ。その歌手のデビューに係わったことは、
ルーカスに大きな成功をもたらすことになる。
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■Sunfire / Sunfire 
 ダンサンブルかつ、ポップなサウンドが持ち味のサンファ
 イア。このアルバムを聴くと、エムトゥーメ&ルーカス・
 サウンドのポップな部分は、ルーカスによる部分が大きか
 ったのではないかと思える。

ルーカスが、プロデュースを手掛けた新人女性歌手の名はマドンナである。マドンナのフ ァースト・アルバム『マドンナ』に収録された殆どの曲を、ルーカスはプロデュースして いる。『マドンナ』は、現在の耳で聴きなおしても、よくできているダンス/ポップ・ア ルバムだと思う。R&B感覚があふれている。1983年当時で、白人の女性歌手でこれだけ ポップなR&B感覚にあふれた音楽をやっていた人は他にいないのではないか。マドンナ も、ファースト・アルバムであるにもかかわらず、一発でマドンナだとわかる個性を既に 確立している。アルバム制作にあたってはいろいろとあったようだが、全8曲のうち6曲 をプロデュースをしたルーカスは、十分にその名に恥じない仕事をしていると思う。とく にシングル・カットされたルーカスの作詞・作曲による《ボーダーライン》は、80年代の ポップなダンス・チューンとして傑作の部類に入る曲だと思う。
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■Madonna / Madonna 
 ルーカスが殆どの曲をプロデュースした、マドンナのデ
 ビュー・アルバム。《ライク・ア・ヴァージン》のヒッ
 トでマドンナが全米的な人気を得たことにより、ルーカ
 スのプロデュース作で商業的には一番の成功作となった。

《ボーダーライン》は、確かにルーカスがかつて”エムトゥーメ&ルーカス”の名でプロ デュースを行った、グラミー賞のベストR&Bソング受賞曲であるステファニー・ミルズ の《ネヴァー・ニュー・ラヴ・ライク・ディス・ビフォア(邦題:燃える恋心)》を連想 させるところがある。しかし、きちんと聴いてみればエレクトリック・ピアノによるイン トロやポップな曲調が似たような印象を抱かせるというだけであり、全体的な曲調として は典型的な80年代シンセ・ポップである。ロックっぽいテイストも感じさせる(マドンナ は近年のツァーではロック調にアレンジして取り上げている)。こうしたポップ/ロック なテイストの曲が書ける才能がルーカスにあったということに、むしろ注目したい。その ことは、フィラデルフィア・ソウルの中心地で、ポップ・チャートでもヒットするブラッ ク・ミュージックの制作の一端に携わっていたことと無関係ではないように思える。
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■Stephanie Mills / Sweet Sensation 
 エムトゥーメ&ルーカスのプロデュースによる、ミルズ
 の2枚目のアルバム。《ネヴァー・ニュー・ラヴ・ライ
 ク・ディス・ビフォア》を収録。エンディングにむけて
 のミルズのパフォーマンスは素晴らしいの一言。

またマドンナに関連して、ルーカスの前に再びシックのナイル・ロジャーズの名前が浮 上してくるのも面白い。ルーカスがプロデュースした《ボーダーライン》や《ラッキー ・スター》は全米チャートのトップ10に入るヒットとなったが、ロジャーズのプロデュ ースによる《ライク・ア・ヴァージン》は、全米No.1に輝いただけでなく、マドンナを 世界的なスターにした。ルーカスがプロデュースしたミルズの《ネヴァー・ニュー・ラ ヴ・ライク・ディス・ビフォア》がグラミー賞を受賞した際、ロジャーズは自身がプロ デュースしたダイアナ・ロスの《アップサイド・ダウン》で受賞を逃している。ロジャ ーズにしてみれば、ルーカスに雪辱を果たしたようなところがあったのかもしれない。 しかし、結果的にルーカスの名も《ライク・ア・ヴァージン》のヒットで知れ渡った。 2人は友人関係にあるらしいが、運命の糸のようなものを感じる面白い関係だと思う。
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■Madonna / Like A Virgin 
 《ライク・ア・ヴァージン》収録のマドンナの2枚目の
 アルバム。タイトル曲の世界的なヒットにより、マドン
 ナの名前だけでなく、プロデューサーとしてのナイル・
 ロジャーズの名前も一躍有名になった。

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■Diana Ross / Diana 
 ナイル・ロジャーズのプロデュースによるシックのタイ
 トなサウンドが非常に斬新だった、1980年のダイアナ・
 ロスのアルバム。ルーカスとグラミー賞を争った《アッ
 プサイド・ダウン》を収録。

ルーカスの作詞・作曲による《ボーダーライン》
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