●新生エムトゥーメのジューシーなファンク

レジー・ルーカスのサンファイア、ヒューバート・イーヴスの”D”トレイン、ハワード
・キングとエド・ムーアのストレンジャーズなど、メンバーそれぞれが新しいグループを
組んで、独立した道を歩んでいくという発展的解散にむかった初期のエムトゥーメ(グル
ープ)。こうした動きのなかで、エムトゥーメ自身も決意を新たにしたのではないかと思
われる。ヴォーカルのタワサを残して、グループのメンバーを一新。新しいメンバーには
、オーラというソウル・ダンス系グループにいたフィリップ・フィールズ(キーボード)
とレイモンド・ジャクソン(ベース)を加え、新生エムトゥーメ(グループ)をスタート
させた。プロデュースのクレジットも、”エムトゥーメ&ルーカス”から”ジェームズ・
エムトゥーメ”に変わった(おそらく契約の関係上と思われるが、エムトゥーメ/ルーカ
ス・プロダクションは継続している)。1982年のことである。
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■新生エムトゥーメ(グループ)
 新生エムトゥーメのメンバー。左上から下にエムトゥーメ、
 レイモンド・ジャクソン(ベース)、寝そべっているのが
 タワサ、上にフィリップ・フィールズ(キーボード)

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■"D"Train / You're The One For Me
 ヒューバート・イーヴスが、友人のジェームズ・ウィリアム
 ズと結成したユニットが”D”トレイン。《ユーア・ザ・ワ
 ン・フォー・ミー》はイーヴスらしいスペイシ―なサウンド
 が飛びかう曲でダンス・チャートのNo.1ヒットを記録。

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■The Strangers / The Strangers 
 ハワード・キングとエムトゥーメのセカンド・ギタリスト
 のエドワード・ムーアが中心となったストレンジャーズ。
 ヒューバート・イーヴスも協力しており、エムトゥーメを
 離れた後も、互いに協力していたことがわかる。

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■Sunfire / Sunfire 
 ルーカスが、ヴォーカルのロウランド・スミス、ドラム
 奏者のレイモンド・カルホーンと立ち上げたユニットの
 サンファイア。ダンサンブルなブギーや、ポップなファ
 ンクが収録された傑作。

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■Aurra / A Little Love
 フィールズとジャクソンが参加しているオーラのアルバム。
 オーラは、ファンク・グループのスレイヴにいたカート・
 ジョーンズとスターリーナ・ヤングが中心のグループ。
 サウンド的は、エムトゥーメに通じるアーバン・ファンク。

新生エムトゥーメ(グループ)で興味をひくのはメンバー編成である。初期エムトゥーメ (グループ)は、ギター、キーボード、ベース、ドラムスと、通常のバンド形態をとって いた。しかし、新生エムトゥーメ(グループ)にはドラム奏者がいない。基本的にキーボ ードとベースだけである(曲によってギターやサックスがゲスト参加)。このような編成 を可能にした背景は、高性能の電子楽器が身近になっていたことがあげられる。電子楽器 そのものは古くから存在していたが、80年代になってから、プログラミングできるドラム ・マシンや、多くの和音を同時に鳴らすことができるシンセサイザーなどが、比較的容易 に手に入るようになっていた。プログラミングができるドラム・マシンがあれば、ドラム 奏者がいなくてもリズミックな音楽をつくれたのである。この新しいテクノロジーを上手 く利用して、エムトゥーメは新しいグループによる音楽を作りだしたのである。
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■Sly & The Family Stone / There's a Riot Goin On
 初期の電子楽器のリズム・ボックスを使った録音が聴ける
 スライ&ザ・ファミリー・ストーンの傑作。この時点では
 1曲全てをプログラムすることはできず、同じリズムを繰
 り返すだけだが、ファンクの本質に近いものではあった。

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■Yellow Magic Orchestra  / BGM
 プログラミング可能なリズム・マシン(TR-808)を使用し
  て作った音楽としては最初期のYMOの1980年のアルバム。
 我が国が生んだ電子楽器は、国境を越えてブラック・ミュ
 ージックの傑作にも使われていくようになる。

新生エムトゥーメ(グループ)の最初のアルバムの『ジューシー・フルーツ』は、ドラム ・マシンやシンセサイザーといった、80年代初頭における電子楽器のテクノロジーを大き く取り入れて作られたアルバムである。プログラミングが可能なドラム・マシンというの は、きちんとプログラミングすれば、望んだ通りのリズムを延々と鳴らし続けることがで きる。ドラム奏者の代わりにドラム・マシンを上手く活用することにより、演奏メンバー に支払うべきコストも少なくてすむようになる。新生エムトゥーメ(グループ)のドラム の役割をドラム・マシンにしたところに、エムトゥーメのプロデューサー的な個性がよく 表れているように思う。エムトゥーメのように、アルバムの制作をコントロールするのが 仕事であるプロデューサーとしての資質が高い人には、自分で好きなようにコントロール できる電子楽器はうってつけであったと思われる。
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■Mtume / Juicy Fruit 
 ドラム・マシンの独特なグルーヴ感と、エロチックな雰
 囲気が絶妙にマッチしたタイトル曲の《ジューシー・フ
 ルーツ》が印象的な、新生エムトゥーメ(グループ)に
 よる最初のアルバム。

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■Marvin Gaye / Midnight Love 
 ドラム・マシンの独特なグルーヴ感を使って、見事な音
 楽を作りあげたのがマーヴィン・ゲイ。
 エムトゥーメとほぼ同時期に、《セクシャル・ヒーリン
 グ》のような素晴らしいな傑作を作りあげた。

前作では方向性を模索していたように感じられたエムトゥーメ(グループ)だが、『ジュ ーシー・フルーツ』では音楽的な方向性が固まったような印象を受ける。《グリーン・ラ イト》の車のクラクションのリズミックな使い方や、《ヒップ・ディップ・スキップダビ ート》のラップとコーラスに顕著なように、黒人達の日常的なストリート感覚に根ざした 音楽である。エムトゥーメとタワサの寝室を覗きみるような、エロチックなタイトル曲の 《ジューシー・フルーツ》ももちろんイイ。エムトゥーメ&ルーカスのアーバンな雰囲気 を保ちつつも、セクシーでファンキーなグルーヴを得ることに成功している。ザ・ノート リアス・B.I.G.の《ジューシー》やキーシャ・コールの《レット・イット・ゴー》など、 R&B系ヒップ・ホップからのサンプルが後を絶たないのは、新生エムトゥーメ(グルー プ)の音楽が、日常感覚に溢れた優れた黒人音楽である証しではないかと思うのである。
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■The Notorious B.I.G. / Ready To Die 
 《ジューシー・フルーツ》を使ったヒップ・ホップの楽曲
 のうち、もっとも知られているのは、ザ・ノートリアス・
 B.I.G.のデビュー・シングルの《ジューシー》ではないか。
 原曲を、ほぼそのまんま使ってラップを行っている。

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■Keyshia Cole / Just Like You 
 キーシャ・コールの2枚目のアルバム。
 2007年の全米トップ10に入るヒットとなった《レット・イ
 ット・ゴー》で、新生エムトゥーメの《ジューシー・フル
 ーツ》が使われている。

 エムトゥーメ《ジューシー・フルーツ》  
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