●レジー・ルーカスの新たな挑戦

メンバー全体で楽曲制作を行うようになって以降、結果的にそれらの活動が各メンバーの
独立を後押しするような形となった80年代初期のエムトゥーメ(グループ)。ひと足先に
”D”トレインの活動に移ったキーボード奏者のヒューバート・イーヴスに続き、いよい
よグループの中心人物のレジー・ルーカスが、別グループを立ち上げることになる。ルー
カスが立ち上げた新しいグループのサンファイアは、ヴォーカルのローランド・スミス、
ドラムスやキーボードを担当するレイモンド・カルホーン、そしてルーカスという3名の
メンバーで構成されていた。1982年にサンファイアはワーナー・ブラザーズと契約して、
唯一のアルバムとなる『サンファイア』を発表する。ちなみにエムトゥーメ(グループ)
が契約していたのはコロンビア/エピックなので、ルーカスは、それまでの自分の契約先
のライヴァル会社と契約したことになる。
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■Sunfire / Sunfire 
 ダンサンブルかつ、ポップなサウンドが持ち味のサンファ
 イア。このアルバムを聴くと、エムトゥーメ&ルーカス・
 サウンドのポップな部分は、ルーカスによる部分が大きか
 ったのではないかと思える。

80年代初期のワーナー・ブラザーズは、クロスオーヴァー/フュージョン系のミュージシ ャンとの契約獲得に力を入れていたと言われている。この時期にワーナーと契約したクロ スオーヴァー/フュージョン系の著名ミュージシャンには、チック・コリアやジャコ・パ ストリアス(ルーカスと同じくエピックからの移籍)がいる。同じ時期にワーナーは、ア ル・ジャロウ、チャカ・カーン、ランディ・クロフォードといった、R&B/ブラック・ コンテンポラリー系にも力を入れていた。マイルス・デイヴィスのグループ出身で、ロバ ータ・フラックやステファニー・ミルズへの楽曲提供でヒットの実績もあるルーカスは、 当時のワーナーにとって魅力的な契約相手だったのだろう。マーク・サダーンのアルバム のプロデュースでワーナーとの関係ができていたことも、実績のない新人グループのサン ファイアの契約に大きく寄与したのではないかと思われる。
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■Jaco Pastorious / Word Of Mouth
 80年代初期のワーナー・ブラザーズにおけるクロスオーヴ
 ァー/フュージョン路線が生んだアルバムの最高傑作は、
 ベース奏者のジャコ・パストリアスがサウンド・プロダク
 ションの才能をフルに発揮したこのアルバムであろう。

『サンファイア』は、こうしたレコード会社の期待を、少なくとも音楽性の上では裏切ら ないだけの内容を持ったアルバムだと思う。エムトゥーメは演奏で協力しているが、プロ デュースは既にルーカス1人の名義になっている。曲のクレジットはまだ”エムトゥーメ &ルーカス”となっているが、おそらく契約上そのように明記する必要があり、実質的に はほとんどがルーカスによるものと想像する。どの曲も、クロスオーヴァー・ヒットを狙 えるだけの高い水準の出来になっていると思う。加えて、ヴォーカルのスミスもなかなか のソングライターで、シングル・カットされた《ヤング・フリー・アンド・シングル》の グルーヴ感はとても心地よい。アルバムのハイライトは、なんといってもマーカス・ミラ ーのベースが炸裂するダンサンブルな《ステップ・イン・ザ・ライト》だろう。スミスも 、実に気持ちよさそうに歌っているのである。
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■Gil Scott-Heron & Brian Jackson / 1980
 サンファイアの《ステップ・イン・ザ・ライト》は、ギル・
 スコット・へロンと活動していたブライアン・ジャクソンの
 作品のようだ。『1980』はサンファイアに係わる直前期
 のアルバムで、シンセサイザーを使ったサウンドが印象的。

サンファイアは、結局アルバム1枚を残しただけであった。ドラムスのレイモンド・カル ホーンは継続してギャップ・バンドの活動をしていたようなので、サンファイアは一時的 なユニットだったのかもしれない。ルーカスがサンファイアとしての活動を行って以降、 ”エムトゥーメ&ルーカス”としてのコラボレーションは実質的になくなる。以降の彼ら は、それぞれの道を歩んでいくことになる。コンピュータ・ドラムやシンセサイザーなど 新しい電子楽器の進歩が、それを後押ししたかもしれない。マイルス・デイヴィスのもと で早くから先進的な電子楽器に触れていたエムトゥーメとルーカスには、電子楽器さえあ れば1人での音楽制作が十分可能となっていた可能性もある。エムトゥーメは、タワサを 残してグループのメンバーを一新し『ジューシー・フルーツ』の制作に入り、ルーカスは マドンナのアルバムのプロデュースにより大きな成功をおさめることになるのである。
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■Sunfire / Video Queen 
 サンファイアの1983年リリースのシングル。B面の人気曲
 《ネヴァー・トゥー・レイト・フォー・ユア・ラヴィン》
 はCD化されているが、A面の《ヴィデオ・クィーン》は
 未CD化。シンセサイザー・ソロが印象的な曲。

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■Gap Band / Gap Band 4 
 レイモンド・カルホーンが、サンファイアと並行して活動
 していたギャップ・バンド。カルホーンが提供した彼らの
 有名曲の《アウトスタンディング》は、どことなくサンフ
 ァイアの音楽と共通するサウンドである。

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■Mtume / Juicy Fruit 
 エムトゥーメとタワサを残し、キーボード奏者のフィリ
 ップ・フィールドとベース奏者のレイモンド・ジャクソ
 ンをいう新陣容でスタートした新生エムトゥーメ。サウ
 ンドを聴くと、ルーカスとの方向性の違いが見えてくる。

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■Madonna / Madonna 
 ルーカスが殆どの曲をプロデュースした、マドンナのデ
 ビュー・アルバム。《ライク・ア・ヴァージン》のヒッ
 トでマドンナが全米的な人気を得たことにより、ルーカ
 スのプロデュース作で商業的には一番の成功作となった。

 《ヤング・フリー・アンド・シングル》の演奏シーン
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