●過去をまとめ未来へと向かうエムトゥーメ&ルーカス

エムトゥーメとレジー・ルーカスのプロデュースによるマーク・サダーンの2枚目のアル
バム『エキサイティング』を聴いていると、エムトゥーメ(グループ)というグループの
歩みについて考えてしまう。その理由は、1978年にリリースされたファースト・アルバム
『キス・ディス・ワールド・グッバイ』のときのメンバーのうち、『エキサイティング』
に参加しているのはエムトゥーメとルーカス以外にはヴォーカルのタワサとドラム奏者の
ハワード・キングだけになっているからである。かわりにベース奏者のマーカス・ミラー
やキーボード奏者のエド・ウォルシュといったお馴染みの外部ミュージシャンに加え、後
にエムトゥーメ(グループ)の正式メンバーとなるキーボード奏者のフィリップ・フィー
ルド、1981年にルーカスが立ち上げる別ユニットのサンファイアのドラム奏者になるレイ
モンド・カルホーンといったミュージシャンが参加しているのである。
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■エムトゥーメ(グループ)
 初代エムトゥーメのメンバー。左から、ルーカス、バ
 ジル・フェアリントン(ベース)、タワサ(ヴォーカ
 ル)、エムトゥーメ、ヒューバート・イーヴス(キー
  ボード)、ハワード・キング(ドラムス)。

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■Mtume / Kiss This World Goodbye
 エムトゥーメ(グループ)の、最初のアルバム。
 特徴的なエムトゥーメ&ルーカス・プロダクションのサウ
 ンドが確立される前のファンク・ロック色の濃いサウンド
 には、当時流行のクロスオーヴァーの影響もうかがえる。

つまり、この時期のエムトゥーメ(グループ)は既に分裂期に入っていた。エムトゥーメ というグループは、自分達の活動よりも、エムトゥーメ&ルーカスがプロデュースするア ルバムのバック・ユニットとして機能してきたところがある。エムトゥーメ&ルーカスの プロデュースしたアルバムや曲における彼らの演奏も、間違いなくエムトゥーメというグ ループの、活動の記録ひとつなのである。エムトゥーメ&ルーカスがプロデュースした曲 は、一聴して彼らのプロデュースとわかる、個性的なサウンドを持っている場合が多い。 それは、どの曲を聴いても似たようなイメージになってしまう危険性も孕んでいるという ことである。そのようなマンネリズムに陥るのを避けるために、エムトゥーメとルーカス は、自分達のプロデュースするアルバムで、各メンバーからの楽曲提供や、他のシンガー のプロデュースをメンバーが行う際の支援もしてきたのだと思われる。
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■Lou Rawls / Now Is The Time
 初代エムトゥーメ(グループ)のメンバー全員がバック・
 アップしたエムトゥーメ&ルーカスのプロデュース作品は
 R&Bのヴェテラン・シンガーのル―・ロウルズの1982年
 のアルバム『ナウ・イズ・ザ・タイム』が最後か。

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■Various / Nighttime Lovers Vol.10
 ハワード・キングと エド・ムーアがプロデュース、エム
 トゥーメ&ルーカスが後方支援したキャンディ・ボウマン
 の《アイ・ワナ・フィール・ユア・ラヴ》が収録されたコ
 ンピレーションCD。

もともとはグループの音楽性を拡張する目的で行われたと思われるエムトゥーメ(グルー プ)の各メンバーによるプロデュースや楽曲制作活動は、結果的に各メンバーの自立を早 める結果となったように思える。キーボード奏者のヒューバート・イーヴスは、別グルー プの”D”トレインを立ち上げ、《ユーア・ザ・ワン・フォー・ミー》をヒットさせた。 ドラム奏者のハワード・キングは、エムトゥーメ&ルーカスのプロデュースするサウンド 作りに初期の頃から大きく関わってきたギター奏者のエドワード・ムーアとストレンジャ ーズを結成する。そしてエムトゥーメ本体も一度分裂して、ルーカスは別ユニットのサン ファイアに、エムトゥーメはメンバー編成を変更して新生エムトゥーメとして活動してい くことになる。こうした動きをみると、各メンバーのプロデュースや楽曲制作を支援して きたのは、メンバーの自立そのものが目的だったのではないかとも思える。
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■"D"Train / You're The One For Me
 ヒューバート・イーヴスが、友人のジェームズ・ウィリアム
 ズと結成したユニットが”D”トレイン。《ユーア・ザ・ワ
 ン・フォー・ミー》はイーヴスらしいスペイシ―なサウンド
 が飛びかう曲でダンス・チャートのNo.1ヒットを記録。

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■The Strangers / The Strangers 
 ハワード・キングとエムトゥーメのセカンド・ギタリスト
 のエドワード・ムーアが中心となったストレンジャーズ。
 ヒューバート・イーヴスも協力しており、エムトゥーメを
 離れた後も、互いに協力していたことがわかる。

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■Sunfire / Sunfire 
 ルーカスが、ヴォーカルのロウランド・スミス、ドラム
 奏者のレイモンド・カルホーンと立ち上げたユニットの
 サンファイア。この時点では、エムトゥーメ&ルーカス
 のパートナーシップは継続している。

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■Mtume / Juicy Fruit 
 エムトゥーメとタワサを残し、キーボード奏者のフィリ
 ップ・フィールドとベース奏者のレイモンド・ジャクソ
 ンをいう新陣容でスタートした新生エムトゥーメ。サウ
 ンドを聴くと、ルーカスとの方向性の違いが見えてくる。

そのようなことを考えながらサダーンの『エキサイティング』に話を戻すと、メンバーの 誰が作った曲でもグループで一致団結してバックアップしていたようなそれまでのエムト ゥーメ&ルーカスのプロデュース・スタイルとは異なり、エムトゥーメの《エキサイティ ング》や《ベイビー・ウォント・チャ》、ルーカスの《ラヴ・ユー・ライト》、タワサの 《ビリーヴ・ミー・ガール》、ハワード・キングとエド・ムーア(両者は共同プロデュー スとしてクレジットされている)の《ネヴァー・ハッド・ア・ラヴ・ライク・ユー》と、 それぞれ主体となった各メンバーの自由に任せたプロデュース・スタイルになっている。 それらをきりりと引き締めているのが、冒頭の《ワン・ミニッツ・フロム・ラヴ》。初期 のエムトゥーメ&ルーカス作品を思わせるこの曲をおいたことによりアルバム全体がまと まり、エムトゥーメとルーカスの刻印に恥じないに作品に仕上がったと思うのである。
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■Marc Sadane / Exciting 
 マーク・サダーンの2枚目のアルバム。エムトゥーメ&ル
 ーカスがプロデュースを開始した頃のようなソフィスタフ
 ァンクと、新しい電子楽器を使用した以降の彼らにつなが
 るサウンドの共存が、過去の総決算と未来を感じさせる。

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