●R&Bのヴェテランをプロデュースするエムトゥーメ&ルーカス

ヴォーカル・グループのスピナーズや新人シンガーのマーク・サダーンなど、男性中心に
プロデュースを行うようになっていたエムトゥーメとレジー・ルーカスは、1982年にヴェ
テラン・シンガーのルー・ロウルズのプロデュースを行っている。ロウルズは、R&B、
ソウル、ブルース、ジャズなど、あらゆるジャンルのブラック・ミュージックにおいて、
十分にその実力を認められているヴェテラン・シンガーである。初期のロウルズの忘れが
たいパフォーマンスとして、サム・クックとデュエットした《ブリング・イット・オン・
ホーム・トゥ・ミー》がある。クックの歌うメイン・メロディに、ハーモニーをつけると
いうよりも、もうひとつのヴォーカルとして絡んでいくロウルズのパフォーマンスはとて
も印象に残るものである。ロウルズのバイオグラフィーによれば、クックとロウルズは古
くからの知り合いだったらしい。
cover

■Lou Rawls And Sam Cooke 
 左がル―・ロウルズで、右側がサム・クック
 2人は高校時代からの知り合いで、有名になる前には、
 一緒にツァーをしていたこともあるらしい。

cover

■Sam Cooke / Portrait of a Legend 1951-1964 
 ロウルズとのデュエットの《ブリング・イット・オン・
 ホーム・トゥ・ミー》も収録された、サム・クックのコ
 ンピレーション。ポップ、ツィスト、バラッドなどから
 ソウル・ミュージックの確かな息吹が聴こえる。

エムトゥーメとルーカスも、ロウルズのようなヴェテラン・シンガーのプロデュースとい うことで気合が入ったのではないか。なにしろ、サム・クックとデュエットしたくらいの ヴェテランである。しかもロウルズは、エムトゥーメとルーカスがプロデュースする少し 前まで、ルーカスもかつて働いていたフィラデルフィア・インターナショナル・レコード に在籍していた。フィラデルフィア・インターナショナルといえば、ギャンブル&ハフ。 ギャンブル&ハフは、おそらくエムトゥーメとルーカスがもっとも意識していた楽曲制作 チームだと思われる。ロウルズは、そのギャンブル&ハフが作詞・作曲、プロデュースし た《ユー’ル・ネヴァー・ファインド・アナザー・ラヴ・ライク・マイン(邦題:別れた くないのに)》で、全米2位(R&Bチャートでは1位)の大ヒットをとばしている。エ ムトゥーメとルーカスは、それ以上のものを作ろうと力が入ったことと思われる。
cover

■Lou Rawls / All Things In Time 
 ロウルズのフィラデルフィア・インターナショナルにおけ
 る初のアルバム。ャンブル&ハフの作詞・作曲、プロデュ
 ースによる、大ヒットした《ユー’ル・ネヴァー・ファイ
 ンド・アナザー・ラヴ・ライク・マイン》を収録。

エムトゥーメとルーカスが係わったロウルズのアルバム『ナウ・イズ・ザ・タイム』は、 全曲がエムトゥーメ&ルーカスのプロデュースではない。彼らがプロデュースを担当した のは、全9曲中5曲のみ。残りの曲をプロデュースしたのは、なんとトム・ベルである。 トム・ベルは、60年代のデルフォニクスとの仕事や、70年代におけるスタイリスティック スやスピナーズとの仕事によって、きらびやかでメロウなフィリー・ソウルのイメージを 創りあげたともいえる人物である。エレクトリック・シタールを多用した独特のサウンド も個性的であった。当然ながら、フィラデルフィア・インターナショナルと関係は深い。 ロウルズのアルバムのプロデュースを、エムトゥーメとルーカスと分かち合うのにふさわ しい相手がいるとすれば、ベル以外には思いつかない。フィリー・ソウルの礎をつくった ベルを相手としたことで、ロウルズのプロデュースに向けさらに火がついたことだろう。
cover

■The Delfonics / The Definitive Collection
 トム・ベルの初期の仕事として有名な《ラ・ラ・ミーン
 ズ・アイ・ラヴ・ユー》や《ディドゥント・アイ(ブロ
 ウ・ユア・マインド・ディス・タイム)》収録の、デル
 フォニクスのコンピレーション。

cover

■The Stylistics / The Best Of The Stylistics
 70年代のベルは、リンダ・クリードとのパートナー・シ
 ップによるスタイリスティックスへの楽曲提供でヒット
 を連発。《ユー・アー・エヴリシング》、《ベッチャ・
 バイ・ゴーリー・ウォウ》などトロケル名曲ばかり。

cover

■The Spinners / The Very Best Of The Spinners
 ベルはスピナーズにも大きくかかわった。
 彼らの素晴らしい作品《アイル・ビー・アラウンド》も
 ベルの仕事。フィリー・ソウルのメロウなイメージは、
 ベルが作ったといっても過言ではない。

『ナウ・イズ・ザ・タイム』は、ベルのプロデュースによる《(ウィル・ユー)・キッス ・ミー・ワン・モア・タイム》で幕をあける。アーバンな雰囲気のイントロと洒落たコー ド進行から、ベル側の気合も伝わってくる。続くエムトゥーメ&ルーカスのプロデュース による《レット・ミー・ショウ・ユー・ハウ》も負けてはいない。ロウルズのバリトン・ ヴォイスを活かした、ゆったりとした大人の音楽である。以降、途中で順番を変えつつ、 ベル対エムトゥーメ&ルーカスのせめぎあいが続く。ふた組の楽曲制作におけるせめぎあ いが、『ナウ・イズ・ザ・タイム』の最大の聴きどころである。エムトゥーメ&ルーカス 的には、ステファニー・ミルズのプロデュースで得たポップな路線を踏襲したミディアム ・ナンバー《バック・トゥ・ユー》がイイ。ベル対エムトゥーメ&ルーカスの組み合わせ は、結果的に良い相乗効果をもたらし、アルバムを傑作に導いたのである。
cover

■Lou Rawls / Now Is The Time 
 ベル対エムトゥーメ&ルーカスという、ふた組のプロデュ
 ース・チームがしのぎをけずる、ロウルズの80年代の傑作。
 ゆったりとしたロウルズの声を活かした楽曲が、ワン・ア
 ンド・オンリーの大人の雰囲気を醸し出している。

トップ・ページへ戻る