●ステファニー・ミルズへのプロデュースの終わり

70年代のはじめから80年代初頭にかけてのエムトゥーメとレジー・ルーカスは、自分達の
グループ活動と並行しての女性シンガーを中心とする楽曲提供およびプロデュースの方向
を、グループのメンバーによる楽曲提供を含んだ男性グループおよび男性シンガーのプロ
デュースへと転換することにより、音楽的にマンネリズムに陥ることを未然に防ぐことが
できたように思う。そのような状況においても、彼らが唯一プロデュースを継続した女性
シンガーが、ステファニー・ミルズであった。自分達の新しいサウンドの模索するなかで
ミルズに提供した《ネヴァー・ニュー・ラヴ・ライク・ディス・ビフォア》は、グラミー
賞のベストR&Bソングという栄冠に輝いた。エムトゥーメとルーカスは、ミルズとなら
ば、まだまだ新しいサウンドを追求できると思っていたのかもしれない。レコード会社か
らの次回作への大きな期待も、当然あったことと思われる。
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■Stephanie Mills / Sweet Sensation 
 《ネヴァー・ニュー・ラヴ・ライク・ディス・ビフォア
 (邦題:燃える恋心)》が収録された、エムトゥーメ&
 ルーカスのプロデュースによるミルズのアルバム。
 エムトゥーメ&ルーカスは、全8曲中5曲を提供。

『ステファニー』は、そのような次回作にむけての大きな期待のなかでリリースされた。 エムトゥーメ(グループ)のメンバーが、全員総出でバックアップしているのはいつもの とおりだが、曲によってギターのデヴィッド・スピノザやキーボードのウォーレン・バー ンハート、ホーン・アレンジでP−FUNK・ホーン・セクションのグレッグ・トーマス といった顔ぶれが参加しているところが目新しい。なかでも一番に目を惹くのは、《トゥ ー・ハーツ》でミルズとデュエットしているテディ・ペンダーグラスの参加である。ペン ダーグラスといえば、かつてルーカスが仕事をしていたフィラデルフィア・インター・ナ ショナルの看板グループ、ハロルド・メルヴィン&ザ・ブルー・ノーツのリード・シンガ ーであった。70年代半ばにグループから独立したペンダーグラスは、ちょうどこの時期に セックス・シンボル的な男性シンガーとして注目を集めていた。
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■Stephanie Mills / Stephanie 
 ペンダーグラスとミルズのデュエット《トゥー・ハーツ》
 を収録した、エムトゥーメ&ルーカスのプロデュースによ
 るミルズのアルバム。彼らがミルズのアルバム全体をプロ
 デュースするのは、このアルバムが最後となる。

ペンダーグラスがミルズの『ステファニー』に参加したのは、1980年の自身のアルバムに ミルズが2曲でデュエットで参加してくれたことに対する返礼か。あるいは、ミルズのグ ラミー賞受賞に対する、お祝いの気持ちがあったのかもしれない。いずれにしてもペンダ ーグラスが《トゥー・ハーツ》でミルズとデュエットしたことは、アルバムに華をそえる 結果になった。しかし、エムトゥーメ&ルーカスの楽曲制作の観点でこのアルバムをみて みると、音楽的には殆ど目新しいところはないように思える。むしろ目立つのは、冒頭の 《ウィナー》におけるP−FUNK・ホーン・セクションのグレッグ・トーマスのソリッ ドなホーン・アレンジや、《ナイト・ゲームズ》におけるデヴィッド・スピノザのアコー スティック・ギターなど、外部から導入したサウンドである。外部のサウンドを導入して 自分達のサウンドに変化をつけることで、マンネリに陥ることを防いだのかもしれない。
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■Teddy Pendergrass / Tp
 テディ・ペンダーグラスの1980年のヒット・アルバム。
 《テイク・ミー・イン・ユア・アームズ・トゥナイト》
 と《フィール・ザ・ファイア》の2曲にミルズがゲスト
 参加しており、熱いデュエットを聴かせる。

2年ちょっとの間にミルズのアルバムを続けてプロデュースをしてきたことで、さすがの エムトゥーメ&ルーカスも音楽的に次の一手が打てなかったのではないか(しかも、他の プロデュースや自分達のグループ活動もあった)。次のアルバムの『タンタリジングリー ・ホット』では、エムトゥーメ&ルーカスはアルバム全体のプロデュースからは外れてい る。そして『タンタリジングリー・ホット』は、エムトゥーメ&ルーカスがミルズをプロ デュースした最後のアルバムとなった。楽曲制作の面でみれば、スペイシーなファンク・ ロックの《ラスト・ナイト》や、シンセサイザーのようなベースの音が印象的な《トゥル ー・ラヴ・ドント・カム・イージー》など、新しいサウンド創りが感じられる『タンタリ ジングリー・ホット』のほうが『ステファニー』よりも聴きごたえがある。エムトゥーメ &ルーカスも、ミルズへの最後のプロデュースということで力を注いだのであろう。
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■Stephanie Mills / Tantalizingly Hot 
 『ステファニー』を最後にレコード会社を移籍したミルズ
 の、新しいレコード会社での第一弾。
 エムトゥーメ&ルーカスに加え、アシュフォード&シンプ
 ソンとミルズ自身がプロデュースに加わっている。

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