●エムトゥーメ&ルーカスとスピナーズ

ステファニー・ミルズが歌った《ネヴァー・ニュー・ラヴ・ライク・ディス・ビフォア》
により、グラミー賞のベストR&Bソングを受賞したエムトゥーメとレジー・ルーカス。
グラミー賞の受賞によって女性シンガーに対するプロデュースは一区切りついたと思った
のか、以降はミルズを例外として、男性シンガーや男性ヴォーカル・グループのプロデュ
ースにシフトしていくようになる。その兆候は、サックス奏者のゲイリー・バーツのアル
バム、および結果的にはシングル曲のみのプロデュースとなったイギリスのソウル・グル
ープのリアル・シングのプロデュースに見ることができた。しかし、エムトゥーメとルー
カスが、アルバム全体を含んだ男性シンガーあるいは男性ヴォーカル・グループのプロデ
ュースに本格的に取り組んだのは、ベテラン・ヴォーカル・グループのスピナーズが最初
のケースだったと言ってよいように思う。
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■Gary Bartz / Bartz 
 エムトゥーメ&ルーカスの全面的なプロデュース、および
 エムトゥーメ(グループ)のメンバーの全面的な協力によ
 る、ゲイリー・バーツのアルバム。バーツをフィーチャー
 した、エムトゥーメ(グループ)の音楽のように聴こえる。

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■The Real Thing / It's The Real Thing (The Real Thing Single Collection)
 イギリスの4人組ヴォーカル・グループのリアル・シング
 のシングルを集めたコンピレーション。
 エムトゥーメ&ルーカスがプロデュースを行った、3曲の
 シングル曲を収録。

スピナーズは、黒人男性5人組のヴォーカル・グループである。エムトゥーメとルーカス がアルバムのプロデュースを行った1981年時点においても、十分なキャリアを誇るベテラ ン・ソウル・グループであった。デトロイト出身の彼らは、もともとはモータウンと契約 してレコードを出していたが、1972年にアレサ・フランクリンの紹介でアトランティック ・レコードに移籍。以降は、全米ポップ・チャートのトップ・テンに入るようなヒットを 連発。ディオンヌ・ワーウィックと一緒に歌った《ゼン・ケイム・ユー(邦題:愛のめぐ りあい)》は、全米No.1を獲得している。これらの楽曲のバックを支えたのは、かつてル ーカスも所属していたフィラデルフィアのセッション・ミュージシャン集団のMFSBの メンバー達。フィラデルフィア出身のエムトゥーメ、およびMFSBの若手ギタリストだ ったルーカスも、プロデュースを引き受ける際に気合が入ったのではないだろうか。
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■The Spinners / The Very Best Of Spinners
 シングル・ヒットの多いスピナーズの魅力を堪能するには
 シングル曲を集めたベスト盤が最適である。スティーヴィ
 ー・ワンダーが全面的にバックアップしたモータウン時代
 の傑作《イッツ・ア・シェイム》も収録のベスト盤がお得。

そうしてできあがったエムトゥーメ&ルーカスのプロデュースによるスピナーズのアルバ ムが、『キャント・シェイク・ディス・フィーリン』である。エムトゥーメ(グループ) のメンバーも、もちろん参加。しかし、今回はメンバーの楽曲提供はタワサのみにとどま り、変わりに元アース、ウィンド&ファイアーのアル・マッケイや、後にルーカスのグル ープのサンファイアやルーカスのプロデュースしたマドンナのアルバムに参加することに なるキーボード奏者のディーン・ギャントが曲を提供している。エムトゥーメ&ルーカス が提供したのは、タイトル曲の《キャント・シェイク・ディス・フィーリン》、《ラヴ・ コネクション(レイズ・ザ・ウィンドウ・ダウン)》、《ガット・トゥ・ビー・ラヴ》と 全9曲中3曲のみ。それまでのスピナーズのイメージとはガラっと変わり、都会的でダン サンブルな印象のエムトゥーメ&ルーカス・サウンドが久しぶりに全開である。
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■The Spinners / Can’t Shake This Feelin' 
 エムトゥーメ&ルーカスの男性ヴォーカル・グループに対
 する本格的なプロデュースの第一弾となった、1981年制作
 のスピナーズのアルバム。バーニー・ウォーレル、マーカ
 ス・ミラーなど、グループ以外のミュージシャンも参加。 

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■The Spinners, Mtume & Reggie Lucas
 『キャント・シェイク・ディス・フィーリン』制作時の、
 スピナーズとエムトゥーメ&ルーカスのスナップ写真。
 フィリー・ソウルを代表する笑顔の先輩達に囲まれて、
 エムトゥーメとルーカスは若干緊張気味?

しかし、ノリノリな気分になれるポール・ローレンスの《ナック・フォー・ミー》や、 ディーン・ギャントが提供した《ネヴァー・ソート・アイド・フォール・イン・ラヴ》 といったハッピーでポップな曲のほうが、スピナーズの新しい魅力をひきだしているよ うに思うのは、単に自分自身の好みの問題だろうか。エムトゥーメ&ルーカスとしては 、自分達の提供曲はアーバン・サウンドでしっかりと固め、アルバムにヴァラエティを 出すために、他のソングライターを起用したのかもしれない。その観点でとらえるなら 、アルバムは成功しているといってよいだろう。どの曲も力の入ったプロデュースで、 スピナーズもヴェテランの貫禄と歌唱力でそれに応えている。ベストは、タワサが提供 した《ユー・ゴー・ユア・ウェイ(アイル・ゴーマイン)》。ジョン・エドワーズが、 素晴らしいヴォーカル・パフォーマンスを聴かせてくれる。
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■The Delfonics / Definitive Collection 
 フィリー・ソウルの重要人物トム・ベルが、スピナーズの
 黄金時代を支える前に手掛けたデルフォニクス。エムトゥ
 ーメ&ルーカスは、彼らの代表曲《ディドント・アイ(ブ
 ロウ・ユア・マインド・ディス・タイム)》のカヴァーを
 スピナーズのアルバムに収録。先輩達への敬意を感じる。

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