●男性をプロデュースするエムトゥーメ&ルーカス

ステファニー・ミルズ、フィリス・ハイマン、レナ・スコットと、続けざまに女性シンガ
ーに対するプロデュースを行ってきたエムトゥーメとレジー・ルーカス。1979年頃から新
しいサウンドの方向性を模索していたと思われる彼らの目は、1980年頃から男性グループ
やシンガーに向いていたように思う。一緒にグラミー賞の栄冠を手にしたミルズを除くと、
以降の彼らがプロデュースするのは、男性グループあるいは男性シンガーばかりとなる。
エムトゥーメとルーカスが初めてアルバム全体をプロデュースした男性は、サックス奏者
のゲイリー・バーツ。バーツの場合は、エムトゥーメ一派の準メンバー的な位置づけの人
物と考えることができるため、それまでにレコード制作の現場で係わりがなかったという
意味では、リアル・シングというソウル・グループが、エムトゥーメとルーカスが初めて
プロデュースした男性グループのようである。
cover

■The Real Thing / It's The Real Thing (The Real Thing Single Collection)
 イギリスの黒人4人組ソウル・グループのリアル・シング
 のシングル・ヒットを集めたコンピレーション。
 アメリカでヒットしたソウル・グループの曲の良いところ
 をベースにして、ポップな味付けを施したような曲が多い。 

cover

■Gary Bartz / Bartz 
 エムトゥーメ&ルーカスの全面的なプロデュース、および
 エムトゥーメ(グループ)のメンバーの全面的な協力によ
 る、ゲイリー・バーツのアルバム。バーツをフィーチャー
 した、エムトゥーメ(グループ)の音楽のように聴こえる。

リアル・シングは、イギリスのソウル・グループ。同じ時期にアメリカでヒットしていた バリー・ホワイト、オージェイズ、スタイリスティックスといったフィリー系のソウル・ ミュージックを、彼らなりにポップな味付けにしたような曲が特徴的なグループである。 エムトゥーメとルーカスが、彼らをプロデュースした経緯はよくわからないが、レコード 会社を移籍したばかりのリアル・シングが、アメリカでのヒットを狙い、実績のあるエム トゥーメとルーカスにアプローチした可能性が高いように思う。アメリカのライヴ・ハウ スにリアル・シングが出演した際に、ルーカスが演奏を担当したそうなので、アメリカで 楽曲制作関係の仕事をしている唯一の知り合いがルーカスで、そこから話が発展したのか もしれない(リアル・シングのエディ・アモーは、ルーカスのことを、”アワー・フォー マー・ギタリスト”と呼んでいる)。
cover

■The Real Thing / 4 From 8
 彼らの育ったイギリスのリヴァプールを題材にした曲を含
 む、リアル・シングの代表作。フィリップ・ベイリーやメ
 アリー・J・ブライジもカヴァーした《チルドレン・オブ
 ・ザ・ゲットー》など傑作を多数含む名盤!!。

cover

■John Lee & Gerry Brown / Still Can't Say Enough
 リアル・シングのNYのライヴ・ハウス出演を、ルーカス
 とともにサポートしたのが、イレヴン・ハウスのリズム・
 セクションだったジョン・リーとジェリー・ブラウンだそ
 うだ。左はルーカスも参加した、彼らの双頭リーダ作。

ただしリアル・シングの場合、エムトゥーメ&ルーカスのプロデュースはシングルのみと なった。彼らがプロデュースしたのは、シングルの《シーズ・ア・グルーヴィ・フリーク 》およびB面の《イッツ・ア・リアル・シング》、《アイ・ビリーヴ・イン・ユー》のB 面の《ユーア・マイ・ナンバー・ワン》の3曲。リアル・シングにしてみれば、NYのラ イヴ・ハウスに出演した際にバック演奏をお願いしたアメリカのギタリストが、少し経っ てみると売れっ子のプロデューサーになっていたので、移籍したばかりの新しいレコード 会社でプロデュースをお願いしたということなのだろう。エムトゥーメとルーカス側も、 ルーカスの昔の知り合いということだけで引き受けたのかもしれない。両者の間には、フ ィリー・サウンドという共通項があったが、実際にプロデュースしたシングルを聴くと、 この時点では単なるお仕事の域はでていないように思える。
cover

■The Real Thing / She's A Groovy Freak
 新レコード会社の移籍第一弾となった1980年のシングル。
 A面の《シーズ・ア・グルーヴィ・フリーク》およびB面
 の《イッツ・ア・リアル・シング》とも、エムトゥーメ&
 ルーカスによるプロデュース。

cover

■The Real Thing / I Belive In You
 1981年の移籍第二弾シングル。B面の《ユーア・マイ・ナ
 ンバー・ワン》のみエムトゥーメ&ルーカスによるプロデ
 ュース。この曲が、一番リアル・シングのよさがでている
 ように思える。サックスはゲイリー・バーツか?

リアル・シングのクリスとエディのアモー兄弟が作った《シーズ・ア・グルーヴィ・フリ ーク》は、アメリカの市場を意識しすぎたような気がしてならない。どう聴いても、マイ ケル・ジャクソンのヒット曲《ドント・ストップ・ティル・ユー・ゲット・イナフ》が、 思い浮かぶ。エムトゥーメとルーカスは、自分達の刻印を押すためらいはなかったのか。 B面の《イッツ・ア・リアル・シング》は、エムトゥーメ(グループ)のメンバー全員が 作者としてクレジットされた、いかにもB面というダンス・ナンバー。結局このシングル は、リアル・シングとエムトゥーメ&ルーカスの、双方の良さが活かせなかったのではな いか。3曲のうち《ユーア・マイ・ナンバー・ワン》が一番よいできだと思うが、リアル ・シングのプロデュースは、良くも悪くも楽曲の出来と印象に左右され、それが結果的に シングルのみのプロデュースに終わった要因になったと思うのである。
cover

■Michael Jackson / Off The Wall 
 《ドント・ストップ・ティル・ユー・ゲット・イナフ》で
 音楽クリエイターとしての資質も披露した傑作アルバム。
 現在のジャケットの”光る靴下”の意味を調べてみると、
 黒人エンターテイメントの歴史もみえてくる。

トップ・ページへ戻る