●エムトゥーメ&ルーカス・サウンドへの栄冠

エムトゥーメ(グループ)の2作目のアルバム『イン・サーチ・オブ・ザ・レインボウ・
シーカー』や、エムトゥーメが70年代初頭に組織したアフリカ志向の音楽ユニットのウモ
ジャ・アンサンブルからの音楽仲間であるサックス奏者のゲイリー・バーツのアルバムを
とおして、新しいサウンドを模索していたと思われるエムトゥーメとレジー・ルーカス。
彼らは、これらのプロデュースおよび楽曲制作活動と同じ年(1980年)に、ステファニー
・ミルズのアルバムを再びプロデュースしている。エムトゥーメとルーカスが、複数枚に
わたりアルバムの全てをプロデュースしたシンガーあるいはグループは、女性ではミルズ
、男性ではマーク・サダーンを数えるのみ。なかでもミルズの場合、アルバム4枚にわた
って、連続してプロデュースを行っている。なぜエムトゥーメとルーカスは、ミルズだけ
4枚ものアルバムのプロデュースを行ったのだろうか。
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■Mtume / In Search Of The Rainbow Seekers
 エムトゥーメ(グループ)の2作目のアルバム。
 グループの各メンバーがそれぞれ曲を持ち寄った作りとな
 っていることから、グループとしての新しい音楽性を模索
 していたような印象を受けるアルバムである。

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■Gary Bartz / Bartz 
 エムトゥーメ&ルーカスの全面的なプロデュースによる、
 サックス奏者のゲイリー・バーツのソロ・アルバム。
 メンバーのペンによる楽曲も含めて、エムトゥーメ(グル
 ープ)も全面的に協力している。

エムトゥーメ&ルーカスのプロデュースの初期の代表作といえば、ミルズのアルバムとと もにフィリス・ハイマンの『ユー・ノウ・ハウ・トゥ ・ラヴ・ミー』がある。しかし、 彼らはハイマンに対しては、『ユー・ノウ・ハウ・トゥ ・ラヴ・ミー』以降プロデュー スを行っていない。『ユー・ノウ・ハウ・トゥ ・ラヴ・ミー』は、ハイマン(と当時の ハイマンの夫)が自分達でやりたい曲を持ち込んだこともあり、エムトゥーメとルーカス としては、どこか妥協するところもあったのではないか。それに対してミルズの『ホワッ ト・チャ・ゴナ・ドゥ・ウィズ・マイ・ラヴィン』は、収録曲の4分の3にあたる曲を、 エムトゥーメ&ルーカス自ら提供している。曲のタイプもヴァラエティにとんでいること から、彼らにとってミルズのほうが創作意欲をかきたてる存在だったのではないか。おそ らく、若いミルズのほうが仕事がしやすかったのは間違いないと思われる。
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■Phyllis Hyman / You Know How To Love Me 
 エムトゥーメ&ルーカスのプロデュースによる、フィリ
 ー・ソウル譲りのソフィスティケートされたファンク・
 サウンドが特徴的な、ハイマンの代表作。 結果的には
 、彼らの名に恥じないアルバムになっていると思う。

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■Stephanie Mills / What Cha Gonna Do With My Lovin'
 エムトゥーメ&ルーカスのプロデュースによる、ミルズ
 の最初のアルバム。アルバムの4分の3を自らのペンに
 よるヴァラエティ豊かな曲を揃えたこのアルバムが、ア
 ルバムという単位の彼らの最高傑作ではないかと思う。

そうしてエムトゥーメ(グループ)の活動とバーツのソロ・アルバムと同じ年に作られた エムトゥーメ&ルーカスのプロデュースによるミルズの2作目のアルバムが、『スィート ・センセーション』である。バーツのアルバムでは2曲のみだったエムトゥーメ&ルーカ ス作品だが、『スィート・センセーション』では全8曲中5曲と頑張っている。自分達の アルバム『イン・サーチ・オブ・ザ・レインボウ・シーカー』では、彼らに加え他のメン バーも一緒にクレジットされている曲もいくつかあったので、エムトゥーメ&ルーカスの みのクレジットの作品としては、『イン・サーチ・オブ・ザ・レインボウ・シーカー』よ りも多くの作品が含まれていることになる。この事実だけをとらえても、ミルズというシ ンガーの存在が、プロデューサーおよび楽曲制作者としてのエムトゥーメとルーカスにと っていかに大事かが伝わってくる。
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■Stephanie Mills / Sweet Sensation 
 エムトゥーメ&ルーカスのプロデュースによる、ミルズ
 の2枚目のアルバム。
 ジャケットが同時期のダイアナ・ロスのアルバムのよう
 に、もっと魅力的なものであれば、もっと売れたかも。

『スィート・センセーション』は、ダンサンブルなアルバム・タイトル曲、サビのリフレ インが印象深いバラードの《アイ・ジャスト・ワナ・セイ》、エンディングに向かうミル ズのエモーショナルなパフォーマンスが素晴らしい《スティル・マイン》などいくつかの よい曲はあるものの、前作の『ホワット・チャ・ゴナ・ドゥ・ウィズ・マイ・ラヴィン』 ほど全ての曲が高いレベルにあるとはいえないように思う。しかし、『スィート・センセ ーション』には、ある意味で前作の全ての曲を超えるエムトゥーメ&ルーカスの最高傑作 の《ネヴァー・ニュー・ラヴ・ライク・ディス・ビフォア(邦題:燃える恋心)》が収録 されている。ブラック・ミュージックとしてはあまりにもポップなサウンドのこの曲こそ 、グループのメンバーも含めた試行錯誤のうえでエムトゥーメ&ルーカスがみつけた(あ るいは創りあげた)、新しいサウンドと呼んでよいのではないか。
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■Madonna / Madonna 
 後年ルーカスが単独でプロデュースした、マドンナのデ
 ビュー・アルバム収録の《ボーダーライン》のイントロ
 は、《ネヴァー・ニュー・ラヴ・ライク・ディス・ビフ
 ォア》の残像を感じさせなくもない。

《ネヴァー・ニュー・ラヴ・ライク・ディス・ビフォア》は、ポップ・チャートでトップ ・テンに入る大きな成功をおさめた。そしてミルズおよび作者のエムトゥーメ&ルーカス に、グラミー賞受賞(ベストR&B女性ヴォーカル・パフォーマンス、およびベストR& Bソング)という栄冠をもたらしたのである。しかも、同じ年に全米No.1ヒットとなった 、シックのナイル・ロジャーズがプロデュースしたダイアナ・ロスの《アップサイド・ダ ウン》と競い合っての受賞であった。ブロードウェイの舞台で自分がずっと主役を演じ、 歌い続けてきたミュージカル「ザ・ウィズ」の映画版の主役をロスに譲らざるを得なかっ たミルズにとって、ロスと競い合って勝ち取ったグラミー受賞は嬉しかったに違いない。 エムトゥーメとルーカスにとっても、新たなサウンドの模索のなかで生まれた自分達の曲 が認められたとことは、何にも勝る大きな喜びであったことと思うのである。
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■Diana / Diana Ross 
 《アップサイド・ダウン》収録の、ダイアナ・ロスとシ
 ックのコラボレーション・アルバム。1980年時点では、
 ロスの声も含めたサウンドの新しさという点で、最も印
 象深いアルバム。セクシーな見開きジャケットもグッド。

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