●エムトゥーメ&ルーカスとゲイリー・バーツ

ゲイリー・バーツというと、年季の入ったジャズ・ファンは自己のグループ(クィンテッ
ト)名義のアルバム『リブラ』か、ジョン・コルトレーンのグループのピアノ奏者として
有名なマッコイ・タイナーの『エクスパンションズ』あたりで知った人が多いのではない
だろうか。一般的な音楽ファンは、おそらくエレクトリックを取り入れた後のマイルス・
デイヴィス・グループのサックス奏者として知った人が多いと思われる。90年代以降のレ
ア・グルーヴの流れや、クラブ・カルチャーのなかでブラック・ミュージック系のディス
ク・ガイドやレコード・ショップの推薦などでバーツの音楽に出会った人もいるだろう。
エムトゥーメ(グループ)の活動と並行してステファニー・ミルズやフィリス・ハイマン
といったシンガーのプロデュース活動を行っていたエムトゥーメ&レジー・ルーカスは、
ほぼ同じ時期にバーツのアルバムもプロデュースしている。この事実は、少し興味深い。
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■Gary Bartz / Libra
 ほとんどの曲をオリジナルで固めた、バーツの初めて
 のアルバム。オリジナル以外では、トラディショナル
 やチャーリー・パーカーの曲もやっている。アフリカ
  志向を早くも感じさせる。 

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■McCoy Tyner / Expansions
 ジャズの名門レーベルのブルー・ノートが制作した、
 タイナーのリーダー作。ウェイン・ショーター、ロン
 ・カーターら、マイルス・デイヴィス関係者との共演
 が注目される。

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■Miles Davis / Bitches Brew Live
 バーツがデイヴィスのグループに参加した最初期にあ
 たるワイト島フェスティヴァルでの演奏(チック・コ
 リア&キース・ジャレットのダブル・キーボード)が
 収録されたライヴ・コンピレーション。

エムトゥーメ&ルーカスとバーツとの付き合いは、エムトゥーメが70年代初頭に組織した ウモジャ・アンサンブルにバーツが参加したあたりからはじまったのか。当時の彼らは、 音楽的に同じ方向をみていた同志であったのだろう。アフリカ回帰志向的な考え方に対す る共鳴もあったのかもしれない。その付き合いは、彼ら自身のみならず、バーツが当時率 いていたグループのメンバーにも及ぶ。バーツがデイヴィスのグループを抜けた後に制作 した『ジュジュ・ストリート・ソングス』では、後にエムトゥーメ(グループ)のドラム スを担当するハワード・キングが、1973年のモントルーでのライヴ『アイヴ・ノウン・リ ヴァース・アンド・アザー・ボディーズ』には、後にエムトゥーメ(グループ)のキーボ ード奏者となるヒューバート・イーヴスが参加している。キングとイーヴスだけみても、 バーツがエムトゥーメ(グループ)にとって関係の深い人物であることがわかる。
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■Mtume Umoja Emsemble / Alkebu-Lan (Land Of The Blacks) 
 エムトゥーメを中心に、ハービー・ハンコックのムワ
 ンディシのメンバー、ゲイリー・バーツのグループの
 ウントゥー・トゥループのメンバーが集まった壮大な
 アフリカ文化の音楽絵巻。

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■Gary Bartz NTU Troop / Harlem Bush Music - Uhuru
 自己のグループのウントゥー・トゥループの2作目。
 アンディー・ベイのヴォーカルをフィーチャーして、
 ソウルやR&Bというよりも明らかにアフリカっぽい
 音楽を聴かせる。

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■Gary Bartz NTU Troop / Juju Street Songs
 このアルバムから、後にエムトゥーメ(グループ)の
 ドラムスを担当するハワード・キングが参加。
 バーツは、サックスにワウワウをかけている。
 マイルス・デイヴィスの影響か。

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■Gary Bartz NTU Troop / I've Known Rivers And Other Bodies
 モントルー・ジャズ・フェスティヴァルでのライヴ。
 ラテンをベースにしたようなリズムに、バーツのヴォ
 ーカルとコルトレーン風のソロがもつれあう《アイヴ
 ・ノウン・リヴァー》収録。

やがてバーツは、同じようにジャズからソウル・ミュージックに大きく近づいていたドラ ム奏者のノーマン・コナーズの『スルー・フット』や『サタディ・ナイト・スペシャル』 で、エムトゥーメに続きルーカスとも共演。そして、ドナルド・バードの『ブラック・バ ード』におけるサウンド・プロダクションで有名なマイゼル・ブラザーズのプロデュース による自己のリーダー・アルバムの『ザ・シャドウ・ドゥ』で、ついにエムトゥーメとル ーカスの両者との共演が実現する。『ザ・シャドウ・ドゥ』には、バーツがかつて率いた グループのウントゥー・トループのメンバーで、後に揃ってエムトゥーメ(グループ)の メンバーになるイーヴスとキングももちろん参加。ベース奏者のバジル・フェアリントン とヴォーカルのタワサ・エイジーを除いて、、エムトゥーメ(グループ)のメンバーの3 分の2が、バーツの『ザ・シャドウ・ドゥ』で揃っていたことになる。
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■Norman Connors / Slew Foot
 ノーマン・コナーズが、大きくソウル・ミュージックの
 動きに反応したリーダ作として3枚目のアルバム。
 ルーカスが提供したタイトル曲、イーヴスの提供した
 《チャクラ》を収録。

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■Norman Connors / Saturday Night Special 
 マイケル・ヘンダーソンとジーン・カーンによるデュエッ
 トの《ヴァレンタイン・ラヴ》を含む、ノーマン・コナー
 ズのアルバム。サウンドは、完全にソウル・ミュージック
 そのものである。

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■Donald Byrd / Black Byrd 
 マイゼル・ブラザーズの爽快感溢れるサウンドが印象な
 50年代から活躍するトランペット奏者ドナルド・バード
 のヒット・アルバム。ブラック・ミュージックの傑作曲
 《ホェア・アー・ウィー・ゴーイング?》収録。

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■Gary Bartz / The Shadow Do 
 エムトゥーメ、ルーカス、イーヴス、キングという、
 後のエムトゥーメ(グループ)のメンバーが顔を揃え
 たバーツのアルバム。マイゼル・ブラザーズのサウン
 ドより、ルーカスの曲に心を奪われる。

その後のバーツは、フィリス・ハイマンのアルバムなどでエムトゥーメとルーカスと継続 的に仕事をしている。やがてアリスタ・レコードと契約。契約の経緯はよくわからないが 、アルバムに参加していたハイマンやノーマン・コナーズが、アリスタでレコードを出し ていたことが関係していたのかもしれない。アリスタは、アンソニー・ブラクストンやセ シル・テイラーといったアヴァンギャルドなジャズや、マイク・マイニエリやブレッカー ・ブラザーズといったフュージョン系など、傘下のレーベルでいろいろなスタイルのアル バムを出していた。バーツの場合、傘下ではなくメインのレーベルからシングルとアルバ ムを出している。エムトゥーメ&ルーカスにプロデュースを任せたことや、都会的な印象 のアルバム・ジャケットも含めて勘案すると、アリスタはジャズやフュージョンではなく ブラック・コンテンポラリーとしてバーツのアルバムを売りたかったように思う。
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■Phyllis Hyman / Phyllis Hyman
 ハイマンの初ソロ・アルバム。全てのR&Bの曲のなかで
 も最高に素晴らしい《ノー・ワン・キャン・ラヴ・ユー・
 モア》において、バーツのサックス・ソロがフィーチャー
  される。意外に歌伴もいけるのは発見!。

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■Phyllis Hyman / You Know How to Love Me 
 エムトゥーメ&ルーカスがプロデュースしたハイマンの
 代表作『ユー・ノウ・ハウ・トゥ・ラヴ・ミー』。
 《ギヴ・ア・リトル・モア》など2曲で、バーツのサッ
 クス・ソロがフィーチャーされている。

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■Urszula Dudziak / Urszula 
 奇妙な歌声のウルスラ・ドゥジアクがアリスタからリリー
 スしたアルバムにルーカスはエムトゥーメ(グループ)の
 ベース奏者のバジル・フェアリントンと共に全面的に参加。
 ドゥジアクがキーキーうるさいので無理して聴く必要なし。

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■Anthony Braxton / The Complete Arista Recordings Of Anthony Braxton 
 チック・コリアのサークルでの活動が比較的有名なサック
 ス奏者のアンソニー・ブラクストン。
 彼のアリスタ・レコード時代の録音を集めた、CD8枚組
 のボックス・セット。

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■Warren Bernhardt / Manhattan Update
 マイク・マイニエリの傑作《サラズ・タッチ》の決定版
 が収録された、キーボード奏者のウォーレン・バーンハ
 ートのアルバム。幅広い音楽ファンに聴いてほしい、ア
 リスタがリリースしたフュージョンの最高傑作。

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■Gary Bartz / Bartz 
 アリスタからリリースされた、エムトゥーメ&ルーカスの
 全面的なプロデュースによるバーツのアルバム。
 カジュアルな白いスーツを着て微笑むバーツは、それまで
 のアルバム・ジャケットのイメージとは明らかに異なる。

エムトゥーメ&ルーカスのプロデュースによる『バーツ』は、エムトゥーメ(グループ) が全面的にバック・アップしたアルバムとなっている。収録された8曲のうち、アース、 ウィンド&ファイアーの《アフター・ザ・ラヴ・ハズ・ゴーン》のカヴァー、バーツ自身 の《(ギヴ・イット・ユア・ベスト)ショット》を除いた他の曲は、すべてエムトゥーメ (グループ)のメンバーによる作品である。サウンドは全体的にソフトな印象を受けるが 、ヒューバート・イーヴス作の《ミュージック》は、テクノとファンクとディスコが混ざ ったようなサウンドでちょっと面白い。エムトゥーメ&ルーカスによる《ワン・アイド・ ジャック》も、当時の流行のひとつだったレゲエとファンクとの融合による新たなサウン ドの模索が伺える。『バーツ』は、エムトゥーメ(グループ)のメンバーの次の段階への 模索期のアルバムとして聴くと、いろいろと発見があるアルバムである。
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■Stevie Wonder / Hotter Than July
『バーツ』と同じ年にリリースされたスティーヴィー・
 ワンダーのアルバム。エムトゥーメ&ルーカスと同じ
 時期にレゲエを取り入れた《マスター・ブラスター》
 を収録。

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