●新しいサウンドを模索するエムトゥーメ&ルーカス

自分達のグループのと並行して、ステファニー・ミルズ、フィリス・ハイマン、レナ・ス
コットのアルバム全曲をプロデュースしてきたエムトゥーメとレジー・ルーカス。彼らは
、ミルズやハイマンのアルバムをプロデュースするなかで確立した自分達のサウンドを、
さらに前進させようと考えていたようだ。ミュージシャンとしてのエムトゥーメとルーカ
スは、マイルス・デイヴィスのグループに代表されるように、クリエイティヴな即興演奏
の場で演奏活動を行ってきた。デイヴィスが、自ら創りあげたサウンドに固執せず新しい
サウンドに次々と挑戦していったように、エムトゥーメとルーカスもミルズやハイマンを
成功に導いた自分達の手法に満足せず新たな次の一手を探していたように思われる。その
ようなことを感じさせるのが、エムトゥーメ(グループ)の2作目のアルバム『イン・サ
ーチ・オブ・ザ・レインボウ・シーカー』である。
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■Mtume / In Search Of The Rainbow Seekers
 エムトゥーメ(グループ)の2作目のアルバム。
 グループの各メンバーがそれぞれ曲を提供しているが
 その分だけグループのアルバムとしての統一性がそが
 れたような印象を受けるアルバムである。

エムトゥーメ(グループ)の最初のアルバムの『キス・ディス・ワールド・グッバイ』は 、ファンクやソウル・ミュージックを取り入れながらも、エムトゥーメのアフリカ志向の 音楽の名残りを感じることができるアルバムだった。それに対して『イン・サーチ・オブ ・ザ・レインボウ・シーカー』は、完全にファンク/ディスコのアルバムとなっている。 また、最初のアルバムではエムトゥーメとルーカスのどちらかが全ての曲作りに関わって いたが、『イン・サーチ・オブ・ザ・レインボウ・シーカー』はグループの他のメンバー (ヴォーカルのタワサ・エイジー、ドラム奏者のハワード・キング、キーボード奏者のヒ ューバート・イーヴス、ベース奏者のバジル・フェアリントン)が曲作りに加わっている のも大きな特徴といえる。当時、いくつもの音楽制作の仕事を並行して抱えていたエムト ゥーメとルーカスだけでは、曲づくりが追いつかなかったのかもしれない。
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■Mtume / Kiss This World Goodbye
 エムトゥーメ(グループ)のファースト・アルバム。
 全ての曲はエムトゥーメとルーカスが書き下ろし、一部の
 曲のみメンバーが曲作りに加わっている。
 エムトゥーメのアフリカ志向も垣間見ることができる。

エムトゥーメとルーカスがミルズやハイマンのプロデュースを開始した1979年は、アフリ カやブラジルの音楽のエッセンスも取り入れていたアース、ウィンド&ファイアー、タイ トなリズムが新鮮だったシックなど、新しいサウンドをクリエイトしているライヴァル達 がひしめいていた年だった。ジョルジオ・モロダーのプロデュースによるコンピュータを 大胆に取り入れたサウンドで音楽業界に衝撃を与えたドナ・サマーも、ディスコに大胆な ロック・ギター・サウンドを取り入れた《ホット・スタッフ》(ギター・ソロは、ドゥー ビー・ブラザーズのジェフ・バクスター)で、再び音楽制作者に衝撃を与えていた。エム トゥーメとルーカスは、そのようなライヴァル達に囲まれながら新しいサウンドを求めて 苦心していたことだろう。『イン・サーチ・オブ・ザ・レインボウ・シーカー』というタ イトルは、新しいサウンドを模索する自分達のことを指しているようにも思われる。
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■Earth Wind & Fire / I Am 
 ディスコ・ヒット・ナンバーの《ブギー・ワンダーラン
 ド》や、デヴィッド・フォスター&ジェイ・グレイドン
 のエアプレイ・コンビが曲作りに参加した《アフター・
 ザ・ラヴ・ハズ・ゴーン》を収録した、アース、ウィン
 ド&ファイアーの代表作。

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■Chic / Risque 
 前年の《ラ・フリーク(邦題:おしゃれフリーク)》の
 大ヒットで注目を集めたシックの3枚目のアルバム。
 1979年の全米ヒット・ナンバーの《グッド・タイムズ》
 を収録。

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■Donna Summer / Bad Girls 
 1979年の全米ヒット・チャートは、サマーが席捲したと
 いっても過言ではない。
 全米No.1に輝いた《ホット・スタッフ》と《バッド・ガ
 ール》を収録した、アナログ2枚組のサマーの代表作。

『イン・サーチ・オブ・ザ・レインボウ・シーカー』に収録された各曲は、とりあえずは 一定のレベルに達してはいるものの、いま一つなにかかけているような印象を抱かせる。 ミルズの《ホワット・チャ・ゴナ・ドゥ・ウィズ・マイ・ラヴィン》や、ハイマンの《ユ ー・ノウ・ハウ・トゥ・ラヴ・ミー》のような、エムトゥーメ&ルーカスならではのサウ ンドの魅力が十分に発揮されているとは言い難いと思う。その代りに目立っているのが、 エムトゥーメとルーカス以外のメンバーである。タワサ・エイジーのヴォーカルが見事な 《ウィーア・ゴナ・メイク・イット・ディス・タイム》、ヒューバート・イーヴスのサウ ンド作りのセンスがひかる《スピリット・オブ・ザ・ダンス》などには傾聴させられる。 エイジーやイーヴスが、ソロ・アルバムや様々なユニットで成功していくようになるのも うなづけるのである。
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■The Strangers / The Strangers 
 エムトゥーメの同僚ハワード・キング、エムトゥーメの
 セカンド・ギタリストのエドワード・ムーアとイーヴス
 のグループのストレンジャーズ。イーヴスお得意のエレ
 クトロなサウンドが炸裂。

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■Tawatha / Welcome To My Dream
 エレクトロなサウンドのセクシーな《タイ・ライド》で
 始まるエイジーのソロ・アルバム。エムトゥーメがプロ
 デュースなど全面的にバックアップしている。《ディド
 ・アイ・ドリーム・ユー》は素晴らしいパフォーマンス。

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