●初期のソフィスタファンク:レナ・スコット

エムトゥーメとレジー・ルーカスが初期段階にプロデュースをした人は、ステファニー・
ミルズとフィリス・ハイマンだけではない。もう1人、デトロイト生まれの女性シンガー
のリナ・スコットがいる。スコットはタレント・コンテストで注目され、13歳でレコーデ
ィングも経験。テンプテーションズやフォー・トップスといったモータウンのグループの
前座や、アレサ・フランクリンのバック・シンガーとしても働いていたらしい。ミルズや
ハイマンもそうだが、エムトゥーメとルーカスが初期段階でアルバム・プロデュースをし
人は、みな下積み時代が長く、実力はあるけれどなかなかレコードを作る機会がなかった
タイプという点で共通している。やがてスコットは、エムトゥーメとルーカスのマイルス
・デイヴィス・グループにおける同僚で、当時はソウル系のシンガーに転身していたマイ
ケル・ヘンダーソンのアルバムに参加。ヘンダーソンとデュエットする機会を得ている。
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■レナ・スコット
 いまでも現役バリバリのスコット女史。
  80年代には、ランディ・クロフォードの後釜として、
 60年代からつきあいのあったクルセイダーズとツァー
 もしていたそうだ。
 
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■Michael Henderson / In The Night-Time
 ヘンダーソンの3枚目のソロ・アルバム。
 R&Bチャート3位のヒットになったアップテンポの
 ポップな曲《テイク・ミー・アイム・ユアーズ》で、
 スコットとデュエットしている。

ヘンダーソンは、スティーヴィー・ワンダーなどモータウン関係の人のバックでベースを 弾いていた人物である。1970年から1976年までは、マイルス・デイヴィスのグループでベ ースを弾いている。ヘンダーソンより少し遅れるかたちで、ほぼ同じ時期にデイヴィスの 音楽を支えたのが、エムトゥーメとルーカスである。デイヴィスが70年代のなかばにグル ープ活動を休止すると、ヘンダーソンはノーマン・コナーズのアルバム(ルーカスも係わ っている)に参加。そこでヴォーカルをとった曲がヒットしたことにより、以後はヴォー カリストとしても活動をスタートさせる。そのときコナーズのアルバムを出していたのが ブッダというレコード会社で、ヘンダーソンのアルバムもブッダでリリースされている。 スコットのアルバムがブッダ・レコードで制作されたことと、エムトゥーメ&ルーカスが プロデュース行ったことは、このあたりの関係が関連しているのかもしれない。
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■Norman Connors / Saturday Night Special 
 ヘンダーソンとジーン・カーンによるデュエットの名曲
 《ヴァレンタイン・ラヴ》が、ヘンダーソンのその後の
 方向性を決定づけたのか。タイトル曲はルーカスの作品
 で、ヒューバート・イーヴスも参加している。

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■Miles Davis / Get Up Wtith It
 ヘンダーソン、ルーカス、エムトゥーメが一緒に演奏し
 ていた時代の音楽を集めたマイルス・デイヴィスの傑作。
 帝王の指揮下で全員が全力疾走する《レイテッドX》、
 激烈なラテン・ファンク《カリプソ・フレリモ》が必聴。

以上のような時系列で、エムトゥーメ&ルーカスのプロデュースによるスコットの初めて のソロ・アルバム『カム・オン・インサイド』はブッダ・レコードからリリースされた。 アルバムのオープニングを飾り、シングル・カットもされたディスコ・チューンの《スー パー・ラヴァー》は、エムトゥーメとルーカスのペンによるこの時期の作品にしては珍し くコンガのソロがフィーチャーされている。エムトゥーメ&ルーカス・サウンドに欠かせ ないホーン・セクション、ストリングス、コーラスも入っているが、ミルズやハイマンの アルバムと比べるとギターの使い方もシンプルで、サウンド・プロダクションがよりバン ドっぽいところがスコットのアルバムの特徴である。バラードの《タッチ・ザ・ラヴ・イ ン・ユア・ハート》もよいが、ルーカスのカッティングにかっこいいスラップ・ベースが 絡むファンキーなタイトル曲《カム・オン・インサイド》がベストか。
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■Rena Scott / Come On Inside 
 エムトゥーメ&ルーカス・プロダクションが刻印された
 レナ・スコットのファースト・アルバム。
 バックを担当しているのもエムトゥーメ(グループ)や
 サックス奏者のゲイリー・バーツとお馴染みの面々。

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■Beverly Johnson / Don't Lose The Feeling 
 スコットの『カム・オン・インサイド』と同じ1979年に
 ブッダ・レコードがリリースした、ファッション雑誌の
 ヴォーグに初めて登場した黒人モデルのべヴァリー・ジ
 ョンソン。エムトゥーメ&ルーカスがミックスのみ担当。

『カム・オン・インサイド』をリリースした後、スコットはクルセイダーズと一緒にツァ ーをしていたらしい。クルセイダーズは、ランディー・クロフォードのヴォーカルをフィ チャ―した『ストリート・ライフ』のヒットによって、日本でも人気が高かったフュージ ョンの代表的なグループのひとつだ。クロフォードがツァーに参加できなくなった後に、 代わりにツァーに同行したそうである。スコットは、クルセイダーズがまだジャズ・クル セイダーズと名乗っていた時代から付き合いがあったようなので、クロフォードの代役と して白羽の矢が立ったのかもしれない。他にもスコットは、喜多嶋修や松井居といった、 海外で活躍していた日本人ミュージシャンのアルバムに参加している。いまも現役で活動 を続けるスコットだが、『カム・オン・インサイド』のプロダクションがよかっただけに 、エムトゥーメ&ルーカスのプロデュースでもっと作品を残してほしかった気がする。
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■The Crusaders / Street Life 
 クルセイダーズばかりでなくフュージョンの代表作にも
 なった1979年発表の名盤。”歌わない”グループだった
 彼らが初めて迎えたヴォーカルのランディー・クロフォ
 ードがタイトル曲で素晴らしいヴォーカルを聴かせる。

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■喜多嶋修(Osamu Kitajima) / Dragon King
 加山雄三のグループ出身で、日本のロック名盤としてよ
 くあがるエンジニアの吉野金次とのユニットのジャステ
 ィン・ヒースクリフで有名な喜多嶋修の1979年のアルバ
 ム。《セイ・ユー・ウィル》など3曲にスコットが参加。

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