●エムトゥーメ&ルーカスのプロデュースの開始:ステファニー・ミルズ

自分達のグループをスタートしたエムトゥーメとルーカスは、いよいよ本格的なプロデュ
ース業を開始する。彼らはなぜ自分達のグループ活動と並行するかたちで、他のシンガー
のプロデュース業をスタートさせたのだろう。ロバータ・フラックに提供した《ザ・クロ
ーザー・アイ・ゲット・トゥ・ユー》の成功は、音楽業界における彼らの知名度をあげた
ことと想像する。もっと大きな成功を狙ってのことなのだろうか。野心ももちろんあった
こととは思うが、おそらく理由はそんなに単純なものではない。エムトゥーメとルーカス
の場合、実際に楽曲制作そのものにも興味があったように思える。彼らの創ったサウンド
が、その証明である。ギャンブル&ハフやノーマン・コナーズといった優れた楽曲制作者
と一緒に仕事をしてきた経験から、”自分達でもやってみよう”と思ったとしても不思議
ではない。クリエイターとして理想の音楽の実現を目指すのは、ごく自然な流れである。
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■パーカッション奏者のエムトゥーメ
  アフリカン・アメリカンとしての黒人伝統文化を通じ
 エモーショナルな歌と、ファンキーなリズムをを自己
 の音楽にとりいれてきた。
 
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■ギター奏者のレジー・ルーカス
 フィラデルフィア・ソウルの中心地で、セッション・
 ミュージシャンとして自然なかたちでジャズ、ソウル
 、R&Bを吸収してきた。

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■エムトゥーメ(グループ)
 初代エムトゥーメのメンバー達。
 後にDトレインに参加するヒューバート・イーヴスも
 メンバーの1人であった。

エムトゥーメとルーカスがまずプロデュースを行ったのが、ステファニー・ミルズという 黒人の女性歌手である。ミルズは、「オズの魔法使い」を題材にしたブロードウェイ・ミ ュージカル「ザ・ウィズ」で主役を務めた実力の持ち主だ。ちなみに「ザ・ウィズ」は、 ダイアナ・ロス主演で映画化された(マイケル・ジャクソンが、”かかし”を演じた)。 ミュージカルの舞台で活躍すると共に、ミルズはモータウンでレコードも制作している。 しかし、ヒットにはいたっていない。ブロードウェイの舞台で主役をはれるほどの実力が ありながらヒットに恵まれていなかったミルズに対し、エムトゥーメとルーカスはダンサ ンブルなリズムに都会的なホーンとストリングスをあしらったサウンドで、アルバム全曲 のプロデュースを行っている。そうしてできあがったミルズのアルバムが、『ホワット・ チャ・ゴナ・ドゥ・ウィズ・マイ・ラヴィン』である。
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■ステファニー・ミルズ
 子供時代から活躍してきただけのことはあり、線の細い
 声のわりには、エモーショナルな歌も歌えるミルズ。
 さすがはブロードウェイ・ミュージカルの主役をやって
 きただけのことはある。

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■Various / The Wiz The Super Soul Musical "Wonderful Wizard Of OZ"
 ヒュー・マセケラなどと一緒に働いていたピアニスト兼
 作曲家のチャーリー・スモールズが作った、オリジナル
 ・ブロードウェイ版のミュージカル・スコア。ミルズの
 ほか、ディー・ディー・ブリッジウォーターらが参加。

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■Various / The Wiz: Original Soundtrack
 ブロードウェイ版にクィンシ―・ジョーンズが新たに曲
 を追加した映画版。トゥーツ・シールマンスなどバック
 の演奏メンバーも豪華。このときに、マイケル・ジャク
 ソンとジョーンズの付き合いがはじまったのは有名。

『ホワット・チャ・ゴナ・ドゥ・ウィズ・マイ・ラヴィン』に収録された各曲は、それま でのソウル、ファンクとは一線を画すポップさと都会的な雰囲気にあふれている。あらた めて聴いてみると、当時の日本のポップスにもかなり影響を与えているように思う。ミル ズのヴォーカルは、幼い印象を感じさせるような線の細さがあるが、バラードの《フィー ル・ザ・ファイアー》ではゴスペル・ライクなエモーショナルなヴォーカルを聴かせる。 エムトゥーメ&ルーカス・サウンドということでは、やはりタイトル曲の《ホワット・チ ャ・ゴナ・ドゥ・ウィズ・マイ・ラヴィン》にとどめをさす。ジャジーなコード、ソフト なストリングスとホーン、彩りを与えるコーラスやフルート、ルーカスの刻みと繰り返さ れるリフと、都会的でソフィスティケートされたファンクと言われるエムトゥーメ&ルー カス・サウンドを代表する1曲である。
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■Stephanie Mills / What Cha Gonna Do With My Lovin'
 エムトゥーメ&ルーカスのプロデュースによる、ミルズの
 最初のアルバム。当時の都会的なポップスがお手本にした
 見事なグループ・サウンド。演奏しているのは、もちろん
 エムトゥーメ(グループ)のメンバー。

他の収録曲も、ジョルジオ・モロダーのミュンヘン・サウンドを意識したようなイントロ で、コンピューター・ドラムスのような音も入ったディスコ・チューンの《ユー・キャン ・ゲット・オーヴァー》、都会的でダンサンブルなファンク・ナンバーの《プット・ユア ・ボディ・イン・イット》、さわやかなアコースティック・サウンドのポップ・チューン 《ディーパー・インサイド・ユア・ラヴ》など、なかなか多彩な曲が入っている。きらび やかでお洒落なエムトゥーメ&ルーカスの隠れた名曲《スターライト》は、とくに素晴ら しい。ゴスペル・ライクなミルズのパフォーマンスが見事である。もし、このアルバムで エムトゥーメ&ルーカスのことを知った場合、マイルス・デイヴィスのグループにいた彼 らとは容易に結びつかない気がする。彼らが作った都会的なスタイルでソフトかつポップ なサウンドのファンクは、それまでにはなかったのである。
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■Donna Summer / Endless Summer 
 エロチックな《ラヴ・トゥ・ラヴ・ユー・ベイビー》
 で注目をあびたドナ・サマー。ジョルジオ・モロダー
 による《アイ・フィール・ラヴ》のサウンドに衝撃を
 受けたミュージシャンは少なくないようだ。

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■Donna Summer / I Feel Love (Remix CD)
 当時のディスコ・クィーンのサマーは、おおよそこんな
 イメージであったが、エムトゥーメ&ルーカスの創った
 ミルズのサウンドは、洗練とダイナミックさを併せ持つ
 、ソフトでポップなファンクであった。

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