●グループ活動でジャズから飛躍するエムトゥーメとルーカス

グラミー賞を受賞したロバータ・フラックとダニー・ハサウェイのデュエットが久しぶり
に聴ける《ザ・クローザー・アイ・ゲット・トゥ・ユー》によって、エムトゥーメとレジ
ー・ルーカスの共同での楽曲制作は本格的にはじまったようだ。彼らは、《ザ・クローザ
ー・アイ・ゲット・トゥ・ユー》の録音と同じ1977年に、ヴィタミンEというグループに
《キス・アウェイ》という共同名義の曲を提供している。ヴィタミンEは、エムトゥーメ
とルーカスより一足はやくソウル・ミュージックに本格的に近づいていったジャズからの
転向組の1人、ノーマン・コナーズがプロデュースした黒人男女3名のグループだ。中心
人物は、コナーズと同じく”曲の書けるドラム奏者”のポール・スミス。唯一の女性メン
バーのビアンカ・ソーントンは、ジョン・ヘンドリックスのバック・ヴォーカルやスライ
&ザ・ファミリー・ストーンにいたこともあるという興味深い経歴の持ち主である。
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■Roberta Flack / Blue Lights In The Basement
 ”エムトゥーメ&レジー・ルーカス”の最初の刻印とな
 った《ザ・クローザー・アイ・ゲット・トゥ・ユー》を
 収録。この曲の成功が、その後の彼らの成功のキカッケ
 となったように思う。

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■Lady Bianca / Best Kept Secret
 現在は”レディ・ビアンカ”という名前で活動している
 ヴィタミンEの女性ヴォーカリストのビアンカ嬢の、初
 めてのソロ・アルバム。収録曲は、ブルース、ブギー調
 のノリのよい曲が多し。

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■Frank Zappa / Philly '76
 ビアンカ嬢は、ロック関係の意外なところにも顔を出し
 ていることが多い。フランク・ザッパの1976年のツアー
 にはヴォーカルとキーボード奏者として参加。このアル
 バムは、そのツァーのライヴ・レコーディング。

エムトゥーメとルーカスの《キス・アウェイ》は、ヴィタミンEの『シェアリング』とい うアルバムに収録されている。『シェアリング』は、なかなかよくできたソウル・ミュー ジックのアルバムで、収録曲もよい曲ばかりである。ルーカスお得意の、ファンキーなギ ター・カッティングがたくさん聴けるところもよい。エムトゥーメとルーカスは《キス・ アウェイ》を提供するだけではなく、アルバムの殆どの曲のアレンジを担当して、きちん と”エムトゥーメ&レジー・ルーカス”印を刻んでいる。エムトゥーメとルーカスがアレ ンジを担当した曲以外は、後にグループの「エムトゥーメ」を一緒に組むことになる(お そらく既に一緒に活動していた)ヒューバート・イーヴスがアレンジを担当している。し たがって、アレンジャーの違いによってアルバム全体の雰囲気が損なわれることもなく、 聴いていて心地よい気分になれるソウル・アルバムである。
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■Vitamin E / Sharing
 《キス・アウェイ》収録の、ヴィタミンEのアルバム。
 タイトル曲の《シェアリング》は、ジャケットのイメー
 ジどおりのネットリしたソウル・ナンバー。他の曲も、
 名曲ぞろいの。70年代ソウルの隠れた名盤だと思う。 

フラックやヴィタミンEのアルバムへの協力などで1977年を終えたエムトゥーメとルーカ スは、いよいよ自分達のグループを結成する。グループの名前は、エムトゥーメ(エムト ゥーメイと読む場合もあるが、ここでは従来知られている表記で統一する)。スワヒリ語 で、英語のメッセンジャーと同じ意味になる言葉である。グループは、アメリカのCBS 傘下のエピック・レーベルと契約。コロンビアやエピックの親会社のCBSは、70年代に 入ってからブラック・ミュージックに(あくまでもビジネス的に)力を入れており、多く の黒人系もしくは黒人が含まれているグループや歌手との契約を進めていたようだ。自分 達の音楽をやろうとしていたエムトゥーメとルーカスにとっては、ちょうどよい機会であ ったと想像する。こうしてエムトゥーメとルーカスは、エピックからグループ)の最初の アルバム『キス・ディス・ワールド・グッドバイ』をリリースするのである。
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■Mtume / Kiss This World Goodbye
 エムトゥーメとルーカスのグループの、最初のアルバム。
 《ザ・クローザー・アイ・ゲット・トゥ・ユー》のセルフ
 ・カヴァーやメロウのグルーヴする傑作《ラヴ・ロック》
 を収録。ルーカスのジミヘン+クロスオーヴァーも爆発。

エムトゥーメとルーカスというと、いまでもジャズ(あるいはマイルス・デイヴィス)の フィルターをとおしてみられることが多いように思うが、『キス・ディス・ワールド・グ ッドバイ』に収録された音楽は、完全にソウル&ファンクである。ファンキーなタイプの 曲は、スライ&ザ・ファミリー・ストーンの影響を強く感じる。《ザ・クローザー・アイ ・ゲット・トゥ・ユー》のセルフ・カヴァーも入っており、暖かな部屋の中を連想させる フラックのヴァージョンに対し、このヴァージョンは煌びやかな都会の街を連想させる。 クロスオーヴァー的な仕掛けやコード進行も特徴的で、ルーカスが活躍する《デイ・オブ ・ザ・レギン》やメロウにグルーヴする《ラヴ・ロック》のような曲を演奏するソウル・ グループは、当時彼らの他にいなかったのではないか。ソウル側からもう少し注目を集め ていれば、このアルバムの評価もいま少し違っていたかもしれないと思うのである。
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■Sly & the Family Stone / The Essential 
 スライ&ザ・ファミリー・ストーンの数多いヒット
 曲の殆どは、ベスト盤で聴くのが効率的である。
 エムトゥーメ(グループ)のファンクに影響を与え
 た、ファンクの金字塔《サンキュー》を収録、

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■Flora Purim / Carry On
 チック・コリアのリターン・トゥ・フォーエヴァー
 でジャズ界では有名なフローラ・プリム。
 ブラジル出身の彼女が歌う《ラヴ・ロック》は、
 オリジナル・ヴァージョンに匹敵する出来である。

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■Flora Purim / Nothing Will Be as It Was...Tomorrow.
 フローラ・プリムの周辺には、西海岸を中心に活動
 していた錚々たるミュージシャン達が参加している
 が、ルーカスもこのアルバムに参加して、ミルトン
 ・ナシメントの曲でギターを弾いている。

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