●”エムトゥーメ&レジー・ルーカス”の最初の刻印

トランペット奏者のエディ・ヘンダーソンの《セイ・ユー・ウィル》という曲を手始めに
、共同作業によって楽曲の制作をはじめたと思われるエムトゥーメとレジー・ルーカス。
彼らの名前は、ジャズの世界の帝王的存在であるマイルス・デイヴィスのグループに参加
していたこともあって、それまでは主にジャズの世界を中心に知られていたと想像する。
その彼らの名前をジャズ以外のジャンルに知らしめたのは、黒人女性シンガーのロバータ
・フラックに提供した《ザ・クローザー・アイ・ゲット・トゥ・ユー(邦題:私の気持ち
)》という曲ではないだろうか。この曲は、1977年にリリースされたフラックの7枚目の
アルバム『ブルー・ライツ・イン・ザ・ベースメント』に収録されている。翌年の1978年
にシングル・カットされ、全米ポップ・チャートで2位という大ヒットを記録した。フラ
ックの持ち歌で、ベスト盤には必ず選曲される素晴らしい曲である。
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■Eddie Henderson / Comin' Through
 エムトゥーメとルーカスの最初期の共作(彼ら以外の共
 作者も名を連ねている)《セイ・ユー・ウィル》が収録
 された、トランペット奏者のエディ・ヘンダーソンの
 アルバム。サウンドはクロスオーヴァー。

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■Roberta Flack / Blue Lights In The Basement
 シンガー・ソングライター的なシンプルでさりげないサ
 ウンドが持ち味のフラック。ゴスペルの大きな影響を感
  じさせるが、アレサ・フランクリンのような熱さを感じ
 させないのがフラックの持ち味。

《ザ・クローザー・アイ・ゲット・トゥ・ユー》は、久しぶりに黒人男性シンガーのダニ ー・ハサウェイの声が聴けるということで、当時話題を集めたようだ。セッション・ミュ ージシャンやアレンジャーとしても知られるハサウェイは、『ライヴ!』のようなソウル ・ミュージック史上に残る素晴らしいアルバムをつくり、フラックとも既にデュエット・ アルバムを制作していた。そのアルバム『ロバータ・フラック&ダニー・ハサウェイ』か らは、《ホウェア・イズ・ザ・ラヴ(邦題:恋人は何処に)》というヒット曲も生まれ、 リリースの翌年の1973年にグラミー賞も獲得している。しかし、1977年当時のハサウェイ は、しばらくレコード制作から遠ざかっていた。つまり《ザ・クローザー・アイ・ゲット ・トゥ・ユー》は、久しぶりにハサウェイの声が聴けることに加え、グラミー賞を受賞し たフラックとのデュエットが再び聴ける曲であった。
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■Donny Hathaway / Live 
 ライヴ会場の熱気をそのままパッケージしたような、
 素晴らしいライヴ・アルバム。観客と完全に一体にな
 った、キャロル・キング作の《ユーヴ・ゴット・ア・
 フレンド》の盛り上がりが凄い。

話題性の点では、《ザ・クローザー・アイ・ゲット・トゥ・ユー》はハサウェイの話にな ってしまいがちだが、エムトゥーメとルーカスの楽曲制作の面でとらえるならば、この曲 は見事に”エムトゥーメ&レジー・ルーカス”印が刻まれた最初の曲といってよいのでは ないかと思う。ほぼ全編にわたって繰り返されるメロディも印象的だが、それ以上に強く 印象に残るのはキーボードをフィーチャーした個性的なサウンドである。どれくらいサウ ンドが個性的かは、それまでのフラックの曲を年代順に聴いてみるとわかる。それまでフ ラックが歌ってきた主な曲は、メロウでシンプルなサウンドの曲が多かった。しかし《ザ ・クローザー・アイ・ゲット・トゥ・ユー》は、聴きようによっては過剰の一歩手前くら いのスペイシーなキーボードのサウンドである。しかし、それでいてフラックのイメージ は損なわれていない。見事なサウンド・プロダクションである。
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■Roberta Flack & Donny Hathaway / Roberta Flack & Donny Hathaway
 同じ大学で音楽を学んだハサウェイとフラックの、
 最初のコラボレーション。《ホウェア・イズ・ザ・ラ
 ヴ》のほか、《ユーヴ・ゴット・ア・フレンド》など
 素晴らしいデュエットが聴ける。

《ザ・クローザー・アイ・ゲット・トゥ・ユー》の成功によって、コンポーザーとしての 魅力をジャズ以外のジャンルにも知らしめたエムトゥーメとルーカスは、レコード会社と 新たに契約を結ぶこととなる。成功の大きなきっかけをつくってくれたフラックとの関係 も、変わらずに継続していたようだ。《ザ・クローザー・アイ・ゲット・トゥ・ユー》の 大ヒットによって、フラックとハサウェイとの2枚目になるデュエット・アルバムの制作 が始まり、エムトゥーメとルーカスも制作に協力している。しかし、制作途中でハサウェ イが亡くなってしまうという大きな悲劇がおきる。フラックは、なんとかアルバムを完成 させるが、結果的にハサウェイのヴォーカルが聴ける曲は2曲の収録となってしまった。 そのうちの1曲が、”エムトゥーメ&レジー・ルーカス”印が再び刻まれた《バック・ト ゥゲザー・アゲイン》である。
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■Roberta Flack / Roberta Flack Featuring Donny Hathaway
 ディスコの悪影響といえるロング・ヴァージョンの曲
 が冗長に感じられなくもないが、収録された楽曲は、
 お子様向けディスコ・ソングが束になっても敵わない
 素晴らしい曲が多い。

《バック・トゥゲザー・アゲイン》は、いわゆるブラック・コンテンポラリーと呼ばれて いたタイプの曲である。ダンサンブルなディスコ・ビートと洒落たクロスオーヴァー系の サウンドにのせて、ハサウェイとフラックが交互にリード・ヴォーカルをとる。もしハサ ウェイが生きていて2人でライヴを行っていたら、ステージ後半で盛り上がるハイライト 的なナンバーになっていただろう。ただし楽曲制作の視点からサウンドを考えてみると、 《ザ・クローザー・アイ・ゲット・トゥ・ユー》の強く印象に残る個性的なサウンドに比 べ、《バック・トゥゲザー・アゲイン》は”エムトゥーメ&レジー・ルーカス”ならでは のサウンドとは言い難い部分がある。『サタディ・ナイト・フィーバー』に代表される、 70年代の世界的なディスコ・ブームのなかにおいて、エムトゥーメとルーカスが彼らなら ではの個性あるダンサンブルなサウンドを獲得するのは、もうすこし先の話となる。
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■Roberta Flack & Prabo Bryson / Live & More
 新パートナーのピーボ・ブライソンとの傑作ライヴ。
 《バック・トゥゲザー・アゲイン》の位置に注目。
 1曲目は震えがくるほど素晴らしいパフォーマンス。
 若きマーカス・ミラーのベースも聴ける。

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■Various Artists / Saturday Night Fever
 ブラック・ミュージックにルーツをもつディスコは
 1970年代半ばから世界的なブームとなった。 その
 象徴的な存在の、ビージーズが中心となった映画
 「サタディ・ナイトフィーヴァー」のサントラ盤。

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