●ソウル・ミュージックに接近するエムトゥーメとレジー・ルーカス

エムトゥーメとレジー・ルーカス関連の音源を録音が古い順に聴いてみて、彼らが作りだ
したダンサンブルなサウンドが、サックス奏者のカルロス・ガーネットや、ドラム奏者の
ノーマン・コナーズのアルバム制作への協力といった、マイルス・デイヴィスのグループ
に在籍中から行っていた課外活動のなかで育まれてきたようだということがみえてきた。
いろいろな音楽の要素を取り込んで、自分自身のアヴァンギャルドな音楽に変えてしまう
デイヴィスとは異なり、ガーネットやコナーズは、ジャズを母体としながらも、ソウルや
ファンクをダイレクトに感じさせる音楽をやっていた。エムトゥーメとルーカスも、その
輪の中にいた。その輪のなかには、エムトゥーメのウモジャ・アンサンブルに参加してい
たゲイリー・バーツや、デイヴィスのグループのベース奏者のマイケル・ヘンダーソンも
いた。彼らも、申し合わせたようにソウル・ミュージックに接近していくことになる。
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■Carlos Garnett / Black Love
 エムトゥーメとルーカスが参加しているガーネットの
 『ブラック・ラヴ』。
 黒々としたラテン・フィーリングの《マザー・オブ・
 ザ・フューチャー》がカッコイイ。

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■Norman Connors / Slew Foot
 ガーネットの《マザー・オブ・ ザ・フューチャー》
 のカヴァー(アレンジはガーネット自身が行っている)
 で幕をあけるノーマン・コナーズのアルバム。
 ルーカスもタイトル曲を提供および参加している。

その輪のなかにいた1人のゲイリー・バーツの『ザ・シャドウ・ドゥ』というアルバムは 、エムトゥーメとルーカスのその後を考えるうえで興味をひく。というのもエムトゥーメ とルーカスが後にグループを一緒に組むことになるキーボード奏者のヒューバート・イー ヴスおよびドラム奏者のハワード・キングが、このアルバムで顔を揃えているのである。 ちなみにアルバムをプロデュースしたのは、トランペット奏者のドナルド・バードをソウ ルフルなサウンド・プロダクションで成功に導いたマイゼル・ブラザーズ。ただし、スカ イ・ハイ・サウンドの名で知られるバードのアルバムと比べると、このアルバムにおける マイゼル・ブラザーズのサウンド・デザインはあまり成功しているとは言い難い。むしろ 彼らの曲よりも魅力をはなっているのが、ルーカスが提供した《ジェントル・スマイル( サクシ―)》という曲である。独特の浮遊感をもつメロウなメロディが心地良い。
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■Gary Bartz / The Shadow Do 
 エムトゥーメ、ルーカス、マイケル・ヘンダーソンと
 当時のマイルス・デイヴィス・グループのメンバーが
 参加しているバーツのアルバム。
 スカイ・ハイ・サウンドとの相性は正直???。

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■A Tribe Called Quest / The Law End Theory  
 ロック的なハードなサウンドではなく、ジャズ的なサウ
 ンドが衝撃的だったヒップ・ホップの傑作アルバム。
 《バター》で、《ジェントル・スマイル(サクシ―)》
 がサンプリングされている。

そんな最中、コナーズのアルバム『サタディ・ナイト・スペシャル』(タイトル曲はルー カスの作品)収録の《ヴァレンタイン・ラヴ》がヒットする。ジャズのフィールドにいた ミュージシャンがソウルやファンクに接近するようになったきっかけとして考えられるこ とは、60年代半ば以降のアフリカン・アメリカンとしての意識の高まり、ジェームズ・ブ ラウンやマーヴィン・ゲイの音楽、ジャズのフィールドからでたドナルド・バードの『ブ ラック・バード』やハービー・ハンコックの『ヘッド・ハンターズ』などのヒットなど色 々あるが、自分達の仲間のマイケル・ヘンダーソンが歌った《ヴァレンタイン・ラヴ》が ヒットしたことは、デイヴィスの健康状態によってグループが自然消滅状態になっていた エムトゥーメとルーカスの前に、新しい道を歩む可能性とその道を歩んでいく決意をさせ たのではないか。その後の彼らは、ソウル&ファンクに大きく接近していくのである。
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■Norman Connors / Saturday Night Special 
 ヘンダーソンが作り歌っている《ヴァレンタイン・ラヴ》
 を含むノーマン・コナーズのアルバム。この曲、マイルス
 ・デイヴィスの傑作《マイシャ》に似ている。デイヴィス
 を思わすミュート・トランペットの音も入っている。

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■Donald Byrd / Black Byrd 
 モータウンでジャクソン5をプロデュースしていた制作
 チームにいたフォンス・マイゼルを含むマイゼル・ブラ
 ザーズの爽快感溢れるサウンドが印象的だが、タイトル
 を含め当時の黒人意識の高まりも感じさせるアルバム。

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■Herbie Hancock / Head Hunters 
 アフリカン・アメリカンとしての意識、マイルス・デイ
 ヴィスから受け継いだ挑戦意欲、スライ・ストーンに
 代表される70年代ファンクが結びついたハンコックの
 傑作。フュージョンだけで語るのは片手落ちである。

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■Norman Connors / You Are My Starship 
 ヴォーカリスト兼ソングライターとしてのマイケル・ヘ
 ンダーソンを決定的にしたのが、ノーマン・コナーズの
 ポップ・チャートでもトップ40入りした《ユー・アー・
 マイ・スターシップ》のヒットであろう。

まずエムトゥーメとルーカスは、ソウル・グループのアクエリアン・ドリームのアルバム に全面的に参加している。アクエリアン・ドリームは、ノーマン・コナーズがプロデュー スを行っているグループだ。自分達で楽器演奏もこなすタイプのソウル・グループだが、 エムトゥーメとルーカスはゲスト・ミュージシャンとして演奏にも参加している。ルーカ スは演奏だけでなく、自作の《トリート・ミー・ライク・ザ・ワン・ユー・ラヴ》を提供 し、全8曲中6曲でアレンジも担当するという活躍をみせている。ルーカスのアレンジ能 力というのは、マイルス・デイヴィスが施したという音楽教育で得た知識も大きいのだろ うが、やはりフィラデルフィア・ソウルの影響が濃いように思う。MFSBで数多くの曲 のアレンジを担当していたボビー・マーチンのような人のすぐそばで働いていたルーカス が、無意識に数多くのアレンジのコツを学んでいたとしても不思議ではない。
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■Aquarian Dream
 アクエリアン・ドリームの初期メンバー。
 キーボード奏者のジャッキー・バーヴィックや、
 プーチョ&ヒズ・ラテン・ソウル・ブラザーズ出身の
 サックス奏者クラウディ・バーティの顔が見られる。

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■Aquarian Dream / Norman Connors Presents Aquarian Dream
 ノーマン・コナーズがプロデュースを行ったアクエリア
 ン・ドリームのアルバム。
 音楽的にはフィリー・ソウルの影響を強く感じさせ、
 向かっている方向にはディスコが見え隠れする。

アクエリアン・ドリームのアルバムを手伝うかたわら、エムトゥーメとルーカスは、自分 達のやりたい音楽についていろいろと話あったのではないか。やがて彼らは、”エムトゥ ーメ&ルーカス”のクレジットで楽曲を制作・発表していくようになる。興味深いのは、 それまで個別の名前で楽曲を発表していた彼らが、2人の共同名義で楽曲を発表するよう になることだ。おそらく彼らの頭のなかには、リーバー&ストーラー、ゴフィン&キング 、ホランド、ドジャー&ホランド、アシュフォード&シンプソン、そしてフィラデルフィ ア・ソウルの数々のヒット曲にのせてアフリカン・アメリカンとしてのメッセージを送り 続けていたギャンブル&ハフのことがあったように思う。”エムトゥーメ&ルーカス”の クレジットには、それまでのソング・ライター・チームに負けない新しいブラック・ミュ ージックを作りだしていこうという彼らの決意が込められているように思うのである。
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■The O'Jays / Back Stabbers
 ギャンブル&ハフ、とりわけケニー・ギャンブル
 の黒人意識は、オージェイズの作品によく表れて
 いるように思う。有名な表題曲のほか、全米No.1
 獲得の《ラヴ・トレイン》を収録

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■Harold Melvin & The Blue Notes / Harold Melvin & The Blue Notes
 ギャンブル&ハフはスウィートなソウル・バラー
 ドのNo.1も作ってしまった。ソウル・バラードの
 No.1楽曲の《イフ・ ユー・ドント・ノウ・ミー
 ・バイ・ナウ》を収録。

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■Three Degrees / Three Degrees
 ギャンブル&ハフの手掛けたガール・グループの
 スリー・ディグリーズ。全米でヒットした《ホェ
 ン・ウィル・アイ・シー・ユー・アゲイン》は、
 当時の日本のアイドル歌手も歌っていた。

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