●エムトゥーメとレジー・ルーカスのソロ活動

マイルス・デイヴィスのグループに在籍中のエムトゥーメとレジー・ルーカスの課外活動
は、カルロス・ガーネットやノーマン・コナーズのアルバムへの参加だけではなかった。
エムトゥーメは、サックス奏者のソニー・ロリンズやピアノ奏者のマッコイ・タイナーと
いった、ジャズ界の大物のレコーディングにも参加。ロリンズとは、来日までしている。
タイナーの『サマ・ラユカ』というアルバムには、ゲイリー・バーツ、ビリー・ハート、
バスター・ウィリアムズなどウモジャ人脈を引き連れて参加。彼らの他にも、コナーズの
アルバムで一緒だったパーカッション奏者のギレルミ・フランコや、デイヴィスの《カリ
プソ・フレリモ》に参加していたリード奏者のジョン・スタブルフィールドなど、これま
でにエムトゥーメが一緒に演奏してきた人達が脈々と連なっていくところが面白い。おそ
らくエムトゥーメは、自然とまわりに人が集まってくるような性格の人だったのだろう。
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■Sonny Rollins / Horn Culture
 ニューヨークにでてきたエムトゥーメを、いろいろな面
 で支援したというロリンズ。このアルバムでは、当時の
 日本公演でも演奏され、ウモジャ・アンサンブルも演奏
 したエムトゥーメ作の《サイス》が収録されている。

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■McCoy Tyner / Sama Layuca
 参加ミュージシャン9人のうち、タイナー本人とヴィブ
 ラフォーン奏者のボビー・ハッチャーソンを除く7人が
 ウモジャ&デイヴィス関連人脈でしめられた、タイナー
 のアルバム。エムトゥーメが影のリーダーか。

またエムトゥーメは、課外活動期にリーダとして3作目になるアルバムを録音している。 ウモジャ・アンサンブルと同傾向の『リバース・サイクル』というアルバムだ。ビリー・ ハート、バスター・ウィリアムズといった、お馴染みのウモジャ人脈が顔を揃えている。 注目は、当時のマイルス・デイヴィスのグループのメンバーが、まだ決まっていなかった サックス奏者とデイヴィスを除いて、全員参加していることである。サックスには、スタ ブルフィールドと、タイナーのアルバムにも参加していたエイゾー・ローレンスが参加し ている(2人とも70年代にデイヴィスと演奏した経験がある)。収録曲は、やはりアフロ ・アメリカンとしてのアフリカ志向が強く聴きとれる。エムトゥーメの参加期のロリンズ が演奏した《サイス》も収録されている。面白いのはデイヴィスのグループがよりファン キーになったような《イェボ》で、70年代中盤以降のエムトゥーメを感じさせる。
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■Mtume / Rebirth Cycle
 エムトゥーメの3作目にあたるリーダー・アルバム。
 日本制作のアルバムだが録音されたのはニューヨーク。
 当時のマイルス・デイヴィス・グループのメンバーが
 揃って参加している。

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■Mtume / Rebirth Cycle
 日本で発売された際のジャケット。
 『回天』という、驚きの邦題がつけられていた。
 音楽とは直接関係ないが、黒人女性の美しい脚が
 写っている、このジャケットの魅力も捨てがたい。

いっぽうルーカスも、デイヴィスのグループ在籍時の課外活動としてリーダ・アルバムを 残している。コナーズのアルバムに提供したファンキーな《スルーフット》、メロウなグ ルーヴが心地よい《テンダー・イヤーズ》、クロスオーヴァー路線の《ザ・ベアフット・ ソング》など、アナログA面に相当す曲にはソウル&ファンク系の曲が並ぶ。B面のタイ トル曲は組曲構成になっており、最終パートではジミ・ヘンドリックスばりのリード・ギ ターも登場する。ルーカスのギターは、ジャズ、ロック、クロスオーヴァーなどの多様な スタイルを聴かせてくれるが、他のギター奏者の影響というのは殆ど感じない(強いてい えばヘンドリックス)。ギター・ソロも、可もなく不可もないようなソロである。こうし たルーカスのスタイルは、どのようなスタイルの曲でもこなすことを求められるセッショ ン・ミュージシャンとして働いていたことと関係しているように思える。
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■Reggie Lucus / Survival Themes
 全曲オリジナル作品の、ルーカスの初リーダー作。
 マイケル・ヘンダーソンのほか、ヒューバート・
 イーヴス、ハワード・キングなど「エムトゥーメ」
 の初期メンバーが顔を揃えている。

有名なギター奏者で、こうしたルーカスのようなタイプの人は他に思いつかない。セッシ ョン中心にやっているギター奏者には、多いタイプのような気がする。そのような意味で は、本当に影響を受けたのはMFSBのノーマン・ハリスやボビー・エリかも知れない。 デイヴィスのグループに抜擢される前のルーカスは、フィラデルフィアでR&Bを演奏し ていた。デイヴィスのグループではリード・ギターを担当することもあったが、ルーカス の前にデイヴィスと演奏したジョン・マクラフリンや、デイヴィスが好んで聴いていたと いうジミ・ヘンドリックスのような劇的なタイプのリード・ギターではない。デイヴィス はその点を補強するために、カリル・バラクリシュナとルーカスの両方が担当することも あったリズムをルーカス1人に任せ、リード・ギターにブルース臭を漂わせていたピート ・コージーを据えたようにも思える。
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■Miles Davis / Pangaea
 ルーカスとピート・コージーのツィン・ギター編成
 完成期のデイヴィスのライヴ。コージーの演奏も
 デイヴィスに肉迫するようになり、場面によって
 ルーカスがソロをとったり表現が多様になっている。

ルーカスは、もしデイヴィスのグループに抜擢されなかったら、セッション・ミュージシ ャンとして終わるか、音楽制作の道を早くから志していたタイプかもしれない。デイヴィ スのグループで鍛えられることによって、ルーカスは他に比類しうる演奏者が思いつかな いほどの多彩な表現ができるバッキング演奏ができるようになったのだ。その独特の和声 を使ったバッキングはワン・アンド・オンリーで、しかもファンキーなのである。そんな ルーカスのギターの特徴がよくわかるアルバムは、ルーカスのリーダー作やデイヴィスの アルバムではなく意外なところにあった。当時アメリカで活躍していた日本人のトランペ ット奏者大野俊三の『サムシングス・カミング』というアルバムである。トランペット奏 者のアルバムなので、やはりデイヴィスの音楽の影響は濃いが、コージーがいない分ルー カスの独特で多彩な奏法がたっぷり堪能できるのである。
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■大野俊三 / Something's Coming
 ギル・エバンス・オーケストラへの参加などで知
 られる大野俊三。急遽加えられたというルーカス
 のギターは、音楽に見事な彩りを加える。
 この作品がリーダー作のきっかけかもしれない。

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