●エムトゥーメとレジー・ルーカスの課外活動

エムトゥーメとレジー・ルーカスのプロダクション・チームが作った音楽からは、彼らが
在籍していたころのマイルス・デイヴィスのグループがやっていた音楽の影響をほとんど
感じない。もっと直接的な影響を与えた音楽があるように思える。そのように考えたら、
実際の音で検証してみたくなった。デイヴィスは、1975年9月をもって公の場から姿を消
している。80年代に入って復帰するが、この一時的な引退ともいえるデイヴィスの行動に
より、グループは自然消滅のような状態となる。必然的にメンバーは各々の活動を活発化
させていったようだが、デイヴィスが引退する前でも、グループの活動が無いときにはメ
ンバーはそれぞれの活動を行っていた。そのような課外活動のなかに、エムトゥーメとル
ーカスが作った音楽に直接的な影響を与えた要素があるかもしれない。そこでまず注目し
たいのが、カルロス・ガーネットの『ブラック・ラヴ』というアルバムである。
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■Carlos Garnett / Black Love
 ジャズ、ラテン、ファンク、アフロ・アメリカンが混然
 一体となったような音楽性のガーネットのアルバム。
 デイヴィスのグループからは、エムトゥーメとルーカス
 が参加している。

カルロス・ガーネットは、1972年6月から約半年間デイヴィスのグループに在籍していた サックス奏者だ。エムトゥーメとルーカスにとっては、同僚の関係にあたる。ガーネット のデイヴィスとの演奏は、『オン・ザ・コーナー』や『イン・コンサート』で聴くことが できる。またガーネットは、エムトゥーメのウモジャ・アンサンブルにも参加していた。 いわば、ウモジャ人脈の1人である。『ブラック・ラヴ』は、デイヴィスのグループを退 団後のガーネットのリーダー作だ。初リーダー作というこもあり、エムトゥーメとルーカ スだけではなく、ビリー・ハート、バスター・ウィリアムス、ディ・ディ・ブリッジウォ ーターといったウモジャ人脈が多数参加してガーネットを盛り上げている。収録された曲 は、全てガーネットの作品である。このアルバムで聴けるガーネットの作曲やアレンジの 才能は、デイヴィスのグループにいたときにはわからなかった意外な才能である。
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■Miles Davis / On The Corner
 ガーネットが参加しているデイヴィスの問題作。
 ガーネットの演奏は、アナログ盤のB面にあたる、
 《ワン・アンド・ワン》と《ヘレン・ビュート/
 ミスター・フリーダムX》で聴くことができる。

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■Miles Davis / In Concert
 ガーネット、ルーカス、エムトゥーメが一緒に演奏
 しているデイヴィスのグループのライヴ・アルバム。
 同じ時期の発掘音源などでは、
 よりパワフルなガーネットの演奏が聴ける。

収録曲では、ルーカスがギターを弾いた《ブラック・ラヴ》、《タウラス・ウーマン》、 《マザー・オブ・ザ・フューチャー》の3曲がよい。タイトル曲の《ブラック・ラヴ》で は、ディ・ディ・ブリッジウォーターがソウルフルでカッコいいヴォーカルを聴かせる。 ルーカスがギター・リフのアイディアを提供したと思われる《タウラス・ウーマン》は、 ファンキーなファンクでデイヴィスのグループの演奏を思わせる。3曲のなかのベストは 、アフロ・アメリカンのメロディにラテン・ビートを効かせたような《マザー・オブ・ザ ・フューチャー》だ。南米パナマ出身のガーネットは、キーボード奏者のジョージ・デュ ークが70年代の半ばにやっていたような、ラテン・ブラジリアン・フュージョンの元祖の ような演奏をここでやっている。ガーネットのようなウモジャ関係者が、ソウルやフュー ジョンを感じさせる音楽に早くから取り組んでいたのは非常に面白いところだ。
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■George Duke / Reach For It
 ファンキーなフュージョンを推進するとともに、
 ラテン・ブラジリアン・サウンドも推し進めて
 きたジョージ・デューク。熱いラテン・ビート
 の《ホット・ファイアー》収録。

もう一つ『ブラック・ラヴ』における注目は、ノーマン・コナーズの参加である。コナー ズは、ファラオ・サンダースのような前衛色の濃い人と演奏していたドラム奏者だ。ガー ネットやエムトゥーメとコナーズとの出会いも、サンダースのアルバムの可能性が高い。 面白いことに、コナーズの周辺にも、ビリー・ハートやスタンリー・クラークといった、 ウモジャ人脈がうごめいている。時系列的に、ガーネットも触媒的な役割をはたしていた 可能性が高い。コナーズの『スルー・フット』というアルバムで、ガーネットの《マザー ・オブ・ザ・フューチャー》が再演されていることから、そのように思えてくる。ガーネ ットのオリジナルでは、エムトゥーメとギレルミ・フランコのパーカッションや、カルロ ス・チェンバースのヨーデリングがフィーチャーされていたが、ソウルフルなコナーズの ヴァージョンは、クラブでかかっても違和感がないくらい洗練されたものになっている。
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■Norman Connors / Slew Foot
 スピリチュアル&アヴァンギャルドからソウルへと
 変化していくノーマン・コナーズの3枚目のアルバム。
 タイトル曲は、ルーカスとアンソニー・ジャクソンの
 MFSBコンビが提供している。

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■Pharoah Sanders / Wisdom Through Music
 末期コルトレーン・グループの印象が強いサンダース。
 一貫してアフロ・アメリカンとしてのジャズを追いつ
 づけているように映る。このアルバムには、コナーズ
 のほか、エムトゥーメとバダル・ロイが参加している。

ルーカスとガーネットは、コナーズの次作『サタディ・ナイト・スペシャル』にも参加。 タイトル曲は『スルー・フット』に続きルーカスが提供している。デイヴィス関係人脈か らは、ベース奏者のマイケル・ヘンダーソンとサックス奏者のゲイリー・バーツも参加。 彼らは後に自分でヴォーカルをとるようになり、ヘンダーソンはコナーズの《ユー・アー ・マイ・スターシップ》のヒットでヴォーカリストとしても知られるようになる。また、 後にグループの「エムトゥーメ」でルーカスと一緒になる、キーボード奏者ヒューバート ・イーヴス(後にD・トレインというR&Bユニットでも活躍)も参加している。ジャズ からソウルに方向を定めたコナーズのアルバムへの参加により、おそらくルーカスは自ら の原点であるソウル・ミュージックを見つめなおしたのではないか。その功労者となった のが、ガーネットとガーネットの音楽だったのではないかと思うのである。
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■Norman Connors / Saturday Night Special 
 マイケル・ヘンダーソンがヴォーカリストとして登場。
 ジーン・カーンと絡む《ヴァレンタイン・ラヴ》は名曲
 ヘンダーソン、ルーカス、エムトゥーメと、デイヴィス
 のグループ関係者のソウル度は、どんどん高まっていく。

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■D Train / The Best of D Train
 キーボード奏者のヒューバート・イーヴスが、
 グループのエムトゥーメを脱退した後に組んだ
 ユニット。《サムシング・オン・ユア・マイン
 ド》は復帰後のデイヴィスもカヴァーした。

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