●マイルス・デイヴィス・グループに参加したころのエムトゥーメ

エムトゥーメがマイルス・デイヴィスのグループにパーカッション奏者として加わったの
は、アフリカ回帰的な音楽集団のウモジャ・アンサンブルで活動していたのとほぼ同時期
のようだ。1971年夏頃とされるが、デイヴィスのグループでの公式録音は残っていない。
発掘音源では、同年秋のヨーロッパにおけるライヴは聴くことができる。この時期のデイ
ヴィスのグループには、キース・ジャレットがまだ在籍していた。レパートリーも、前年
の12月に録音した『ライヴ・イヴィル』とほぼ同じである。ちなみにヨーロッパのライヴ
に参加しているサックス奏者のゲイリー・バーツとドラム奏者のレオン・ウンドゥグ・チ
ャンスラーは、ウモジャ・アンサンブルにも参加していた。つまり、この時期のデイヴィ
スのグループは、7人のメンバーのうちの3人が、エムトゥーメと一緒にウモジャ・アン
サンブルで活動していたミュージシャンだったことになる。この事実は、興味深い。
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■パーカッション奏者のエムトゥーメ
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■Miles Davis / Live-Evil
 エムトゥーメが参加した時期のライヴのレパートリーは、
 このアルバムのライヴ音源のレパートリーとほぼ同じで
 あった。しかし、パーカッションが1人から2人に増え
 リズムがより複雑かつ強調された音楽になる。

デイヴィスのグループにおけるエムトゥーメの公式録音は、1972年3月の《レッド・チャ イナ・ブルース》が最初となる。しかしこの曲は、エムトゥーメの参加による音楽的な効 果は殆ど無いように思う。この曲は、アレンジャーが2人も関わったデイヴィスとしては 異色な曲なので、プレイヤーとして個性を発揮できる場はなかったのであろう。面白いの は、2人のアレンジャーである。リズム・アレンジ担当のビリー・ジャクソンは、エムト ゥーメの故郷のフィラデルフィアで活躍していた人なので、エムトゥーメが紹介したのか もしれない。一方、ブラス・アレンジ担当のウェイド・マーカスは、モータウンで働いて いた人である。グループのベース奏者のマイケル・ヘンダーソンがモータウンに関わって いたので、紹介した可能性が高いが、マーカスも後年エムトゥーメと仕事をするようにな るのである。こうしたエムトゥーメ関連の人脈が、うごめいているところが面白い。
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■Miles Davis / Get Up With It 
 《レッド・チャイナ・ブルース》がはじめて収録された、
 デイヴィスの傑作コンピレーション・アルバム。
 エムトゥーメとルーカスがいた時期の、デイヴィスの音楽
 を俯瞰できる。

そしてデイヴィスの問題作『オン・ザ・コーナー』に至るわけだが、このアルバムは別途 じっくりと検証したい。この時期のエムトゥーメ関連でもう1枚注目しておきたいのが、 サックス奏者バディー・テリーの『ピュア・ダイナマイト』である。このアルバムでは、 ウモジャ・アンサンブルの『アルケブ・ラン』で演奏していたエムトゥーメの《ババ・ヘ ンゲーツ》を再演している。しかしここでの演奏には、アフロ・アメリカンの儀式のよう な『アルケブ・ラン』とは違う新しさがあるのである。その新しさを1人で醸し出してい るのが、エムトゥーメと同じくフィラデルフィア出身のスタンリー・クラーク。ちょうど 第一期リターン・トゥ・フォーエヴァーと録音時期が重なるため、クラークの演奏はリタ ーン・トゥ・フォーエヴァーそのものである。このクラークの裏の顔のようなエムトゥー メとの付き合いは、ガトー・バルビエリのアルバムなどで続いていくのである。
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■Mtume Umoja Emsemble / Alkebu-Lan (Land Of The Blacks) 
 1971年の8月にライヴ録音された、一大音楽絵巻。
 エムトゥーメは、演奏、作曲、編曲、プロデュースと、
 後のブラック・コンテンポラリー時代に通じるような
 多方面での活躍をみせる。

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■Buddy Terry / Pure Dynamite
 スタンリー・クラーク、レニ―・ホワイト、アイアート・
  モレイラなど、リターン・トゥ・フォーエヴァー関係者の
 参加が眼を惹く。クラーク作の《クワイエット・アフタヌ
 ーン》は、『スクール・デイズ』収録曲とは別の曲。

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■Chick Corea / Return To Forever
 スタンリー・クラーク、アイアート・モレイラ参加の
  ジャズの世界の超有名盤。チック・コリアの世界と、
  ブラジルおよびアフロ・アメリカンの世界が交錯する
  1枚。クラークの表のお仕事。

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■Gato Berbieri / Bolivia : Under Fire (2in1)
 エムトゥーメ、ロニ―・リストン・スミス、スタンリー・
 クラークが参加の2枚をカップリングしたお徳用CD。
 (このジャケットは『ボリヴィア』)。 ウモジャ・アン
 サンブルから継続するクラークの裏人脈のお仕事。

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