●アフリカ志向を推進するエムトゥーメ

叔父さんにあたるアルバート・ヒースのアルバム『カワイダ』で、演奏のみならず自分の
曲を発表する機会を得て実質上のデビューをはたしたエムトゥーメ。彼は、1970年頃から
ニュー・ヨークで音楽活動を開始したようである。ニュー・ヨークに来る前は、カリフォ
ルニアで正式に音楽を勉強していたらしい。エムトゥーメが、演奏だけではなく作曲面の
才能もあるのは、父親が有名なサックス奏者という音楽的に恵まれた環境の影響だけでは
なかったようだ。エムトゥーメは、1971年の夏頃からマイルス・デイヴィスのグループに
参加している。デイヴィスのグループに誘われる前は、トランペット奏者のフレディ・ハ
バードのグループにいたらしい。ほぼ同時期に、ニュー・ジャージー出身のサックス奏者
のバディ・テリーのアルバムにも関わっている。エムトゥーメは、『カワイダ』に続いて
テリーのアルバムでも演奏のみならず自作曲を提供して大きな貢献をしている。
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■パーカッション奏者のエムトゥーメ
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■Buddy Terry / Awakeness
 ブロードウェイやTVでも活躍していたバディー・テリー
 のアルバム。エムトゥーメ作の《カミリ》を収録。
 アフリカンなオープニングに続くメロウなエレクトリック
 ・ピアノ、およびエロティックなコンガが心地よい。

デイヴィスのグループに参加した時期のエムトゥーメは、ストラタ・イースト・レーベル で、エムトゥーメ・ウモジャ・アンサンブル名義の『アルケブ・ラン』というアルバムを 制作している。LPレコード2枚組の大作である。メンバーは、『カワイダ』やバディ・ テリーのアルバムに一緒に参加していたハービー・ハンコックのエムワンディシのベース 奏者のバスター・ウィリアムス、デイヴィスの『オン・ザ・コーナー』に参加するエムワ ンディシのドラム奏者のビリー・ハート、同じくデイヴィスの『オン・ザ・コーナー』に 参加するサックス奏者のカルロス・ガーネット、当時のデイヴィスのグループのサックス 奏者のゲイリー・バーツ、ストラタ・イーストの設立者の1人でテリーのアルバムにも参 加していたキーボード奏者のスタンリー・カウエルなどが顔を揃えている。デイヴィスや ハンコックに連なる人脈が、エムトゥーメを中心に出揃ってきた感がある。
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■Herbie Hancock / Mwandishi 
 デイヴィスの『イン・ア・サイレント・ウェイ』、ハンコ
 ックの前作『ザ・プリズナー』、ヒースの『カワイダ』、
 この『エムワンディシ』と続けて聴いてみると、このアル
 バムと以降のハンコックの音楽が明確になるように思う。

『アルケブ・ラン』は、『カワイダ』で実践したアフリカ志向を、さらに推し進めたよう な音楽である(最後の曲では”カワイダー”と皆で叫んでいる)。エムトゥーメの創る曲 のメロディは、どこかジョン・コルトレーンを想起させる。演奏も、後期コルトレーンの ような、フリー・ジャズ的展開になる場面が多い。しかし、複数のヴォーカル(というよ りもヴォイスか)および複数のドラムスとパーカッションの強烈なリズムによって、アフ リカ的ななんらかの儀式のように聴こえる場面も少なくない。とにかく熱狂的な音楽だ。 メンバーは流動的だったようで、ロニー・リストン・スミスやスタンリー・クラークが参 加することもあったそうだ。『アルケブ・ラン』のような音楽を、20代前半のエムトゥー メが中心になって作ることができたのは、それだけの人を集める熱意とパワーをもってい たということである。エムトゥーメのことが少し見えてきた気がする。
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■Mtume Umoja Emsemble / Alkebu-Lan (Land Of The Blacks) 
 1971年の8月にライヴ録音された、一大音楽絵巻。
 エムトゥーメは、演奏、作曲、編曲、プロデュースと、
 後のルーカスとのプロデューサー時代に通じるような
 多方面での活躍をみせてくれる。