●レジー・ルーカスとエムトゥーメ

ここ何日か、レジー・ルーカスとエムトゥーメのことが頭から離れない。といわれても、
なんのことだか、よくわからない人も多いだろう。「エムトゥーメってなに?」という人
も少なくないと思われる。レジー・ルーカスもエムトゥーメも人の名前である。エムトゥ
ーメには、ジェームズ・フォアマンという”アメリカ人っぽい名前”もあるが、なぜエム
トゥーメという名前になったのかは、いまは脇においておく。ジャズに詳しい人は、70年
代にリリースされたいくつかのアルバムで、彼らの名前を見かけたことがあるだろう。も
っとも知られているのは、おそらくマイルス・デイヴィスのグループのメンバーとしての
彼らの演奏ではないかと思われる。デイヴィスが、ジャズというジャンルを大きく超えた
ワン・アンド・オンリーの黒々とした劇的なエレクトリック・サウンドを創りだすアーテ
ィストへと変貌した時期の音楽に、彼らの演奏は多大な貢献を果たしていた。
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■ギター奏者のレジー・ルーカス
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■パーカッション奏者のエムトゥーメ
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■Miles Davis / Get Up With It 
 《マイシャ》、《カリプソ・フレリモ》、《レイテッドX》
 という、問答無用のブラック・ミュージックの傑作を含む、
 デイヴィスのコンピレーション・アルバム。 ルーカスと
 エムトゥーメがいた時期のデイヴィスの音楽を俯瞰できる。

一方で、ソウル・ミュージックがブラック・コンテンポラリーと呼ばれるようになった頃 の音楽が好きな人ならば、プロデューサー・チームとしてルーカスとエムトゥーメの名前 を知っているという人も多いと思われる。エムトゥーメの場合は、自分の名前を冠にした ”エムトゥーメ(エムトゥーメイと表記する場合もあるが、ここではエムトゥーメに表記 を統一)”というグループでヒット曲も出していたため、エムトゥーメといえばグループ やヒット曲が思い浮かぶ人も少なくないかも知れない。ルーカスとエムトゥーメ、もしく はどちらか一方がプロデュースや楽曲提供をしたもので、多くの人が耳にした可能性がも っとも高いのは、おそらくマドンナのファースト・アルバムである。エムトゥーメを退団 した後のルーカスが、殆どの曲をプロデュースしている。このアルバムからは、2曲が全 米ヒット・チャートでトップ10入りを果たした。
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■エムトゥーメ(グループ)
 70年代から80年代のブラック・ミュージックの香りが
 プンプンしてきそうな格好のエムトゥーメのメンバー達。
 フィラデルフィアの有名なブランド品のひとつ
 カウボーイ・ハットをかぶったルーカスがカッコイイ

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■Madonna / Madonna 
 ルーカスが殆どの曲をプロデュースしている、マドンナ
 のデビュー・アルバム。
 マドンナは次作の《ライク・ア・ヴァージン》で人気が
 決定的になったが、ルーカスのサウンドが先鞭をつけた。
ルーカスやエムトゥーメのことは、こういったおおまかな経歴面の知識や、彼らが手掛け たいくつかのヒット曲で、なんとなく知ってるつもりになっていた。しかし、改めて考え てみると、知らないことや確認してみたいことは少なくない。むしろ、知れば知るほど、 確認および検証したい事項が増えていってしまうのである。例えば、デイヴィスが彼らに 求めたものや、彼らがデイヴィスの音楽に与えたもの、彼らの音楽とデイヴィスの音楽と の関連性、ヒップ・ホップとの関係といったことである。検証してみたい項目はいろいろ とでてくるが、ひとつのテーマを掘り下げようとすると、あまりにも奥が深すぎて、どう したものかと考えてしまう。したがって、ここ何日か、ルーカスとエムトゥーメのことが 頭から離れなくなっているというわけだ。こういうときは、難しく考えず、彼らの辿って きた道をふりかえってみるのがよいだろう。まずは彼らの原点からスタートしてみたい。
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■Mutume & Reggie Lucas / The Best Of Mutume & Lucas
 彼らの手掛けた主要な楽曲を集めたコンピレーション。
 ルーカスとエムトゥーメを振り返る前に、彼らが楽曲制作
 チームとして作りあげたサウンドの概観を知るには便利な
 アルバムである。