●ファンクを遡ってみる

ファンクを感じさせる音楽的な条件とはなんなのか。ファンクと呼ばれている曲を遡って
みると、なにかわかるかもしれない。これまでにわかっていることは、その曲にメインの
メロディと同じくらい印象的かつブルース・ロック的なフィーリングも感じるリフがある
曲にはファンクを感じやすい。そのリフを弾いている楽器が、ヘヴィーなベースであれば
ファンク度は増大する。ただし、クリームの《サンシャイン・オブ・ユア・ラヴ》、ステ
イプル・シンガーズの《アイル・テイク・ユー・ゼア》、アーチー・ベル&ザ・ドレルズ
の《タイトゥン・アップ》のように、メインのメロディと同じくらい印象的なリフであっ
ても、必ずしもファンクを感じるわけではない。また、その曲を演奏する人が白人か黒人
かは、ファンクを感じるかどうかとは関係がなさそうであるということくらいか。まず、
一般的にファンクの創始者と言われるジェームズ・ブラウンのヒット曲を聴いてみよう。

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■James Brown / Star Time

 《シンク》、《アウト・オブ・サイト》、《パパズ・ゴッ
 ト・ア・ブランド・ニュー・バッグ》、《コールド・スェ
 ット》など、ブラウンの代表曲を集めたコンピレーション。

これらのブラウンのヒット曲を年代順に聴いてみると、ブラウンが試行錯誤を繰り返しな がら、新しいビート感覚の音楽を作りあげてきたことが伝わってくる。それらのビートが ブラウンとそのバンドによって生み出されたものであることは、それ以前や同時代の音源 を聴くことで確認することが可能である。では、それらはファンクと言えるのか。ブラウ ンの初期のヒット曲の《シンク》や《アウト・オブ・サイト》を、最初のファンクのレコ ードとする人も多いようである。しかし、それらの曲をぼくはファンクと思っていない。 ぼくがファンクを感じる曲と、それらの曲はなにが違うのか。それはビート感覚である。 まったく同じ理由で、最初のファンクのレコードとしてあげられることが多いアイズレー ・ブラザーズの《テスティファイ》も、ぼくはファンクとは思わない。ファンクのルーツ にはあたるのかもしれないが、ビートの感覚が明らかに違うのである。
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■The Isley Brothers / The Story Of The Isley Brothers

 アイズレー・ブラザーズの素晴らしいコンピレーション。
 《テスティファイ》では、若き日のジミ・ヘンドリックス
 がギターを弾いている。

ブラウンの《シンク》や《アウト・オブ・サイト》、アイズレー・ブラザーズの《テステ ィファイ》の基本となるビートは8ビートである。《サンシャイン・オブ・ユア・ラヴ》 や《アイル・テイク・ユー・ゼア》も同じだ。8ビートの曲は、”ファンキー”だと思う 曲はあっても、「ファンクである」と言いきれる曲は少なくともぼくにはない。ぼくがフ ァンクを感じる曲に共通しているのは、8ビートではなく16ビートの感覚なのである。 その意味で「これはファンクである」と言える最初のブラウンの曲は、1967年の《ゼア・ ワズ・ア・タイム》である。ブラウンのみならず、レコードに記録された最初のファンク といってもよいかもしれない。というのも、ブラウンが様々なダンス・ステップを披露す る《ゼア・ワズ・ア・タイム》を聴いていると、最初のファンクというのは、ブラウンの ライヴの現場でもっと早くに誕生していたのかもしれないと思ってしまうのである。
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■James Brown / Live At The Apollo

 《ゼア・ワズ・ア・タイム》で観客を巻き込んでいく様
 は、ファンクができあがる過程をみるようである。
 そこから《コールド・スェット》になだれこむところが
 このライヴ・アルバムの前半のハイライトだ。