マイルス・デイヴィスの『ビッチェズ・ブリュー』に収録されている、ファンクを感じる 3曲(《ビッチェズ・ブリュー》、《スパニッシュ・キー》、《マイルス・ランズ・ザ・ ヴードゥ・ダウン》)は、全てデイヴィス自身のペンによる曲という点にも注目である。 《ビッチェズ・ブリュー》という曲の一部のパートを抜き出して、”曲”としてアルバム に収録した《ジョン・マクラフリン》を除く残りの2曲、つまりジョー・ザヴィヌル作の 《ファラオズ・ダンス》とウェイン・ショーター作の《サンクチュアリ》には、きちんと 譜面に書かれていたと思われるメロディがある。ベース・ラインも、曲の核のような働き をしているいるわけではない。それに対してデイヴィスの3曲は、メロディは存在しない ともいえ、シンプルに繰り返されるベース・ラインが、曲を成立させるうえでの大きな核 となっている。この点が、デイヴィスの曲にファンクを感じるポイントであると思う。 3曲のうち、《ビッチェズ・ブリュー》のベース・ラインが、もっとも強烈な印象のベー ス・ラインである。ディレイ処理されたトランペットのイントロも鮮烈だが、その後に続 くベース・ラインをもとにした演奏は、リフ型のファンクの初期の姿と呼んでもよいかも しれない。デイヴィスは、このベース・ラインを、どのようにして思いついたのだろう。 もし、デイヴィスと話をすることができたならば訊いてみたかった。《スパニッシュ・キ ー》は、リズムだけをとれば、3曲のうち一番ファンク・ミュージックに近い。この曲は 、デイヴィスの吹くテーマ・メロディらしきリフが一応ある。それに対するベース・ライ ンは、リフ型のファンクと呼べるほど印象的なものではない。しかし、シンプルな(ベー ス・ラインを含む)リズムが繰り返され、次第に熱を帯びいていく様は、あきらかにファ ンク・ミュージックのもたらすグルーヴと同じ高揚感をもたらす。 《マイルス・ランズ・ザ・ヴードゥ・ダウン》のベース・ラインは、R&Bのフィーリン グが強いラインである。この曲の成立過程は諸説あるが、個人的にはジェームス・ブラウ ンの《アイ・ガット・ザ・フィーリン》という曲がヒントになったのではと思っている。 《アイ・ガット・ザ・フィーリン》のベース・ラインを、少し音数を減らして、コッテリ とスローにすると、《マイルス・ランズ・ザ・ヴードゥ・ダウン》に似たようなラインに なるのではないか。弾かれている音が違うので、厳密に同じにはならないが、フィーリン グは非常に似た感じになると想像するのである。なお、『ビッチェズ・ブリュー』には、 バス・クラリネット奏者としてベニ―・モウピンが参加している。唐突にバス・クラリネ ットがでてくるのが興味深いが、ブラウンのバンドにおけるバリトン・サックスをヒント にしたような気がしないでもない。曲における役割が、非常に似ていると思うのである。
Bitches Brew ( Miles Davis ) | |
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Released : April 1970 Disk1 1.Pharaoh's Dance, 2.Bitches Brew Disk2 1.Spanish Key, 2.John McLaughlin, 3.Miles Runs The Voodoo Down, 4.Sanctuary + bonus track 5.Feio |