●マイルス・デイヴィスのファンク(4)

マイルス・デイヴィスの『ビッチェズ・ブリュー』に収録されている、ファンクを感じる
3曲(《ビッチェズ・ブリュー》、《スパニッシュ・キー》、《マイルス・ランズ・ザ・
ヴードゥ・ダウン》)は、全てデイヴィス自身のペンによる曲という点にも注目である。
《ビッチェズ・ブリュー》という曲の一部のパートを抜き出して、”曲”としてアルバム
に収録した《ジョン・マクラフリン》を除く残りの2曲、つまりジョー・ザヴィヌル作の
《ファラオズ・ダンス》とウェイン・ショーター作の《サンクチュアリ》には、きちんと
譜面に書かれていたと思われるメロディがある。ベース・ラインも、曲の核のような働き
をしているいるわけではない。それに対してデイヴィスの3曲は、メロディは存在しない
ともいえ、シンプルに繰り返されるベース・ラインが、曲を成立させるうえでの大きな核
となっている。この点が、デイヴィスの曲にファンクを感じるポイントであると思う。

3曲のうち、《ビッチェズ・ブリュー》のベース・ラインが、もっとも強烈な印象のベー
ス・ラインである。ディレイ処理されたトランペットのイントロも鮮烈だが、その後に続
くベース・ラインをもとにした演奏は、リフ型のファンクの初期の姿と呼んでもよいかも
しれない。デイヴィスは、このベース・ラインを、どのようにして思いついたのだろう。
もし、デイヴィスと話をすることができたならば訊いてみたかった。《スパニッシュ・キ
ー》は、リズムだけをとれば、3曲のうち一番ファンク・ミュージックに近い。この曲は
、デイヴィスの吹くテーマ・メロディらしきリフが一応ある。それに対するベース・ライ
ンは、リフ型のファンクと呼べるほど印象的なものではない。しかし、シンプルな(ベー
ス・ラインを含む)リズムが繰り返され、次第に熱を帯びいていく様は、あきらかにファ
ンク・ミュージックのもたらすグルーヴと同じ高揚感をもたらす。

《マイルス・ランズ・ザ・ヴードゥ・ダウン》のベース・ラインは、R&Bのフィーリン
グが強いラインである。この曲の成立過程は諸説あるが、個人的にはジェームス・ブラウ
ンの《アイ・ガット・ザ・フィーリン》という曲がヒントになったのではと思っている。
《アイ・ガット・ザ・フィーリン》のベース・ラインを、少し音数を減らして、コッテリ
とスローにすると、《マイルス・ランズ・ザ・ヴードゥ・ダウン》に似たようなラインに
なるのではないか。弾かれている音が違うので、厳密に同じにはならないが、フィーリン
グは非常に似た感じになると想像するのである。なお、『ビッチェズ・ブリュー』には、
バス・クラリネット奏者としてベニ―・モウピンが参加している。唐突にバス・クラリネ
ットがでてくるのが興味深いが、ブラウンのバンドにおけるバリトン・サックスをヒント
にしたような気がしないでもない。曲における役割が、非常に似ていると思うのである。

Bitches Brew ( Miles Davis )
cover

Released  : April 1970

Disk1
1.Pharaoh's Dance, 2.Bitches Brew
Disk2
1.Spanish Key, 2.John McLaughlin, 3.Miles Runs The Voodoo Down, 4.Sanctuary
+ bonus track
5.Feio

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