ハービー・ハンコックが『ヘッド・ハンターズ』を創るにあたって影響を受けたミュージ シャンとして、またハンコックと同様にスライ&ザ・ファミリー・ストーンの音楽の影響 を受けたミュージシャンの1人として、マイルス・デイヴィスとファンクの関係について も考えてみたい。デイヴィスの音楽の場合、ファンクは音楽を構成するひとつの要素にす ぎない。いろいろな音楽の要素は、多くのミュージシャンの音楽に聴くことができる。し かしそれらは、デイヴィスの音楽に比べればシンプルでわかりやすい。デイヴィスの音楽 は、いろいろな音楽の要素を取り入れながら、最終的に”マイルス・デイヴィスの音楽” (換言すれば、他の誰もがやったことのない創造的で新しい音楽)と呼ぶしかないレヴェ ルに各要素が消化されている。したがってデイヴィスの音楽におけるファンクは、曲のな かで要素的に現れるものにすぎず、その音楽は直接ファンクとは呼びにくいのである。 デイヴィスのアルバムのなかで、ファンクという言葉に結び付けて語られることが多いの が『オン・ザ・コーナー』である。デイヴィス自身が、ジェームス・ブラウンとスライか ら影響を自伝で語っているアルバムだ。しかし、『オン・ザ・コーナー』に収録された音 楽のうち、どの部分に影響を受けたのかは具体的に語られていない。『オン・ザ・コーナ ー』は、一見たくさんの曲が入っているようにみえるが、《ブラック・サテン》以下3曲 は、同じベース・リフの曲である。しかし、ベースのリフ主体のファンクかと問われると 微妙だ。スライの影響は、《ブラック・サテン》の手拍子やハイ・ハットの使い方などに 感じられなくもないが正直わからない。むしろ《ブラック・サテン》のリズム・パターン と混沌とした音像から連想するのは、ぼくの場合はファンカデリックの『マゴット・ブレ イン』に収録されている《ウォーズ・オブ・アルマゲドン》という曲だ。 一方の《オン・ザ・コーナー》から《ヴォート・フォー・マイルス》は、インドとアフリ カのリズムを並べ、同時にグルーヴさせたような曲である。こちらは、ブラウンの曲よう に、パーツ型ファンクといえる。この曲の大きな特徴は、演奏をぶったぎって途中から曲 がはじまるところにある。そのため冒頭のギターの音を、小節の先頭と勘違いしやすい。 いや、わかっていてもリズムをとれない。しばらくの間、奇妙なグルーヴのまっただなか に放り出される感覚を味わう。ストリートで踊るための音楽のように語られることもある が、いわゆるダンス・ミュージック(ディスコなど踊って楽しむために作られた音楽)と は違うように思う。踊らせるというより、宗教的な儀式における音楽のように、周囲にい る人が自然と声をあげ、動きだしてしまうような音楽だと思う。パーツ型のファンクでは あるが、その特徴がファンクを包み込んで”デイヴィスの音楽”にしてしまうのである。
| On The Corner ( Miles Davis ) | |
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Released : 1972 1.On the Corner / New York Girl / Thinkin' One Thing and Doin' Another / Vote for Miles, 2.Black Satin, 3.One and One, 4.Helen Butte / Mr. Freedom X |