●マイルス・デイヴィスのファンク(1)

ハービー・ハンコックが『ヘッド・ハンターズ』を創るにあたって影響を受けたミュージ
シャンとして、またハンコックと同様にスライ&ザ・ファミリー・ストーンの音楽の影響
を受けたミュージシャンの1人として、マイルス・デイヴィスとファンクの関係について
も考えてみたい。デイヴィスの音楽の場合、ファンクは音楽を構成するひとつの要素にす
ぎない。いろいろな音楽の要素は、多くのミュージシャンの音楽に聴くことができる。し
かしそれらは、デイヴィスの音楽に比べればシンプルでわかりやすい。デイヴィスの音楽
は、いろいろな音楽の要素を取り入れながら、最終的に”マイルス・デイヴィスの音楽”
(換言すれば、他の誰もがやったことのない創造的で新しい音楽)と呼ぶしかないレヴェ
ルに各要素が消化されている。したがってデイヴィスの音楽におけるファンクは、曲のな
かで要素的に現れるものにすぎず、その音楽は直接ファンクとは呼びにくいのである。

デイヴィスのアルバムのなかで、ファンクという言葉に結び付けて語られることが多いの
が『オン・ザ・コーナー』である。デイヴィス自身が、ジェームス・ブラウンとスライか
ら影響を自伝で語っているアルバムだ。しかし、『オン・ザ・コーナー』に収録された音
楽のうち、どの部分に影響を受けたのかは具体的に語られていない。『オン・ザ・コーナ
ー』は、一見たくさんの曲が入っているようにみえるが、《ブラック・サテン》以下3曲
は、同じベース・リフの曲である。しかし、ベースのリフ主体のファンクかと問われると
微妙だ。スライの影響は、《ブラック・サテン》の手拍子やハイ・ハットの使い方などに
感じられなくもないが正直わからない。むしろ《ブラック・サテン》のリズム・パターン
と混沌とした音像から連想するのは、ぼくの場合はファンカデリックの『マゴット・ブレ
イン』に収録されている《ウォーズ・オブ・アルマゲドン》という曲だ。

一方の《オン・ザ・コーナー》から《ヴォート・フォー・マイルス》は、インドとアフリ
カのリズムを並べ、同時にグルーヴさせたような曲である。こちらは、ブラウンの曲よう
に、パーツ型ファンクといえる。この曲の大きな特徴は、演奏をぶったぎって途中から曲
がはじまるところにある。そのため冒頭のギターの音を、小節の先頭と勘違いしやすい。
いや、わかっていてもリズムをとれない。しばらくの間、奇妙なグルーヴのまっただなか
に放り出される感覚を味わう。ストリートで踊るための音楽のように語られることもある
が、いわゆるダンス・ミュージック(ディスコなど踊って楽しむために作られた音楽)と
は違うように思う。踊らせるというより、宗教的な儀式における音楽のように、周囲にい
る人が自然と声をあげ、動きだしてしまうような音楽だと思う。パーツ型のファンクでは
あるが、その特徴がファンクを包み込んで”デイヴィスの音楽”にしてしまうのである。

On The Corner ( Miles Davis )
cover
Released  : 1972

1.On the Corner / New York Girl / Thinkin' One Thing and Doin' Another / Vote for Miles,
2.Black Satin, 3.One and One, 4.Helen Butte / Mr. Freedom X

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