ハービー・ハンコックの《カメレオン》を起点として、メインのメロディ以上に印象的な リフが主体になるタイプのファンクのルーツを辿って、いろいろなグループやミュージシ ャンの曲を、時代をさかのぼって聴いてみた。そうすると、ジェームズ・ブラウンの曲は パーツ型のファンクでリフ型とは異なったスタイルのファンクといえ、スティーヴィー・ ワンダーの《迷信》や、ニューオーリンズのミータ―ズの《シシー・ストラット》は、ハ ンコックの《カメレオン》と同じようなリフ型のファンクということができそうだという ことがわかってきた。そのような観点で、ミータ―ズの《シシー・ストラット》の先にあ った曲を考えたときに、最後に浮上してくるのは、やはりスライ&ザ・ファミリー・スト ーンである。彼らの4作目のアルバム『スタンド!』に収録されていた《シング・ア・シ ンプル・ソング》という曲が、ファンキーで強烈なリフ型ファンクの元祖といえるのだ。 《シング・ア・シンプル・ソング》の最初のリリースは、1968年11月発売の全米No.1シン グル《エヴリディ・ピープル》のB面である。ギターとベースが主体の、とてつもなくフ ァンキーなリフが主役の曲だ。ミータ―ズやキング・カーティスにすぐにカヴァーされ、 ジミ・ヘンドリックスは黒人メンバーのみで結成したグループのバンド・オブ・ジプシー ズのライヴで、自分の傑作曲の《ヴゥードゥ・チャイル(スライト・リターン)》とメド レーで演奏している。マイルス・デイヴィスは、『ジャック・ジョンソン』に収録された 《ライト・オフ》のなかで、すこしかたちを変形して取り入れている。同時代の大物ミュ ージシャンが、それだけヴィヴィッドに反応したことを考えても、強烈な印象を与えた曲 であることは間違いないだろう。しかし、もとに戻ってハンコックの《カメレオン》との 対比で考えると、同じタイプの曲とはいえるが、直接的な影響がみえてこない。 《カメレオン》に影響を与えた曲として、ハンコックはスライ&ザ・ファミリー・ストー ンきってのファンク・チューンといえる《サンキュー》をあげているようである。確かに 《サンキュー》の影響は感じられなくもない。しかしそれは《カメレオン》の”ダダダ、 ズッタッタ”というベース・ラインの後半の”ズッタッタ”という部分のみである。前半 の”ダダダ”には《サンキュー》の影響は感じない。そこでさらに浮かび上がってくるの が、スライ&ザ・ファミリー・ストーンの初期のヒット曲の《ダンス・トゥ・ザ・ミュー ジック》や《マ’レイディ》である。これらの曲の”ブリブリ”というヘヴィーなベース ・ラインの最初の数音は、《カメレオン》のベース・ラインの最初の数音と同じなのだ。 これらの曲のベース・ラインを聴くと、《カメレオン》のヘヴィーなベース・ラインの最 初の源になったのは、これに違いないと思ってしまうのだがどうだろう。