スティーヴィー・ワンダーの《スーパースティション(邦題:迷信)》のように、リフが 主体となるファンクは、どのように生まれたのだろう。そう考えたとき、浮かんでくるの は、ブルースを基盤にしたロックである。クリームやレッド・ツェッペリンといった、60 年代から70年代にかけて人気があったロック・グループの多くは、ブルースを基盤にした ハードな音楽をやっていた。彼らがカヴァーしたブルースの楽曲の多くは、ヴォーカルで 歌われるメイン・メロディーと、ブギウギ・ピアノを参考にしたような強烈なギター・リ フにより成り立っていた。クリームやレッド・ツェッペリンは、古いブルースのリフを大 音量で鳴らすことで現代に再生させた。スティーヴィー・ワンダーのように先進的な黒人 ミュージシャンが、再生されたブルースのリフ(いうまでもなく、もともとは黒人が生み 出したもの)から大きなインスパイアを受けたことは想像に難くない。 ブルース・ロックではなく、ブラック・ミュージックの流れのなかで強力なリフのファン クといえる曲を《迷信》以前に遡ってみると、頭に浮かんでくるのは、やはりロックの影 響を強く感じさせる曲である。具体的には、スライ&ザ・ファミリー・ストーンの《シン グ・ア・シンプル・ソング》、ミータ―ズの《シシー・ストラット》といった曲である。 60年代から70年代前半に、新しい音楽を目指していたミュージシャンやプロデューサーに してみれば、音楽的な意味でも、商業的な見地からでも、最新のロックの影響を受けない ほうが難しかったであろうと想像する。エレクトリック・ギターがメインでフィーチャー されるミータ―ズの楽曲は、とくにロックの影響を強く感じる。それでも《シシー・スト ラット》は、やはりロックとはいえない。ロック的なフィーリングは強く感じさせるもの の、フィーリングとして伝わってくるのはやはりファンクである。 《シシー・ストラット》は、メインのメロディと対応するリフという構造の曲ではない。 リフそのものが、メインのメロディーといってよいような曲である。ギターとベースで演 奏される、どっしりとしたリフの強力なこと。そのリフからは、ブルース・ロックの影響 を強く感じる。しかし、そこに彼らのトレード・マークといえる独特のリズムが加わると 、ファンクに生まれ変わってしまうのである。演奏のグルーヴが生みだしているフィーリ ングは、ジャズでもロックでもソウルでもなく、やはりファンクとしかいいようのないの である。このような刺激的な楽曲が、60年代に創られたのはショッキングだ。《シシー・ ストラット》をリアルタイムで聴いた多くのミュージシャンは、なんらかのインスパイア を受けたことは想像に難くない。バンド・オブ・ジプシーズの演奏を聴くと、ジミ・ヘン ドリックスも、ミータ―ズの大きな影響を受けたような気がするのである。