●ロックへの旅(第五章):ユー・ディドント・ハヴ・トゥ・ビー・ソー・ナイス
    (ザ・ラヴィン・スプーンフル:1965)

ある歌手やグループのシングルの傑作曲は、ヒット・チャートで必ず上位を獲得すること
ができるのか?チャートの歴史を振り返ってみれば、必ずしもそうでなかったことがわか
ります。例えば、いまではロック史的な評価がある程度固まった感のあるビーチ・ボーイ
ズの傑作アルバム『ペット・サウンズ』の冒頭を飾っていた曲で、シングルとしても発売
された《ウドゥント・イット・ビー・ナイス(邦題:素敵じゃないか)》は、なんと最高
位8位です。ビートルズの最も偉大な曲のひとつの《ストロベリー・フィールズ・フォー
エヴァー》も、意外なことに同じく最高位は8位なのです(いずれもアメリカのビルボー
ドのチャートの最高位)。8位だって立派な成績ですが、当時のビートルズやビーチ・ボ
ーイズのおかれていた状況と、ロック史的からみた傑作の度合いを鑑みてみれば、8位と
いうチャートでの成績は意外であり、当事者達にとっても意外だったはずです。

1965年に《ドゥ・ユー・ビリーヴ・イン・マジック(邦題:魔法を信じるかい?)》でデ
ビューしたラヴィン・スプーンフルの第2弾シングルの《ユー・ディドント・ハヴ・トゥ
・ビー・ソー・ナイス(邦題:うれしいあの娘)》も、チャートでの最高位は10位と高
くありません。同じ年のラヴィン・スプーンフルのヒット曲だと、No.1の《サマー・イン
・ザ・シティ》はともかく、けったるい《デイ・ドリーム》(決して嫌いではないのです
よ)のほうがチャート上の順位は上なのです。なぜ《デイ・ドリーム》よりも《ユー・デ
ィドント・ハヴ・トゥ・ビー・ソー・ナイス》のほうが順位が下なのか。しかも《デイ・
ドリーム》は、最近シャネルの口紅のCMにまで使われているではありませんか(ただし
歌っているのは、CMにも出演しているヴァネッサ・パラディ)。ぼくには、どーにも納
得がいかないのです。

いかにも60年代中期を感じさせる華やかなイントロ。チャイムを模したような、ギターの
メロディ。ドシラソと下降する、外に歩きだしたくなるようなベース・ライン。裏側で華
やかな雰囲気を醸し出しているオルガンのサウンド。そしてもっともたまらないのが、ヴ
ォーカルを追いかけるコーラス・ハーモニー。この曲を歌うとすると、このハーモニーの
ほうを歌いたくなってしまうのです。それくらい、このハーモニーは素晴らしい。《ユー
・ディドント・ハヴ・トゥ・ビー・ソー・ナイス》こそ、ラヴィン・スプーンフルの最高
のパフォーマンスだとぼくは信じて疑わないのです。「イギリス人のグループではなく、
自分の国が生んだ誇るべき初期のロック・グループのひとつなのに、なぜチャートの10
位で満足できるのか。えー、どうなんだい!」と、当時のアメリカ人にどうしても文句の
ひとつも言いたくなってしまう曲なのです。

《 You Didn't Have to Be So Nice 》 ( The Lovin' Spoonful )
cover

The Lovin' Spoonful are
John Sebastian(vo,autoharp,g), Zal Yanovsky (vo,elg), Steve Boone(elb) and Joe Butler(ds) 

 
Written  by John Sebastian & Steve Boone
Produced by Erik Jacobsen
Recorded  : 1965
Released  : 1965
Charts    : POP#10
Label     : Kama Sutra

Appears on : Daydream
1.Daydream, 2.There She Is, 3.It's Not Time Now, 4.Warm Baby, 5.Day Blues, 6.Let the Boy Rock and Roll, 
7.Jug Band Music, 8.Didn't Want To Have To Do It, 9.You Didn't Have To Be So Nice, 10.Bald Headed Lena,
11.Butchie's Tune, 12.Big Noise From Speonk
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