ジェリー・ゴフィンとキャロル・キングのソングライター・チームが書いた、シレルズの 《ウィル・ユー・ラヴ・ミー・トゥモロウ》で全米No.1になったのが1961年の2月です。 同じ月に、同じ音楽事務所にいたソング・ライターが、自作曲を歌って全米4位のヒット を飛ばします。ニール・セダカが歌った《カレンダー・ガール》です。最近では、こうし たポップスを日本の歌手が歌う機会はなくなってしまいましたが、ぼくが子供の頃は、坂 本九、ジェリー藤尾、ゴールデン・ハーフ、キャンディーズといった人達が、TVで頻繁 にこうしたポップスを歌っていました。最初に《カレンダー・ガール》を聴いたのは、そ うした日本の歌手によるカヴァーだったと思います。誰が歌っていたのかまでは憶えてい ませんが、メロディーは強く印象に残ったのでしょう。ものごころついてからセダカのオ リジナルを聴いたとき、昔聴いていたのですんなりと耳に入ってきました。 それだけ強く印象に残った理由を考えてみると、やはり多くのポップスのなかでもひとき わ目立つ、明るく、リズミカルなメロディにあると思います。そのメロディを強調してい るのが、ドラムをフィーチャーしたリズムです。この曲には、”ダガ、ダンダ、ダンダ” というドラム・ロールがでてきますが、このドラム・ロールがあるのとないのとでは、曲 の印象は全く違うものになるでしょう。ロックンロールの時代に呼応たアレンジかもしれ ませんが、このドラム・ロールは《カレンダー・ガール》という曲のメロディの一部とい っても過言ではないくらいです。そのドラム・ロールのリズムに合わせて、メロディが、 ”チャカ、チャンチャ、チャンチャ”ときます。ドラムとメロディが同じリズムでシンク ロするため、相乗効果を生んで、リズミカルなメロディのもつ明るく楽しい雰囲気がより 強調されるように思います。 あとは歌詞をどうのっけるかですが、「ア、ラバ、ラバ、ラバ」と、一度聴いたら絶対忘 れないような上手い歌詞を、セダカの盟友のハワード・グリーンフィールドが提供してい ます。しかし、この曲に関しては、グリーンフィールドは歌詞もかなりの部分はセダカが 思いついていたのかもしれません。それくらいリズム、メロディ、歌詞のコンビネーショ ンは絶妙です。それだけでは、ただのバブルガム・ポップなのですが、セダカは間奏にグ ロッケンを使用して、曲に見事な陰影をつけます。バンドで演奏しているサックスかギタ ーに間奏を演奏させてしまうのが普通の人の考えることですが、セダカはわざわざグロッ ケンをもってきているのです。このグロッケンが、明るいだけの曲に切ない感情をプラス しているのです。ぼくはこのようなところに、モーツァルトが60年代のニューヨークによ みがえって思いっきりポップな曲を創っているようなセダカの天才性を感じるのです。