1965年にディランの《ミスター・タンブリンマン》をひっさげて登場したバーズは、「ア メリカからのビートルズへの回答」と呼ばれていたそうです。当時、バーズのメンバーだ ったデヴィッド・クロスビー曰く、「レコード会社の宣伝さ、ビートルズとバーズでは格 が違いすぎる」ということですが、全米チャートで易々とNo.1ヒットを飛ばすビートルズ 、ローリング・ストーンズ、デイヴ・クラーク・ファイヴといったイギリスのロック・バ ンドに拮抗しうる”アメリカのロック・バンド”は、バーズが登場するまではいなかった といってよいでしょう。唯一、例外的な存在としてビーチ・ボーイズが思い浮かびますが 、《カリフォルニア・ガールズ》のヒット以前の彼らは、”ロック・バンド”というより ”ロックン・ロール・バンド”と呼んだほうがしっくりきます。ラヴィン・スプーンフル がヒット・チャートに登場したのは、そのような状況においてでした。 ”ダダンッ、ダダンッ”というリズムが印象的な、明るい《ドゥ・ユー・ビリーヴ・イン ・マジック(邦題:魔法を信じるかい?)》という曲が、ラヴィン・スプーンフルの最初 のシングルです。全米9位までのぼる大ヒットとなりました。ラヴィン・スプーンフルは 、フォーク・ソングを演奏していたジョン・セバスチャンが、別のフォーク・グループに いたギタリストのザル・ヤコブスキーと出会い、ベースとドラムスを加えてバンド編成に なったグループです。彼らもバーズと同様に、”フォーク・ロック”の系譜に属するバン ドだと思いますが、面白いことにバーズの12弦ギターの使用にみられるような、ビートル ズをはじめとするイギリス勢の音楽の影響が《ドゥ・ユー・ビリーヴ・イン・マジック》 という曲からは殆ど感じられません。彼らは、どのようにして《ドゥ・ユー・ビリーヴ・ イン・マジック》に聴かれるフォーク・ロック・サウンドを獲得できたのでしょうか。 そこで浮かび上がるのが、スプリームズに代表されるモータウンのサウンドです。モータ ウンは、作家チームが書き下ろした楽曲を、専属バンド(メンバーは流動的)のファンク ・ブラザーズが演奏する形でレコードを制作していました。《ドゥ・ユー・ビリーヴ・イ ン・マジック》の作者であるセバスチャンは、マーサ&ザ・ヴァンデラスの《ヒート・ウ ェーヴ》のコード進行から《ドゥ・ユー・ビリーヴ・イン・マジック》のインスピレーシ ョンを得たような発言をしていた記憶がありますが、ぼくが《ドゥ・ユー・ビリーヴ・イ ン・マジック》を聴いて感じるのは、むしろスプリームズの《ホェア・ディド・アワー・ ラヴ・ゴー》です(ドラムスのフィルはソックリ)。ラヴィン・スプーンフルの《ドゥ・ ユー・ビリーヴ・イン・マジック》は、モータウンのヒット曲の雰囲気やサウンドをうま くバンド編成に当てはめたことで、成功した曲なののではないかと思うのです。