●ロックへの旅(第五章):アイ・ヒア・ア・シンフォニー
    (ザ・スプリームズ:1965)

1965年の夏、バーズの《ミスター・タンブリンマン》に始まる”フォーク・ロック”の台
頭(換言すればボブ・ディランの影響)は、ディランの曲をカヴァーしたグループ(ター
トルズやソニー&シェール)や、ディランのスタイルに影響を受けたグループ(ビートル
ズやローリング・ストーンズ)のみならず、以降のポップ・チャートに少なからず影響を
与えたのではないかと思われます。50年代末から60年代初頭のバブルガム・ポップのよう
な音楽がチャートから減っていき、攻撃的でプリミティヴなサウンドの曲が多くなってい
くのです。その象徴的な人物は、白人ではボブ・ディランであり、黒人ではジェームズ・
ブラウンではないかと思われます。ヒット・チャートにおける変化は、1964年の《ホェア
・ディド・アワー・ラヴ・ゴー(邦題:愛はどこへ行ったの)》から、5曲連続全米No.1
という偉業をなしとげたスプリームズにも及んだように思われるのです。

ローリング・ストーンズの《サティスファクション》が全米No.1を獲得した、1965年7月
にリリースされた《ナッシング・バット・ハートエイクス(邦題:悲しみがいっぱい)》
は、最高位11位という結果に終わってしまいます。1位を期待していたレコード会社は、
さぞ当惑したことでしょう。しかし、ここで終わらないのが、モータウン・レコード社長
のベリー・ゴーディ・Jrです。彼はすぐさまオフィス内に、「我々は、どのアーティス
トにもトップ・テン・シングルをリリースする、スプリームズはNo.1のみリリース」とい
うメモを回付します。自社のピンチに、現在でも経営に関するビジネス書に書かれるよう
な指針をすぐに社内に示していることからも、ゴーディが優れた経営感覚をもっていたが
わかります。そうして起死回生でモータウンが放ったのが、約半年ぶりのスプリームズの
全米No.1、《アイ・ヒア・ザ・シンフォニー(ひとりぼっちのシンフォニ)》です。

《アイ・ヒア・ザ・シンフォニー》は、出だしこそヴィブラフォーン、ベース、ドラムス
といういつものシンプルな編成ではじまりますが、すぐにストリングスやブラス・セクシ
ョンが入ってきて、これまでのスプリームズのヒット曲とは異なるテイストを持っている
ことがわかります。クラシックのピアノ・シンフォニーのように弾かれるピアノや、一段
と格調高くなったコーラスなども含め、これまでのポップなスプリームズから、ワン・ラ
ンク成長したような印象を受けるのです。個人的には、スプリームズの楽曲では、ベスト
3に入るできだと思っています。ゴーディ社長の意志を具現化した、プロダクション・チ
ーム(ホランド/ドジャー/ホランド)の見事な手腕といえるでしょう。ロックの時代に
あってスプリームズがヒットを飛ばし続けることができたのは、ゴーディの感覚とプロダ
クション・チームの見事な手腕によるバックアップがあったからではないかと思います。

《 I Hear a Symphony 》 ( The Supremes )
cover

The Supremes are
Diana Ross(lead-vo), Florence Ballard(vo), Mary Wilson(vo)

 
Written  by Brian Holland, Lamont Dozier & Eddie Holland
Produced by Brian Holland & Lamont Dozier
Recorded  : September 22, 28-30, 1965
Released  : October 6, 1965
Charts    : POP#1
Label     : Motown

Appears on : The Ultimate Collection
1.When the Lovelight Starts Shining Through His Eyes, 2. Where Did Our Love Go,
3.Baby Love, 4.Come See About Me, 5.Stop! In the Name of Love, 6.Back in My Arms Again,
7.Nothing but Heartaches, 8.I Hear a Symphony, 9.My World Is Empty Without You,
10.Love Is Like an Itching in My Heart, 11.You Can't Hurry Love, 12.You Keep Me Hangin' On,
13.Love Is Here and Now You're Gone, 14.Happening, 15.Reflections, 16.In and out of Love,
17.Forever Came Today, 18.Some Things You Never Get Used To, 19.Love Child,
20.I'm Livin' in Shame, 21.I'm Gonna Make You Love Me, 22.I'll Try Something New,
23.Composer, 24.No Matter What Sign You Are, 25.Someday We'll Be Together

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