●ロックへの旅（第五章）：ゲット・オフ・オブ・マイ・クラウド
    （ザ・ローリング・ストーンズ：1965）

1965年の11月、ようやくビートルズの名曲《イエスタディ》から全米No.1の座を奪ったの
は、《サティスファクション》で、ようやく人気に火がついた感のあるローリング・スト
ーンズの《ゲット・オフ・オブ・マイ・クラウド（邦題：一人ぼっちの世界）》でした。
歌詞を読むと、全米No.1になった《サティスファクション》による突然の成功によって、
大きな注目を浴びることになったことに対する、彼らのいらだちのような感情が感じられ
ます。いらだちの原因となる周囲の声を一蹴するような、”ドン・タン、ドン・タタ、ド
ン・タン、タタタタタッタ！”というオープニングのチャーリー・ワッツのドラムスが印
象的な曲です。しかし、ミックもキースもこの曲に対して好意的な発言をしていません。
ビートルズの傑作を蹴落として全米No.1になった曲だというのに、なぜなのでしょう。当
時の周囲の状況を見渡してみると、その理由が浮かび上がってくるような気がします。

当時のストーンズがレコーディングの拠点としていたのは、自国のイギリスよりもアメリ
カのロサンゼルスでした。そしてブリティッシュ・インヴェイジョンが一段落した1965年
当時のアメリカの音楽業界で、最も注目を集めている存在だったのは、ボブ・ディランの
存在だったと思われます。1965年の春のバーズによるディランのカヴァー《ミスター・タ
ンブリンマン》以降、ディランの楽曲は業界の注目を集めるトレンドのようになっていま
した。一方で、ディランの楽曲とパフォーマンス（とくに歌い方）は、ジョン・レノンが
ディランの歌い方に影響を受けた楽曲を何曲も発表しているように、当時の音楽をやって
いた人達にとって無視できないものだったようです。そして《ゲット・オフ・オブ・マイ
・クラウド》におけるミック・ジャガーのヴォーカルにも、明らかにボブ・ディランから
の影響を聴きとることができるのです。

《ゲット・オフ・オブ・マイ・クラウド》は、ヴォーカルだけではなく、コード進行も当
時のディランの最新ヒット《ライク・ア・ローリング・ストーン》のサビの部分とほぼ同
じです。ストーンズの面々は、1965年の７月にリリースされていたディランの最新ヒット
の《ライク・ア・ローリング・ストーン》を耳にして、その暴力的な音楽的表現に度肝を
抜かれたのではないでしょうか。成功のプレッシャーといら立ちの中で制作しなければな
らなかった《ゲット・オフ・オブ・マイ・クラウド》には、無意識に《ライク・ア・ロー
リング・ストーン》からの影響が強くでてしまったように思えるのです。そのため、作者
のミックとキースにとって、不本意なプロダクションと感じる曲になってしまったのでは
ないでしょうか。全米No.1の割に注目されない《ゲット・オフ・オブ・マイ・クラウド》
を聴くと、そんなことを思ってしまうのです。

《 Get Off Of My Cloud 》 (The Rolling Stones)

The Rolling Stones are Mick Jagger(vo,harmonica), Keith Richards(elg,back-vo), Brian Jones(elg), Charlie Watts(ds) & Bill Wyman(elb) Ian Stewart(p) Written by Mick Jagger, Keith Richards Produced by Andrew Loog Oldham Recorded : September 6-7, 1965, RCA Studios, Hollywood, California Released : September 25 , 1965 (US) October 22 , 1965 (UK) Charts : POP#1(US) Label : London 45-LON 9792 (US) 　　　　　　Decca F12252 (UK) Appears on :　December's Children (And Everybody's) 1.She Said Yeah, 2.Talkin' About You, 3.You Better Move On, 4.Look What You've Done, 5.The Singer, Not The Song, 6.Route 66, 7.Get Off Of My Cloud, 8.I'm Free, 9.As Tears Go By, 10.Gotta Get Away, 11.Blue Turns To Grey, 12.I'm Moving On,