●ロックへの旅（第五章）：イット・エイント・ミー・ベイブ
    （ザ・タートルズ：1965）

ボブ・ディランの楽曲で成功したグループは、バーズだけではありません。《イット・エ
イント・ミー・ベイブ（邦題：悲しきベイブ）》をカヴァーして全米８位のヒットをとば
したタートルズがいます。タートルズというと《ハッピー・トゥゲザー》が有名ですが、
成功への糸口はバーズと同様にディランの曲だったわけです。《イット・エイント・ミー
・ベイブ》がヒットした1965年の９月は、ディランの《ライク・ア・ローリング・ストー
ン》もヒットしていました。エレクトリック・サウンドを大胆に取り入れた1965年３月の
ディランの『ブリンギング・イット・オール・バック・ホーム』、６月のバーズの《ミス
ター・タンブリン・マン》の全米No.1、そして９月のディラン自身の《ライク・ア・ロー
リング・ストーン》にタートルズの《イット・エイント・ミー・ベイブ》と、1965年とい
う時代の一角には、明らかにディランの音楽が大きな位置を占めていたようです。

ヒット・チャート上でも、それだけディランの音楽が大きな位置を占めていたわけですか
ら、音楽業界やミュージシャン仲間でのディランの音楽への注目度は、音楽的にも商業的
にも非常に高かったと思われます。もともとはサーフ・バンドだったというタートルズの
ハワード・カイランも、ディランやバーズの音楽から大きな成功へのきっかけをもらった
ようです。バーズのシングルを聴いたカイランは、フォークとロックが融合された新しい
サウンドに未来へのカギを感じたそうです。カイランは、もともと高校時代の友人とフォ
ークも歌っていたらしく、さっそく自分達のバンドにフィットする曲を探しました。そし
て最終的にカイランが眼を付けたのが、ディランの４枚目のアルバム『アナザー・サイド
・オブ・ボブ・ディラン』の最後に収録されていた《イット・エイント・ミー・ベイブ》
だったようです。

《イット・エイント・ミー・ベイブ》は、「ノー、ノー、ノー」というあたりに、ブリテ
ィッシュ・インヴェイジョンの影響を感じさせる曲です。つまり、もともとポップなテイ
ストを持っていた曲ですが、カイランは見事なフォーク・ロックへと変身させています。
最後の”ノー、ノー、ノー”にむけ、リズムが”タンタンタンタン”となるアレンジは、
ローリング・ストーンズの《サティスファクション》を参考にしたのかと僕は思っていま
した。しかしカイランがアレンジのインスピレーションを得たのは、1964年の冬にヒット
したゾンビーズの《シーズ・ノット・ゼア》だそうです。確かに、歌い方や、１コーラス
の終わりに行くにしたがって盛り上げていく構成はソックリです。しかし、このアレンジ
によって、タートルズの《イット・エイント・ミー・ベイブ》も、バーズの《ミスター・
タンブリンマン》と双璧をなす、見事な同時代のカヴァー・バージョンになったのです。

《 It Ain't Me Babe 》( The Turtles )

The Turtles are Howard Kaylan(vo,key), Mark Volman(vo,g,elg), Al Nichol(elg) , Chuck Portz(elb) & Don Murray(ds) Written by Bob Dylan Produced by Bones Howe Recorded : 1965 Released : September, 1965 Charts : POP#8, Label : White Whale Appears on : Save the Turtles: Turtles Greatest Hits 1.Happy Together, 2.It Ain't Me Babe, 3 She'd Rather Be With Me, 4.You Baby 5.Elenore, 6.Let Me Be, 7.She's My Girl, 8.Outside Chance, 9.You Showed Me, 10.Can I Get To Know You Better, 11.Story Of Rock and Roll, 12.Love In The City, 13.Me About You, 14.You Don't Have To Walk In The Rain, 15.You Know What I Mean, 16.Sound Asleep, 17.Makin' My Mind Up, 18.Grim Reaper Of Love, 19.Guide For The Married Man, 20.Chevrolet Camaro Commercial