●ロックへの旅(第五章):ライク・ア・ローリング・ストーン
    (ボブ・ディラン:1965)

1978年にボブ・ディランが来日した際に、NHKテレビがディランの特集を組んだ。ディ
ラン自身を追った特集番組ではなく、作家の村上龍がリポーターとなって、ディランの来
日に絡めていろいろな人の意見を聞くというような内容だったと思う。面白かったのが、
ディラン自身はかつてのレパートリーをアレンジを全く変えて歌うという”歌手として歌
う楽しさ”を追求していた時期なのにもかかわらず(ラスベガスのショーのようだとも言
われた)、特集番組に登場した多くの著名人が、まだディランのことを「アメリカ・フォ
ーク界きっての反体制の旗手」のようなイメージで語っていたことだ。さすがに近年では
、幾人かの本物の音楽を愛する心あるかたが、正しいディランの音楽の聴き方を提示して
くれているが、それでもいまだに、ディランという人物には1978年当時と同じような誤解
やイメージがつきまとっているようなところがある。

いまだに”反体制の旗手”といったフィルターをとおしてディランを聴いている人々は、
《ライク・ア・ローリング・ストーン》を本当の意味で聴いたことがないのではないか。
《ライク・ア・ローリング・ストーン》ほど、暴力的なロックはないと僕は思う。暴力的
というのは、一部の似非パンク・ロッカーのような見せかけのものではない。その暴力性
は、現在ロックの代表とされているグループの、同時代の曲と比べたときにわかる。《ラ
イク・ア・ローリング・ストーン》と同じ頃のビートルズの最新ヒットは《ヘルプ》、ロ
ーリング・ストーンズは《サティスファクション》である。《ヘルプ》も《サティスファ
クション》も、女の子がキャーキャーと歓声をあげたり、ダンスに興じたりすることがで
きる。しかし《ライク・ア・ローリング・ストーン》は、曲自体がそういった”陽気な楽
しみ方”を拒否しているように思えるのである。そのような意味で暴力的なのだ。

この暴力的なロックが、ビートルズやローリング・ストーンズのようなパーマネントなグ
ループではなく、セッション・ミュージシャンによる一時的なスタジオ・セッションで生
み出されたということは奇跡のように思う。しかし、よくよく聴いてみるとバックの演奏
そのものが暴力的なわけではない。それどころか、たどたどしい部分さえある。それでも
《ライク・ア・ローリング・ストーン》が僕には70年代のパンク・ロックよりもはるかに
暴力的に聴こえる要因は唯一つ。ディランのヴォーカルに他ならない。聴き手に執拗に投
げつけられる「ハウ・ダズ・イット・フィール(どんな気がする?)」という部分が強烈
だ。ジョン・レノンやミック・ジャガーは、当時どんな気分でこの最高峰のロックを聴い
たのだろう。もし《ライク・ア・ローリング・ストーン》を本当の意味で聴いたことがな
ければ、それはロックを知らないのと同じだと思う。

《 Like Rolling Stone 》( Bob Dylan )
cover

Bob Dylan(vo,harmonica,g)

Michael Bloomfield(g), Al Kooper(org), Paul Griffin(p), Josef Macho Jr.(elb), Bobby Gregg(ds)

Written  by Bob Dylan
Produced by Tom Wilson
Recorded  : June 16, 1965
Released  : July 20, 1965
Charts    : POP#2
Label     : Columbia

Appears on :Highway 61 Revisited
1.Like A Rolling Stone, 2.Tombstone Blues,
3.It Takes A Lot To Laugh, It Takes A Train To Cry,
4.From A Buick 6, 5.Ballad Of A Thin Man
6.Queen Jane Approximately, 7.Highway 61 Revisited
8.Just Like Tom Thumb's Blues, 9.Desolation Row
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