●ロックへの旅：チェイン・ギャング
    （サム・クック：1960）

「ウッ、アッ」という印象的な掛け声ではじまるのが、ハンサムな黒人男性歌手のサム・
クックが歌った《チェイン・ギャング》です。この曲は、クックが大手レコード会社のＲ
ＣＡ（ＲＣＡにはプレスリーも所属していました）と契約後に出した最初のシングルで、
全米チャートの２位（ポップ・チャートとＲ＆Ｂの双方のクロスオーヴァー・ヒット）ま
であがりました。しかし、イントロはひじょうに変わっています。「ウッ、アッ」と暫く
続いたあとでクックが歌いすのですが、「アイ・ヒア・サムシン・セイイン（誰かがなに
か言っている）」とワン・フレーズだけ歌って、また暫く「ウッ、アッ」が続くのです。
キーン、キーンと鉄を打つような音も入っています。そしてドゥ・ワップ調のコーラスの
ベース・パートの人が「ウェル、ドント・ユー・ノウ（わからないのかい？）」と問いか
けると、クックはバック・コーラス隊と一緒に次のようなメインの歌詞を歌いだします。

「ザッツ・ザ・サウンド・オブ・ザ・メン・ワーキング・オン・ザ・チェイン・ギャング
（あれは、あの男たちが鎖につながれて働いている音だ）」。このコーラスは、数回繰り
返されています。《チェイン・ギャング》は、クックが自ら作詞・作曲をてがけているの
ですが、さて、ここで問題です。クックは、この曲で、どのような光景を歌っているので
しょうか。そして上の私の意訳では単に”あの男たち”と訳しましたが、”あの男たち”
「ザ・メン」とはいったい誰のことでしょうか。私の持っている日本版のクックのＣＤの
対訳は鎖でつながれた”囚人”としていますが、ここはやはりただの囚人ではなく、鎖で
つながれた”奴隷たち”のことを歌っているのではないでしょうか。この曲を創ったとき
にクックに見えていた光景は、アフリカから連れてこられた奴隷たちが、鎖につながれて
働く姿ではなかったかと想像します。

大手レコード会社のＲＣＡ移籍後の第一弾シングルとしては、かなり冒険した内容の曲だ
ったのではないかと思います。もともとゴスペル歌手だったクックは、世俗な内容（要す
るに恋愛）を歌うポピュラー歌手になったときも批判を浴びたといわれています。その世
俗な内容で成功していた（がゆえに大手のＲＣＡとも契約できた）にもかかわらず、また
また大きく異なる方向にクックは舵を切りました。そこには、１人の黒人としての強い思
いを伺うことができます。過去に路線を変えたときは批判を浴びたクックも、《チェイン
・ギャング》のときは全米中、しかも白人チャートでも黒人チャートでも大きな成功を収
めることができました。それはなぜなのかと考えたときに、やはりクックのいちばんの魅
力であるかろやかな声につきると思うのです。とくにラスト間際の「マイ、マイ、マイ」
と歌うところは空に舞い上がる鳥のようです。久しぶりに聴いて、涙がでました。ぜひ。

《 Chain Gang 》 ( Sam Cooke )

Sam Cooke(vo) Produced by : Hugo & Luigi Written by : Sam Cooke Recorded : January 25, 1960 Released : July 26, 1960 Charts : POP#2,R&B#2 Label : RCA Appears on :PORTRAIT OF A REGEND 1951-1964 1.Touch the Hem of His Garment,2.Lovable,3.You Send Me,4.Only Sixteen, 5.(I Love You) For Sentimental Reasons,6.Just for You,7.Win Your Love (For Me), 8.Everybody Loves to Cha Cha Cha,9.I'll Come Running Back to You, 10.You Were Made for Me,11.Sad Mood,12.Cupid,13.Wonderful World,14.Chain Gang, 15.Summertime,16.Little Red Rooster,17.Bring It on Home to Me, 18.Nothing Can Change This Love,19.Sugar Dumpling,20.(Ain't That) Good News, 21.Meet Me at Mary's Place,22.Twistin' the Night Away,23.Shake, 24.Tennessee Waltz,25.Another Saturday Night,26.Good Times,27.Having a Party, 28.That's Where It's At,29.A Change Is Gonna Come,30.Jesus Gave Me Water