ライチャス・ブラザーズは、1965年の全米チャートで3曲のトップ10ヒットをとばしてい ます。2月の全米No.1《ユーヴ・ロスト・ザット・ラヴィン・フィーリン》、5月の全米 9位の傑作《ジャスト・ワンス・イン・マイ・ライフ》、そして有名なビートルズのシェ ア・スタジアムでのコンサートの翌週の8月最後のチャートで4位に輝いたのが、日本で も有名な《アンチェインド・メロディ》です。ライチャス・ブラザーズを知らなくても、 この曲を日本で知っている人が多いのは、1990年の映画「ゴ―スト/ニューヨークの幻」 で使用されたからだと思われます。映画のなかで主人公の陶芸家が夜中にロクロを回して いると、やがて不慮の事故にあって幽霊になってしまう恋人が後ろから抱きついて、その まま二人のラヴ・シーンになるところで印象的に使われていた曲です。この曲を聴くと、 映画のラヴ・シーンを思い出してしまう人も多いのではないでしょうか。 映画のおかげで日本でも知名度の高い《アンチェインド・メロディ》ですが、もともとは 1955年の「アンチェイン」というアメリカ映画の主題曲です。創ったのはアレックス・ノ ースという作曲家で、彼の名前を知らなくても、彼が作曲を手掛けたスタンリー・キュー ヴリック監督でカーク・ダグラス主演の「スパルタカス」や、エリザベス・テイラー主演 の「クレオパトラ」といった映画は、テレビの洋画劇場などで観た人も多いのではないか と思います。歌ったのは、マイルス・デイヴィスやルイ・アームストロングが取り上げた ことによりジャズ・ファンならおそらく知らない人はいないガーシュインのフォーク・オ ペラ「ポーギーとベス」のオリジナル版でポーギーを演じたトッド・ダンカンという黒人 のオペラ歌手です。その後、デューク・エリントン楽団のヴォーカリストだった黒人歌手 のアル・ヒブラーがカヴァーして、全米チャートで3位にヒットさせています。 その後も様々な人がカヴァーしていますが、やはり白眉なのはライチャス・ブラザーズの カヴァーです。フィル・スペクターがプロデュースした先の2曲の1965年のトップ10ヒッ トでは、ビル・メドレーの低音ヴォーカルがフィーチャーされますが、《アンチェインド ・メロディ》ではボビー・ハットフィールドの高音ヴォーカルがフィーチャーされます。 なぜ成功した先のシングルと同じく、メドレーをフィーチャーしなかったのでしょうか。 じつは《アンチェインド・メロディ》は、アルバムからのシングル・カットで、驚くべき ことにB面の曲なのです。プロデューサーとしてスペクターの名がクレジットされていま すが、実質的なプロデュースはメドレーが行ったといいます。しかし、それでも全米4位 まであがったのは、ハットフィールドの素晴らしくエモーショナルなヴォーカルの力によ るものでしょう。サビの盛り上がり部分のヴォーカルは、それこそ白眉なのです。