●ロックへの旅：ワンダフル・ワールド
    （サム・クック：1960）

サム・クックというと、50周年を超過したロック史のなかでの評価は晩年の最高傑作とい
える《ア・チェンジ・イズ・ゴナ・カム》に落ち着いた感があります。オバマ大統領の就
任演説の中でもその歌詞が引用されたほどですから、現時点での評価としては決定的なも
のがあるといえます。確かに、《ア・チェンジ・イズ・ゴナ・カム》は素晴らしいです。
ぼく自身も、《ア・チェンジ・イズ・ゴナ・カム》を聴いていると、いつのまにか胸が熱
くなっている自分に気がつきます。しかし、サム・クックといえば、ゴスペル・カルテッ
トのソウル・スターラーズから独立してから大手のＲＣＡ（プレスリーが所属していた）
に移籍する前に歌った、数々のティーン・エイジ・ポップスの傑作を忘れるわけにはいき
ません。クックの歌ったティーン・エイジ・ポップスのなかで、最高傑作だとぼくが思う
のが、《ワンダフル・ワールド》です。

アコースティック・ギターのかろやかなイントロ（といえないようなイントロ）に導かれ
て《ワンダフル・ワールド》はスタートします。大手のＲＣＡに移ってからだったら、こ
うはいかなかったかもしれません。さりげないイントロが、曲によくマッチしています。
そしてソウル・スターラーズのリード・シンガーとして絶大な人気を誇った（だからポッ
プ歌手へと転身する道が開けた）クックが、まことにかろやかに歌い始めます。「ドンノ
・マッチァバァト・ヒストリー」、クック以外の誰が、こうもかろやかに歌うことができ
るでしょう。ソウル・ミュージックの世界では、音楽的にクックと師弟関係にあるともい
えるオーティス・レディングや、ハーマンズ・ハーミッツなどもカヴァーしていますが、
オリジナル・ヴァージョンの持っているさりげなさ、かろやかさには到底およばないので
す。そのかろやかさは、クック自身の歌の中でも群を抜いているのです。

はじめてぼくが《ワンダフル・ワールド》を聴いたのは高校生の頃でした。まだクックの
ことは、ほとんど何も知りませんでしたが、歌のかろやかさと歌詞の愛らしさが強く印象
に残ったことを覚えています。数多くいる黒人男性の歌手の中で、サム・クックの名が自
分のなかで特別な存在となったのは、間違いなくこの《ワンダフル・ワールド》を聴いた
ことによります。「歴史なんて興味がない、生物学なんてよくわからない（中略）だけど
君を君を愛していることはわかっているよ」というような意味をもつ愛らしい歌詞は、ま
さにティーン・エイジャーだったぼくの心をグっと捉えたのでした。もし、大人になった
いま現在で、はじめてこの歌を聴いたらどう思ったでしょう。でも、ぼくは確信していま
す。クックの素晴らしくかろやかな歌唱は、どんな年代の人が聴いても、心をグっと捉え
て離さないのに違いないと。

《 Wonderful World 》 ( Sam Cooke )

Sam Cooke(vo) Cliff White(g), Adolphus Asbrook(b), Ronald Selico(ds) & Lou Rawls(cho) Rene Hall(arr) Produced by : Sam Cooke Written by : Sam Cooke, Herb Alpert & Lou Adler Recorded : March 2, 1959 Released : April 14, 1960 Charts : POP#12,R&B#2 Label : Keen Appears on :PORTRAIT OF A REGEND 1951-1964 1.Touch the Hem of His Garment,2.Lovable,3.You Send Me,4.Only Sixteen, 5.(I Love You) For Sentimental Reasons,6.Just for You,7.Win Your Love (For Me), 8.Everybody Loves to Cha Cha Cha,9.I'll Come Running Back to You, 10.You Were Made for Me,11.Sad Mood,12.Cupid,13.Wonderful World,14.Chain Gang, 15.Summertime,16.Little Red Rooster,17.Bring It on Home to Me, 18.Nothing Can Change This Love,19.Sugar Dumpling,20.(Ain't That) Good News, 21.Meet Me at Mary's Place,22.Twistin' the Night Away,23.Shake, 24.Tennessee Waltz,25.Another Saturday Night,26.Good Times,27.Having a Party, 28.That's Where It's At,29.A Change Is Gonna Come,30.Jesus Gave Me Water