ビル・メドレーとボビー・ハットフィールドという2人の白人男性歌手からなるデュオと いえば、フィル・スペクターがプロデュースした全米No.1ヒット《ユーヴ・ロスト・ザッ ト・ラヴィン・フィーリン》で有名なライチャス・ブラザーズです。昨今では、《ユーヴ ・ロスト・ザット・ラヴィン・フィーリン》よりも、大ヒット映画「ゴ―スト/ニューヨ ークの幻」で多くの人が(ライチャス・ブラザーズが歌っているということを知らなくて も)聞いたことがある《アンチェインド・メロディ》のほうが有名かもしれません。しか し、ぼくが彼らの曲で一番感心してしまうのは、《ロコモーション》などのヒット曲で有 名な作家コンビのジェリー・ゴフィンとキャロル・キングが創り、前作の《ユーヴ・ロス ト・ザット・ラヴィン・フィーリン》に続いてフィル・スペクターがプロデュースを行っ た1965年の《ジャスト・ワンス・イン・マイ・ライフ》なのです。 何に感心するのかというと、なんといってもスペクターの創る物凄いサウンドです。《ジ ャスト・ワンス・イン・マイ・ライフ》という曲は、スペクター自身も作者としてクレジ ットされていますが、基本的にはゴフィン&キングらしい愛らしい曲です。作者のキャロ ル・キングが弾き語りで歌ったら、まったく違う表情の曲になるでしょう。それを、こう も見事にライチャス・ブラザーズのカラ―に合わせてしまうところが、まったくもって凄 いです。アレンジメントの話をしているのではありません。もちろんアレンジメントあっ てのことなのですが、ライチャス・ブラザーズのパフォーマンス(メイン・ヴォーカルの メドレーだけでなくハットフィールドも前作以上にソウルフルです)やミュージシャンの 演奏も含めて、とてつもないサウンド・カラーに仕立て上げてしまうというところに本当 に感心してしまうのです。 そしてそのサウンドの迫力は、いったい何人のミュージシャンが参加しているのかと確か めてみたくなるくらい物凄い音圧です。《ジャスト・ワンス・イン・マイ・ライフ》のサ ウンドや構成は、基本的に前作の《ユーヴ・ロスト・ザット・ラヴィン・フィーリン》を 踏襲しているのですが、サウンドの物凄さは確実に前作に勝っています。とくに曲をドラ イヴさせているドラムス(おそらくハル・ブレイン)が凄い。ブレインに代表されるレッ キング・クルーと呼ばれたスペクターお抱えの西海岸のセッション・ミュージシャンを中 心に、ストリングスとコーラスが加わる驚異的なサウンドは、スペクターのプロデュース 作品の中でもベスト3に入るとぼくは思っているのです(ちなみに、あとの2曲はクリス タルズの《ダ・ドゥ・ロン・ロン》と、アイク&ティナ・ターナーの《リヴァー・ディー プ・マウンテン・ハイ》でした)。