●ロックへの旅（第四章）：タイアード・オブ・ウェイティング・フォー・ユー
    （ザ・キンクス：1965）

ぼくはジャンルではなく、気に入った、もしくは気になったミュージシャンやグループを
中心に音楽を聴いてきました。そのため、自分のことを”ロックに詳しい人間”とは思っ
ていません。もちろん”ロックに詳しい人間”と思っていなくても、音楽に詳しくない人
に比べれば、多少はロックについて知っています。それではなぜ”ロックに詳しい人間”
だと思っていないのか。ロックに限らず、ジャズでもクラシックでもなんでもそうだと思
いますが、音楽ジャンルのうち”＊＊に詳しい人間”と自分で思うくらいの人であれば、
少なくともそのジャンルの主なミュージシャンやグループの作品は、全て聴いていて当然
だと思っています。しかしぼくは、冒頭に述べたような聴き方をしているため、そのジャ
ンルのなかで、それなりに名を知られているミュージシャンやグループであっても、ほと
んど作品を知らない、聴いたことがないという人が存在しているのです。

別にそのことは、恥ずかしいと思ってません。聴きたいという気持ちが起こらないミュー
ジシャンやグループの作品に無理に聞いてまで、いま現在、そのジャンルに詳しくなる必
要がないと思っています。本当に聴くべきミュージシャンやグループの作品は、必ず聴か
ざる得ないときがやってきます。かつてボブ・ディランが、ぼくにとってそのような存在
でした。自分のなかでの、ディランの音楽の位置づけが定まっていなかったのです。いま
は、ディランのほぼすべてを受け入れられるようになりました。”ボブ・ディランの創る
音楽に詳しい人間”にはなれたのではないかと思っています（ディランが”＊年＊月＊日
に何をした”というようなことに詳しいという意味ではありません、念のため）。そして
いまのぼくのなかで、かつてのディランのように位置づけが定まっていないのがキンクス
なのです。その定まりの悪さは、ディラン以上なのです。

《ユー・リアリー・ガット・ミー》は、文句なくカッコいい曲だと思います。ロック史的
にみても、時代を先取りしたリフを持つ曲だと思っています。キンクスは、《ユー・リア
リー・ガット・ミー》や、次の全米トップ10ヒット《オール・デイ・アンド・オール・オ
ブ・ザ・ナイト》のような曲ばかりであれば、《ユー・リアリー・ガット・ミー》だけ聴
けばいいバンドとして位置づけがぼくの中で明確になったと思っています。しかし、それ
を覆すのが、次の全米トップ10ヒット（全英ではNo.1）《タイアード・オブ・ウェイティ
ング・フォー・ユー》なのです。この曲は、ラーガ・ロックやフォーク・ロック的要素を
早くも感じさせます。そこに、キンクスの類まれな先取り感覚を感じてしまうのです。《
タイアード・オブ・ウェイティング・フォー・ユー》は、キンクスが「俺たちは《ユー・
リアリー・ガット・ミー》だけじゃねーぞ」と宣言しているように聴こえるのです。

《 Tired Of Waiting For You 》( The Kinks )

The Kinks are Ray Davies(vo,elg), Dave Davies(elg,cho), Pete Quaife(elb,cho) and Mick Avory(ds,per) Written by Ray Davies Produced by Shel Talmy Recorded : July, 1964 Released : August 4, 1964(UK) August 26, 1964(US) Charts : POP#7(US) Label : Pye Appears on : Kinda Kinks 1.Look For Me Baby, 2.Got My Feet On The Ground, 3.Nothin' In The World Can Stop Me Worryin' 'Bout That Girl, 4.Naggin' Woman, 5.Wonder Where My Baby Is Tonight, 6.Tired Of Waiting For You, 7.Dancing In The Streets, 8.Don't Ever Change, 9.Come On Now, 10.So Long, 11.You Shouldn't Be Sad, 12. Something Better Beginning + Bonus Tracks 13.Everybody's Gonna Be Happy, 14.Who'll Be The Next In Line, 15.Set Me Free, 16.I Need You, 17.See My Friends, 18.Never Meet A Girl Like You Before, 19.Wait Until The Summer Comes Along, 20.Such a Shame, 21.A Well Respected Man, 22.Don't You Fret, 23.I Go to Sleep