●ロックへの旅（第三章）：ノーウェア・トゥ・ラン
    （マーサ＆ザ・ヴァンデラス：1965）

ジュニア・ウォーカー＆ザ・オール・スターズの《ショット・ガン》と同じ時期に、もう
一つのモータウン系グループが全米チャートのトップ・テン圏内にヒットを飛ばしていま
した。マーサ＆ザ・ヴァンデラスの、全米チャート８位のヒット《ノーウェア・トゥ・ラ
ン》です。マーサ＆ザ・ヴァンデラスは、1964年の傑作シングル《ダンシング・イン・ザ
・ストリート》で全米トップ・テン・ヒットを飛ばしていました。《ノーウェア・トゥ・
ラン》も、《ダンシング・イン・ザ・ストリート》の延長線上にあるダンサンブルでパン
チの効いたシングルです。制作を担当したのは、スプリームズに提供した連続全米No.1ヒ
ットでモータウンという会社のサウンド・カラーと勢いを決定づけたといってもいい、ブ
ライアン・ホランド、ラモン・ドジャー、エディ・ホランドの、俗に”Ｈ＝Ｄ＝Ｈ”と呼
ばれる制作チームです。

実は”Ｈ＝Ｄ＝Ｈ”が制作を担当した《ノーウェア・トゥ・ラン》と《ダンシング・イン
・ザ・ストリート》の間には、《ワイルド・ワン》というシングルがありました。《ワイ
ルド・ワン》は、《ダンシング・イン・ザ・ストリート》と同じくウィリアム・”ミッキ
ー”・スティーヴンソンとアイヴォリー・ジョー・ハンターが制作を担当したシングルで
した。「《ダンシング・イン・ザ・ストリート》の成功よ、もう一度」という社内の期待
も当然あったでしょう。しかし《ワイルド・ワン》は、Ｒ＆Ｂチャートでは11位とそこそ
こ健闘しましたが、ポップ・チャートでは34位と振るいませんでした。同じ女性３人組の
スプリームスがポップ・チャートで連続して全米No.1を獲得しているのに「何が足りない
のだろう」とモータウンの経営陣は考えたに違いありません。このあたりがモータウンら
しいのですが、「だったら、成功しているチームに任せてみれば」となったのでしょう。

そのような制作背景が容易に想像できる《ノーウェア・トゥ・ラン》ですが、”Ｈ＝Ｄ＝
Ｈ”がとった手法も、スプリームズのようにカラフルでポップな楽曲を提供するのではな
く、《ダンシング・イン・ザ・ストリート》の流れをくむパンチの効いた強烈なリズムの
曲だというところが面白いところです。《ダンシング・イン・ザ・ストリート》と同様に
、コード・チェンジも殆どありません。じつに強烈なダンス・ナンバーです。ジェマーソ
ンのベースと打楽器だけになるブレイク部分などは、９０年代以降のドラムン・ベースを
思わせます。そして、なんといっても強烈なタンバリンとタイヤのスノウ・チェーン？に
よるパーカッシヴなアクセント。ここが聴きどころです。チェーンによる、アクセントは
アイヴォリー・ジョー・ハンターによるものだそうです。制作を変わられた悔しさを、た
たきつけていたのでしょうか。そんな姿を想像しながら聴くとと、面白いです。

《 Nowhere To Run 》( Martha And The Vandellas )

Martha & The Vandellas are Martha Reeves(lead vo), Betty Kelly(vo) and Rosalind Ashford(vo) The Funk Brothers Robert White(g), Eddie "Chank" Willis(g), Earl Van Dyke(elp), James Jamerson(b), Benny Benjamin(ds), Jack Ashford(per), Ivy Jo Hunter(snow chain) Horns Unknown(tp,ts,tb,bs) Written by Brian Holland, Lamont Dozier and Edward Holland,Jr. Produced by Lamont Dozier and Brian Holland Recorded : February 10, 1965 Released : October 21, 1964 Charts : POP#8,R&B#5 Label : Gordy Appears on :The Definitive Collection 1.Come and Get These Memories, 2.(Love Is Like A) Heat Wave, 3.Nowhere to Run, 4.In My Lonely Room, 5.Dancing in the Street, 6.Quicksand, 7.Love (Makes Me Do Foolish Things), 8.Live Wire, 9.I'm Ready for Love, 10.Love Like Yours (Don't Come Knocking Every Day), 11.Wild One, 12.Third Finger, Left Hand, 13.Honey Chile, 14.You've Been in Love Too Long, 15.Jimmy Mack, 16.Love Bug Leave My Heart Alone, 17.Bless You, 18.My Baby Loves Me