1965年にヒットした曲は、共通した特有の明るさのようなものがあるということは以前に 書きました。しかし社会情勢に眼をむけてみると、1965年はアメリカによるヴェトナムへ の干渉が本格的にはじまった年であり、同時に公民権や平和への運動が高まっていった年 でもありました。そのような社会情勢が、当時のアメリカの人々の心にどのように影響し ていたのかはわかりませんが、音楽業界の流れ、および当時ヒット・チャートを眺めると ほんの少し当時のアメリカの人々の心情が反映されているような気がします。公民権運動 やキング牧師の活動に呼応するかのように、黒人が立ち上げたレコード会社のモータウン からは次々とヒット曲が生まれ、人々がプロテスト・ソングの旗手として崇めていたボブ ・ディランの作品も様々なグループに取り上げられてチャートを飾るようになります。そ のような時代背景の中では、もはや明るいだけの曲は魅力的に響きません。 ジュニア・ウォーカー&ザ・オール・スターズの《ショットガン》は、そのような時代背 景の中のヒット曲です。制作したのはモータウンで、プロデュースは社長のベリー・ゴー ディー・Jrが自らかってでています。ゴーディーが制作に直接関わった曲は、モータウ ン特有の洗練(多くは作家チームのホランド、ドジャー&ホランドの手腕による)がなく 、かわりにファンキーで下品な匂いがプンプンしてくるのが面白いところです。ウォーカ ーは、歌も歌いますが、ワイルドなブロウで人気を集めたホンカ―の系列に入るサックス 奏者です。ロックというとギターを思い浮かべる人は多いと思いますが、ルーツにあたる R&Bではワイルド・ビル・ムーアの《ウィア・ゴナ・ロック、ウィア・ゴナ・ロール》 やハル・シンガーの《コーンブレッド》といったサックスのワイルドなブロウを聴かせる 曲が数多くありました。《ショットガン》も、その延長にある曲といえます。 《ショットガン》は、いわゆるワン・コードものと呼ばれるタイプの曲です。ワン・コー ドものというのは、一つのコードで延々と演奏するタイプの曲で、殆どはダンス・ナンバ ーです。”ブォォオオ”というファンク・トーンは、ジャズやジャンプ・ブルースの時代 から、ダンス・ナンバーで客の熱狂をあおるためのホンカ―の大事なテクニックでした。 ホンカ―の元祖といえるイリノイ・ジャケーやアール・ボスティック(ともにライオネル ・ハンプトン楽団で活躍したサックス奏者)からインスパイアを受けたというウォーカー のスタイルは、実にファンキーでソウル・フル。このため、ウォーカーの演奏する《ショ ットガン》を聴いていると、ジャズやジャンプ・ブルースといったロックンロールのルー ツにもあたるホンカーの系列が、ソウル、ファンク・ミュージックへと続いてくブラック ・ミュージックの広大な河の流れをついイメージしてしまうのです。