●ロックへの旅(第四章):ユーヴ・ロスト・ザット・ラヴィン・フィーリン
    (ザ・ライチャス・ブラザーズ:1965)

ビートルズ、それ以降の数々のイギリスのグループによるブリティッシュ・インヴェイジ
ョン、スプリームスとモータウン、ビーチ・ボーイズ、そしてボブ・ディラン。1964年の
アメリカの音楽業界を代表するようなこれらの動向を、”ビートルズ以前のヒット・チャ
ートの常連”だった人達はどのような思いでみていたのでしょうか。ことに、ヒット曲を
”歌う側”ではなく”作る側”にいた人達は、様々な思いを抱えていたことと思います。
”作る側”にいたうちの一人のフィル・スペクターは、ビートルズやローリング・ストー
ンズに何気なくすり寄っていました。しかし、彼らとの間には(まだ)自分の出番がない
と悟るや、意外なヒット曲でチャートに復活してきます。それがこのライチャス・ブラザ
ーズが歌った1965年の全米No.1ヒット(発売は1964年の暮れ)《ユーヴ・ロスト・ザット
・ラヴィン・フィーリン》です。

ライチャス・ブラザーズは、ビル・メドレーとボビー・ハットフィールドの2人の白人男
性歌手からなるデュオです。ブラザーズという名前がついていますが、本当の兄弟ではあ
りません。フィル・スペクターがプロデュースした《ユーヴ・ロスト・ザット・ラヴィン
・フィーリン》は、1964年を席捲したイギリスのビート・グループやポップなモータウン
のサウンドとは全くことなる曲調で、当時のヒット曲と並べて聴くとその差異は際立って
います。曲のスピードは、当時のイギリスのビート・グループが繰り出すヒット曲とは全
く異なるスローなテンポです。メイン・ヴォーカルのメドレーの声が低いので、よけいに
スローに聴こえます。そのメドレーも、「曲はあまりにスローだった」と後に語っていま
す。作者のバリー・マンでさえも、「テンポが間違っている」とスペクターに伝えたとい
う逸話が残っています。

しかし極端のテンポの違いが、この曲を当時の他のヒット曲から際立たせたことは間違い
ないでしょう。最大の聴きものは、やはりスペクターが施したウォール・オブ・サウンド
に負けないソウルフルなヴォーカル。メドレーの低音から曲はスタートし、「ベイビィ」
とシャウト気味に歌うところでベースがバリトンへと代わり、やがてハットフィールドと
(ソニー&シェールの)シェールが入ってきて豊かなテナーとバリトンのコーラスになる
ところはゾクゾクします。最大のキモは2分を過ぎたあたりの、メドレーとハットフィー
ルドのかけあいでしょう。「ベイビィ」、「ベイビィ」とソウルフルにシャウトする2人
の掛け合いは、当時のブラック・ミュージックでも(レコードのうえでは)おそらく聴く
ことができない画期的なものだったのではないでしょうか。このソウルフルな掛け合いは
、多くのロック・シンガーや黒人シンガーに影響をあたえたのではないかと思うのです。

《 You've Lost That Lovin' Feelin' 》( The Righteous Brothers )
cover

The Righteous Brothers are
Bill Medley & Bobby Hatfield


Written  by Phil Spector, Barry Mann & Cynthia Weil
Produced by Phil Spector
Recorded  : November-December, 1964
Released  : December, 1964
Charts    : POP#1
Label     : Philles(US)

Appears on :The Very Best Of The Righteous Brothers 
1.You've Lost That Lovin' Feelin', 2.Unchained Melody, 3.(You're My) Soul And Inspiration,
4.Ebb Tide, 5.Just Once In My Life, 6.White Cliffs Of Dover, 7. He, 8.Hung On You,
9.Little Latin Lupe Lu, 10.Go Ahead And Cry, 11.See That Girl, 12.On This Side Of Goodbye

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