●ロックへの旅（第四章）：ダウンタウン
    （ペトゥラ・クラーク：1965）

ブリティッシュ・インヴェイジョンはビートルズを筆頭にしたイギリスのグループによる
アメリカのヒット・チャート席捲を表す言葉ですが、《ダウンタウン（邦題：恋のダウン
タウン）》に始まった、イギリスの女性歌手ペトゥラ・クラークのチャート上での健闘も
、ブリティッシュ・インヴェイジョンのひとつと呼べるのではないかと思うのです。クラ
ークは、1964年の暮れにリリースされた《ダウンタウン》を皮切りに、なんと６曲もトッ
プ・テン・ヒットを放っています。そのうちの２曲、《ダウンタウン》と1966年１月にヒ
ットした《マイ・ラヴ》は、全米No.1を獲得しているのです。ロックの時代において、こ
の成績は立派ものだと思います。コニー・フランシスやペギー・マーチといった、50年代
から60年代初頭に活躍した多くの女性歌手が姿を消していくなかで、クラークがこれだけ
ヒットを飛ばすとは、おそらく本人も予測できなかったのではないかと思います。

1940年代から子役で活躍していたクラークの、60年代のアメリカでのヒット連発の皮切り
となったのが、1965年１月に全米チャートでNo.1を獲得した《ダウンタウン》です。この
曲は、ぼくのなかではマンフレッド・マンの《シャ・ラ・ラ》や、サーチャーズの《ラヴ
・ポーション・ナンバー・ナイン》と同様に、1965年という時代のヒット曲のコンレーシ
ョンに欠かせない曲なのです。曲調やサウンド・プロダクションは、フィル・スペクター
が50年代にソングライター・チームのジェフ・バリー＆エリー・グリーンウィッチと一緒
に創りあげたロネッツのサウンドを思い起こさせます。しかし、サウンドは決して50年代
のもの（もしくは物真似）ではなく、不思議なことに、確かに1965年という時代の持って
いる明るさをどこか感じさせるのです。その理由は、おそらくヴォーカルのクラークの歌
というよりも、バッキングのサウンドそのものにあると思っているのです。

ではいったい誰が《ダウンタウン》のバッキングのサウンドを創ったのでしょうか。その
張本人は、”イギリスのバート・バカラック”と言われるトニー・ハッチ。彼は《ダウン
タウン》の作曲やプロデュースのほか、前回紹介したサーチャーズのプロデューサーでも
あり、”フレッド・ナイチンゲール”のペン・ネームで《シュガー・アンド・スパイス》
といったヒット曲を同グループに提供しています。その他にもハッチは多才な人であった
らしく、彼名義のオーケストラでＴＶのテーマ音楽なども担当していたそうです。《ダウ
ンタウン》は、多才なハッチによるダイナミックなオーケストレーションが、クラークの
素晴らしい歌との相乗効果となって（特に最後の「ダァーン・タァーン」の繰り返しに絡
むドラムスとミュート・トランペットは見事です）、全米No.1でも文句のつけようがない
素晴らしい結果につながったのではないかと思うのです。

《 Downtown 》( Petula Clark )

Petula Clark Written by Tony Hatch Produced by Tony Hatch Recorded : 1964 Released : November, 1964 Charts : POP#1 Label : Pye(UK),WanerBros(US) Appears on :Then & Now: The Very Best of Petula Clark 1.Downtown, 2.Sailor, 3.I Couldn't Live Without Your Love, 4.This Is My Song, 5.Don't Sleep in the Subway, 6.I Know a Place, 7.Call Me, 8.With All My Heart, 9.Romeo, 10.You're the One, 11.My Love, 12.Who Am I, 13.Other Man's Grass Is Always Greener, 14.Kiss Me Goodbye, 15.People Get Ready, 16.Maybe I'm Amazed, 17.When You Get Right Down to It, 18.These Are the Days of Our Lives, 19.Memories of Love, 20.La Vie en Rose, 21.Come Along with Me, 22.Heaven's Door, 23.It's OK (I Believe in You), 24.To Memphis, 25.Corner of the Sky