●ロックへの旅(第三章):ア・チェンジ・イズ・ゴナ・カム
    (サム・クック:1964)

まずは、とりあえず曲を聴いてみましょう。空から少しづつ星が降ってくるように、スト
リングスによる静かなイントロが始まります。しかしイントロは、歌が始まる寸前で、こ
れから歌われるドラマティックな内容を暗示するかなような盛り上がりを見せます。盛り
上がりと共に、すかさず主役のクックが登場して歌い始めます。「アイ・ワズ・ボーン・
バイ・ザ・リヴァー・イン・ア・リトル・テント」、中学生レベルの英語ですが意味はわ
かりますでしょうか。この出だしの歌詞を聴いて、みなさんはどのような光景を頭に思い
浮かべますか。歌は続き、曲調は一度マイナーな暗い感じになりますが、ワン・コーラス
を結ぶ一節に入ると再び明るくなります。この一節は、オバマ大統領の演説にも一部が盛
り込まれた「イッツ・ビーン・ア・ロング、ロング・タイム・カミング、バット・アイ・
ノウ、チェンジ・ゴナ・カム、オー、イエス・イット・ウィル」というものです。

簡単に訳せば、「ずいぶんと長い時が経った、でも私は知っている、変化は訪れる、そう
必ず」てな感じでしょうか。オバマの演説では、確か「チェンジ・ハズ・カム(変化は訪
れた)」というように変えられていたと思います。そう、クックの《ア・チェンジ・イズ
・ゴナ・カム》がリリースされた1964年という時代では、黒人の大統領が誕生するなんて
信じられないことだったでしょう。しかし、前年のケネディ大統領による人種差別撤廃の
公民権法案提出(1964年成立)や、奴隷解放100周年を記念しての25万人によるワシ
ントン大行進などから、クックは変化の時が必ずくることを信じていたのだと思います。
《ア・チェンジ・イズ・ゴナ・カム》は、そのようなクックの思いが詰まったブラック・
ミュージック史上の傑作です。そのパフォーマンスは、なんとも形容しがたい内面から滲
みだしてくるような気迫に満ち溢れているのです。

だからぼくは、めったに《ア・チェンジ・イズ・ゴナ・カム》を聴くことはありません。
涙なしには、聴けないからです。歌詞の意味を知ってしまったからでしょうか。人種差別
的な箇所は、あからさまに歌詞にはでてきません。それでは何が涙腺を刺激するのでしょ
うか。これはもう、クックの歌しかないのです。とくにたまらなくなるのが、「映画を観
に行ったり、街に出ると、誰かに”このあたりをウロツクな”と言われる」という3コー
ラス目から続くサビです。歌の主人公は、自分のお兄さんのところにいって、街での不当
な扱いにたまらなくなり助けを請うのです。「ヘルプ・ミー、プリーズ」。この”プリー
ズ”の歌い方が、やりきれなさと、でもどうにかしたいという気持ちが入り混じった、実
に見事な表現なのです。クックの全生涯の気迫をそのパフォーマンスに封じ込めたような
《ア・チェンジ・イズ・ゴナ・カム》は、ポップス&洋楽ファンには必聴の曲なのです。

《 A Change Is Gonna Come 》( Sam Cooke )
cover

Sam Cooke(vo)

Instrumentation by Rene Hall (arrangement and conductor of orchestra), Earl Palmer (ds).

Produced by Hugo Peretti & Luigi Creatore
Written  by Sam Cooke
Recorded  : December 21, 1963
Released  : December 22, 1964
Charts    : POP#35, R&B#9
Label     : RCA Victor

Appears on : PORTRAIT OF A REGEND 1951-1964
1.Touch the Hem of His Garment, 2.Lovable, 3.You Send Me, 4.Only Sixteen, 
5.(I Love You) For Sentimental Reasons, 6.Just for You, 7.Win Your Love (For Me),
8.Everybody Loves to Cha Cha Cha, 9.I'll Come Running Back to You,
10.You Were Made for Me, 11.Sad Mood, 12.Cupid, 13.Wonderful World, 14.Chain Gang,
15.Summertime, 16.Little Red Rooster, 17.Bring It on Home to Me,
18.Nothing Can Change This Love, 19.Sugar Dumpling, 20.(Ain't That) Good News,
21.Meet Me at Mary's Place, 22.Twistin' the Night Away, 23.Shake,
24.Tennessee Waltz, 25.Another Saturday Night, 26.Good Times, 27.Having a Party,
28.That's Where It's At, 29.A Change Is Gonna Come, 30.Jesus Gave Me Water
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