ビートルズが《アイ・ウォント・トゥ・ホールド・ユア・ハンド》によってロックンロー ルからロックへと続く扉をあけてから、すでに半年以上が経ちました。のちにライバル視 されるローリング・ストーンズは、なにをやっていたのでしょう。彼らも、別にサボッて いたわけではありません。ビートルズ訪米以降のブリティシュ・インベイジョンの余波に 乗り遅れまいと、全米トップ40圏内に2枚のシングル《テル・ミー》と《イッツ・オール ・オーヴァー・ナウ》を送っています。しかし、全米チャートNo.1を獲得したデイヴ・ク ラーク・ファイヴやアニマルズに比べると、決定的な何かにかけるような中途半端な印象 を受けます。しかしストーンズも、秋が深まる頃にようやくトップ10圏内へのシングル・ ヒットを放ちます。そのストーンズ最初の全米トップ10ヒットとなった曲が、《タイム・ イズ・オン・マイ・サイド》です。 「タァーアーア、アー」と始まるこの曲は、見事にストーンズにフィットしています。あ まりにもピッタリなのでストーンズのオリジナルだと思ってしまいますが、作ったのはノ ーマン・ミードという人物です。実はこの人はジャニス・ジョップリンが歌った《クライ ・ベイビー》(名曲!)、ロレイン・エリソンの《ステイ・ウィズ・ミー》を作ったジェ リー・ラゴヴォイという人と同一人物なのです。しかも《タイム・イズ・オン・マイ・サ イド》はストーンズ用に書かれたというわけではなく、オリジナルはジャズの有名なトロ ンボーン奏者カイ・ウィンディングによるインストルメンタル演奏なのです。ストーンズ がカヴァーしたのは、ニューオーリンズの黒人女性歌手アーマ・トーマスが自身のシング ル盤のB面用にカヴァーしたヴァージョンで、ジミヘンの怪しげな渡米前のセッションに 顔を出すシミー・ノーマンという人が新たに歌詞をつけ加えたものでした。 オリジナルはジャズのインストゥルメンタル、カヴァー元は女性シンガーのシングルのB 面となれば、《タイム・イズ・オン・マイ・サイド》はもはやストーンズのオリジナルと いっても良いでしょう。《タイム・イズ・オン・マイ・サイド》はストーンズによって磨 かれ、その結果、彼らの代表曲のひとつにまで上り詰めたのだと思います。しかし、全米 トップ10ヒットとなったUSシングル・ヴァージョンは良いできではありません。オルガ ン・イントロ・ヴァージョンと言われるヴァージョンですが、タンバリンのリズムがずれ たり、コーラスが少し調子はずれだったり、演奏の粗さが目立つのです。とはいえ、スト ーンズが自らのバンドを代表するような曲に出あえたことは、間違いないでしょう。スト ーンズの《タイム・イズ・オン・マイ・サイド》のUSシングル・ヴァージョンが伝える のは、「演奏は粗いのだけど、なんかイイんだよねー」という未知の可能性なのです。