●ロックへの旅(第三章):ホェン・アイ・グロウ・アップ
    (ザ・ビーチ・ボーイズ:1964)

「なんという切ないヒット曲なのでしょう」、そんなふうについ思ってしまうのが、ビー
チ・ボーイズの1964年のシングル《ホェン・アイ・グロウ・アップ(原題はさらに、トゥ
・ビー・ア・マンと続きます)(邦題:パンチで行こう)》です。これまで何度も書いてき
ているとおり、1964年はビートルズを始めとするイギリスのグループによるアメリカのヒ
ット・チャートへの猛攻が始まった年。《ホェン・アイ・グロウ・アップ》は、その真っ
只中で発売された、ビーチ・ボーイズの1964年における3枚目のシングルなのです。前作
が全米No.1を獲得した傑作《アイ・ゲット・アラウンド》だというのに、それに続くシン
グルがこんなに切ない曲でいいのかと思ってしまうほどです。それにしても日本のレコー
ド会社も、よくこんなにも切ない曲に”パンチで行こう”なんて邦題を付けられたものだ
と少々あきれてしまいます。

はじめて《ホェン・アイ・グロウ・アップ》に接した頃は、その気持ちが”切なさ”なの
かなんなのか、正直よくわかりませんでした。初めてこの曲を聴いたのは『メイド・イン
・USA』というベスト盤だったと思いますが、その時点では、それまでの曲とは異なる
サウンドに「雰囲気が少し違うなぁ」ぐらいに思っていただけでした。しかし繰り返し聴
いていると、それまでのヒット曲とは異なる雰囲気が、自分に切ない気分をもたらすもの
なのだと気がついたのです。とくにハープシコードとハーモニカ、ファルセット・ヴォー
カル、およびファルセットで歌われる部分のメロディ。この3つが、たまららなく切ない
のです。あとで歌詞の意味を知って「大人になることへの不安を歌っているから、このよ
うな切ないサウンドを創ったのか」と納得しましたが、歌詞を知る前でも、《ホェン・ア
イ・グロウ・アップ》からは十分に切なさが伝わってきていたのです。

そんなサウンドを創ってしまうというところが、ビーチ・ボーイズのリーダーのブライア
ン・ウィルソンの凄さです。年齢がひとつづつあがっていくコーラスのアイディアを思い
ついた瞬間に、おそらく曲はアップテンポに決まったのでしょう。しかしアップテンポの
ロックンロール・サウンドでは、大人になる不安を歌うのには不十分だった。その答えの
ひとつとしてハープシコードに辿り着くのが、ブライアンの凄いところなのです。では、
どこから彼はこの楽器を思いついたのか。そこで思い当たるのが、この曲が録音された数
日前に全米No.1を獲得したビートルズの《ア・ハード・デイズ・ナイト》です。ぼくには
《ア・ハード・デイズ・ナイト》の最後の繰り返し部分が、《ホェン・アイ・グロウ・ア
ップ》のハープシコードに連なって聴こえるのです。もちろん推測にすぎませんが、そん
なことをあれこれと考えることができるのも、ロックへの旅の醍醐味のひとつなのです。

《 When I Grow Up (To Be a Man) 》( The Beach Boys )
cover

The Beach Boys are
Brian Wilson(vo,p,harpsichord,arr), Mike Love(vo,cho), Dennis Wilson(ds,cho), 
Carl Wilson(elg,cho), Al Jardine(elb,cho)

Carrol Lewis (harmonica)

Written  by Brian Wilson & Mike Love
Produced by Brian Wilson
Recorded  : August 5 & 10, 1964
Released  : August 24, 1964
Charts    : POP#9
Label     : Capitol

Appears on :Today!/Summer Days (And Summer Nights!!) (2in1)
『Today!』
1.Do You Wanna Dance, 2.Good to My Baby, 3.Don't Hurt My Little Sister,  
4.When I Grow Up (To Be a Man) , 5.Help Me, Ronda, 6.Dance, Dance, Dance,
7.Please Let Me Wonder, 8.I'm So Young, 9.Kiss Me Baby,  
10.She Knows Me Too Well, 11.In the Back of My Mind, 
12.Bull Session with "Big Daddy"  

『Summer Days (And Summer Nights!!)』
14.Amusement Parks, U.S.A., 15.Then I Kissed Her, 16.Salt Lake City,  
17.Girl Don't Tell Me, 18.Help Me, Rhonda, 19.California Girls, 
20.Let Him Run Wild, 21.You're So Good to Me, 22.Summer Means New Love,  
23.I'm Bugged at My Ol' Man, 24.And Your Dream Comes True

+ bpnus tracks
  
25.Little Girl I Once Knew, 26.Dance, Dance, Dance [Alternate Take],
27.I'm So Young [Alternate Take], 28.Let Him Run Wild [Alternate Take],
29.Graduation Day [Studio Version]  
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